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1.休みの日はキャンプだね

プロローグ


「本当に向かわれるのですか?」

 背中から鳥の翼が生えた有翼族の族長が心から俺たちを案じている。

 対する俺、長船新(おさふね あらた)は右手をあげ、問題ないよ、と二カッと白い歯を見せた。

「危なそうなら戻ってきますよ」

 向かう先は秘境の中の秘境、天空の湖である。切り立った崖を進んだ先にある伝説の湖なのだと言う。

 その美しさは言葉では表現しきれないほどで、最も美しい絵画のような湖とかなんとか。

 そんな湖の情報を聞いて行かないって選択肢はないぜ。なあに、俺には超性能のキャンプグッズがついている。

 それに――。

「アラタ様が行くならわたしも行きます!」

「にゃーん」

 ウサギ耳の女の子キララとでっかい白猫のニャーンという心強い仲間たちもいるからさ。

 

 天空の湖へ向かいはじめてすぐに濃い霧が辺りに立ち込めてきた。既に歩くのが困難となっていて、両手を使ってなんとか進んでいるというのに、濃霧ときたか。

「聞いていたより、霧が酷いな。まるで前が見えない」

「進むのは無理ですよお」

 キララが涙目で発言しているのだろうけど、腕が触れるくらいの距離にいる彼女の顔さえ濃霧で見えない。

 もちろん、自分の足元さえ見えない状況のため、真っ暗闇の中を歩いているのと早々変わらない状況だ。この霧では飛行することができる有翼族でも進むことができないってのも頷ける。

 こんな時には超高性能……別名チートな道具の登場だ。取り出したるはシュノーケリング用のゴーグルである。俺の趣味はキャンプと釣りでさ。ゴーグルがあると砂ぼこりが酷い時にも使えて何かと便利で持ち歩いていた。

 こいつは俺が転移した際にチート化しており、物は試しだ。ゴーグルを装着っと。

「おお、見える見える。霧の影響なしだ。キララも付けて」

「は、はいい。見えます!」

 ウサギ耳をピンと立てて、驚きから尻もちをつきそうになるキララを支える。

 チート化したゴーグルはシュノーケリング用にもかかわらず、まるで暗視スコープかのように霧の中でも周囲の景色がハッキリ見えたのだ。

「ゴーグルはまだあるけど、ニャーンはさすがに装着できないよな」

「にゃおん」

 俺は問題ない、とばかりに尻尾を振り、首を下げ、前足を折り曲げるニャーン。 

「乗って大丈夫なの?」

 俺の言葉に対し、彼がふんふんと頷き、早くと尻尾で俺の肩を叩く。

 周辺の警戒もしたいのでゴーグルを装着したまま、キララの手を引いて彼女を先にニャーンに乗せ、俺が続く。

 ニャーンは長毛種の白猫そっくりの姿をしているが、ポニーほどの大きさがある。でっかいだけじゃなく、どんな悪路でも俺たちを乗せ走ってくれるすごい幻獣? なのだ。

 その証拠に俺とキララを乗せたニャーンは、一寸先も見えぬ濃霧の中、迷うことなく駆け始めた。もっとも、今の俺とキララは彼と同じくらいかそれ以上にハッキリと景色が見えている。もし、危険な猛獣を見かけたらニャーンに知らせるようにしよう。

 

 ニャーンに乗ってしばらく、ゴツゴツした岩肌しか見えない景色が急に開けたものに変わる。

 そこには、さざ波うつ広大な湖が視界いっぱいに飛び込んできた。

 綺麗な景色に思わずゴーグルを外すと、濃霧がないことに気が付く。

「湖のあるところまでは霧が広がっていないんだな」

「絵のような風景ですね!」

 ピコピコとウサギ耳を動かしながら、キララが湖岸の前でしゃがみ込む。

 彼女に続いて湖を間近で覗き込むと、透明度に目を見張る。これほど透明できらきらした水をかつて見たことがない。

 さすが異世界の絶景だぜ。

 と感動していたら、ニャーンがのんびりとした声で鳴く。

「にゃおーん」

 のんびりした声と侮るなかれ、ニャーンは無意味に鳴くような猫ではないのだ。

「キララ、念のため避難しよう」

 彼女にそう告げ、ポップアップテントをポーチから取り出し、ぽいっと投げる。

 着地したポップアップテントがひとりでに開き、形を整えた。この間、僅か2秒。

 急ぎポップアップテントの中へ駆け込み、ニャーンと同じくらいか彼より小さなポップアップテントであったが、彼が入口に頭を突っ込むと彼もまたポップアップテントの中に入ることができるという謎仕様のポップアップテントなのである。

 最初はチート化したものの見た目通りのポップアップテント内空間だったのだが、レベルアップすることで中は15畳ほどの広さになり、高さに至っては2メートルほどとポップアップテント内は異空間のようになっていた。

 ポップアップテント内空間の構造変化に合わせ、中から外を見る窓もあり、ポップアップテント内にいても外の様子がハッキリと窺うことができる。

「何事もなければいいんだけど……え、えええ」

 俺の叫び声にキララも窓を覗き込む。

 外はトビウオのような魚の群れが空を飛び、湖に向かって落ちて行っていた!

「どうなってんだ。あれ……」

「渡り魚……だと思います。先代の村長から聞いたことがあります!」

 ふええ、渡り鳥ならぬ渡り魚とは驚いた。

 詳細を確認しようと望遠鏡を使って渡り魚たちを眺めてみる。

「渡り魚の羽って透明で硬質ぽく見える。触れてみないとハッキリとは言えないけど、あれ村で使えるんじゃないかな?」

「確かに! 有翼族の村長さんがおっしゃっていた素材に合致するかもです!」

 よおし、渡り魚を釣ってみよう。

 しかし、三か月前はまさかこんなことになるなんて思いもしなかった。有給をとって荒んだ心を癒すため一人キャンプに繰り出したら異世界に転移していたんだよな。チート化したキャンプグッズを持って。

 そう、あの日は待ちに待ったソロキャンプを楽しんでいたんだ。


よろしくお願いします!

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