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宇宙最高ブラディ・オン  作者: 蟹谷梅次
第1章 何も壊せぬ戦斗機
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第8話 こころの傷あと

 一〇三年、五月七日。


「あっ、ドーナツ見えましたよ、サブローさん」


 スペースピードのブラディ・オン形態である全力展開スペースピードの攻撃性能についていろいろと手続きがかかってしまい、一年ほど費やしてしまった。


 レビア艦長は「こればかりは特権勲章つかえないよ」と口うるさくいうし、ガラーキーすら「申請してない機能はダメですよ」と言うので、サブローは拗ねた。


 ビリーは「申請し忘れてたんだろうな」と察した。


 ガラーキーの声で、簡易ベッドから起き上がる。


 サブローは寝癖を直そうともせず、「交代する」と言うと、シートに腰を下ろした。


 わずかに痛い。


「ガラーキー、そろそろあのバカ起こしてきてくれ」

「わかりました。髪、寝癖ありますよ」

「ン? ああ、こりゃどうも」


 まだそこにいろ、と。


 サブローは小型の冷蔵庫から缶のコーヒーを出すと港口にスペースピードをとめた。


「その船本物か!?」

「そうだよ」

「やっべー! 異端児じゃん! 私、飛ばせる!?」


 港で酒を飲んでいた小太りの陽気な女性をスイスイと飛ばした。


「観光船って今何処かわかります!?」

「アハハ‥‥‥ワハ‥‥‥それなら、キャハハ‥‥‥いまは、たぶん第六区のほうにいるかも! あーおもしろい、飛ぶのたのしい」

「どうもありがとう、お酒控えなよお嬢さん」

「アハハ‥‥‥考えておくよ」


 ドーナツはぐるっと時計回りに第一区、第二区、第三区‥‥‥というように続いており、港口右に進めば第一区、左に進めば第十区というように進むことができる。


「歩いていくにしては遠くない? 車かさあ、あっ、オート借りようぜ」

「歩いたほうが個人的にはいいんだけれど‥‥‥まぁ、確かにな。観光船って言えばクソみたいに遅いものな‥‥‥マシンデッキ行くぞ」

「マシンデッキ? なぜ?」

「マシンがあるからさ」


 マシンデッキへ上がる昇降機に乗り込む。


「戦闘機で行くの? 市街地はダメっつってんじゃん」

「俺がそんなにファイター好きに見えるか?」

「大好きだろ」


 マシンデッキの小さな鉄扉を開け、中に入る。


 普段は背景になっているようなシャッターの横の、普段は背景になっているような赤いスイッチを押すと、それが姿を現す。


「すっげー!」

「ふふん」

「地球の‥‥‥日本のですね」

「七十年代のな、乗り物のデザインっての、この頃が一番えっちだった」

「ちょっとわかるなぁ」


 ビリーはオートバイクに乗っかった。


「じゃあ、行こうでない」


 三人は反時計回りに観光船を迎えた。


 一時停船所につくと、操縦席にいたのは、まったくわからん男であったので、ビリーは驚いた。


「ディール? ああ、そりゃあ今日は公休なんだよ、すまんなあ。あいつに客人なんて珍しいな。なんだい?」

「‥‥‥ねぇ、君。あいつの家っての、何処かな‥‥‥」

「ああ、それなら‥‥‥」


 サブローとビリーはソラフネ・マンションへ、ガラーキーは傭兵四人を雇って、ベラル・ディール探しにマンション近くの街へ。


「このクソみてぇなマスクをかぶった人を見つけてくださったら、前分の五万リデに加えて、八万」

「つまり、見つけりゃ十三万じゃねぇかよ、エェ!?十三万あったらさぁ、新しいガンもブレードも買えるぜ」

「俺、俺、欲しい倉庫あるんだ」

「前払いでも五万だしな! 異端児ってやっぱ儲けてんだな。まかせなよ、ロチャンカの姉ちゃん、俺たち異端児の熱狂的なマニアなんだ!」


 捜索はそうして始まった。


 五人ががりで探しはしたものの、普段のベラル・ディールの情報は集まりはするけれど、本人はどうも見つからない。


 ガラーキーはその集まった情報を訝しむ。


 誰にでも優しくて子供好き、面倒見が良くて、賭場でカードをするのに凝って借金が増えた奴の為に半額払ってやって、仕事がなかったようなので職場を案内してやったこともあったそうだ。


 《サブローさんの言うような、ひどい人ではないように見える‥‥‥》


 傭兵の一人が「寄生虫の本をよく買っていったそうだ」と本屋の店主から聞いた話をガラーキーに教えた。


「煙草よろしくて?」

「ああ、どうぞ」


 額に緑色の瞳を持つ赤色皮膚が特徴的なダンポレ星人の傭兵──キバン・デイが煙草を吸いながら、言う。


「資材屋で縄を買っていたってよ。どう思うか?」


 キバンは胸ポケットの手帳を取り出し、購入記録をガラーキーに見せた。寄生虫に関する本、鎮痛剤、目薬、喉薬、縄。


「‥‥‥‥‥‥」


 ガラーキーの中で、脳みそが一回転するような直感がはしる。


「まさか」


 管理人にサブローの特権勲章を見せると、ベラル・ディールの部屋を快く案内してもらえた。


 お礼にサインを欲しがっていたので、懐を弄って入っていた封筒にサインをして渡し、「孫に自慢できる」と喜ぶ管理人を尻目に、その部屋に向かった。


 貰った合鍵で部屋に入ると、異臭が立ち込めている。


 首を吊っていた。


「‥‥‥はぁ‥‥‥?」


 ビリーは隣のサブローの反応を見た。


 鉄仮面は床に落ち、コンクリートの床には、正体不明の悪臭を放つ体液が転がっていた。


 ビリーはすぐに宇宙連邦に通信をかけて、ベラル・ディールの死を通報した。


 サブローは壁をドン、ドン、ドン、と叩きながらその死体を見ていたが、しばらくして「降ろすの!」と叫ぶと、ハッとして遺体を宇宙粒子を使ってベッドに降ろした。


 鑑識の結果、ベラル・ディールは去年の十一月三日──つまり、サブロー二十歳の誕生日に、死んでいたことが分かった。


「しかしよぉ、俺、昨日あいつと喋ったぜ!」

「フルフェイスだから、わからんのだろうな‥‥‥声も似せられるやつはいる。‥‥‥なにがどうして‥‥‥?」


 キバンはスペースピードの外側装甲に背中をついて火のない煙草を咥えるサブローを見つけると、近寄っていった。


「恩人か?」

「いや‥‥‥」

「じゃあ、親の仇だ」

「何故分かる」

「こんな時代だぜ、よくある話だろ」


 あってたまるか、とサブローは口の中で言葉を転がすしかなかった。キバンは「宇宙連邦のれんじゅうから渡されてきた」らしい小さな箱をサブローに渡した。


 そのなかには日記が入っていた。





 宇宙に出て‥‥‥初めて出会った人間は彼だった。


 〝稲妻〟滝哲次。


 彼は遠い星の人間に「乱暴」をされそうになっていたベラル・ディールを救ってくれた。


 彼には返しきれない恩がある。


 優しい‥‥‥男であったから。


 彼は、ベラル・ディールがカーバリアの操舵手になるという話を聞くと、自分のことのように喜んでくれた。


 彼は恩人だった‥‥‥。


 大勢の人にとって、そしてなによりベラル・ディールにとって。


 ベラル・ディールのなかで、滝哲次という男のことがどんどんと大きくなっていくのを感じていた。


 恩だとか、そういうのを逸脱した感情だった。


 その感情に戸惑っている内に、滝哲次は嫁を見つけた。


 娘ができた時、吹っ切ったように、その娘を可愛がった。


 自分の妹のように、自分の娘のように可愛がって、勉強を教えたし一緒に遊んだりしたし、玩具が壊れたときは直してやった。


 滝哲次の妻はとてもおおらかで、そして強かな女性だった。


 どうやら昔からの付き合いらしく、幼馴染というやつらしい。


 長らくくすぶっているだけの関係だったけれど、同窓会で一緒に酒を飲んだのをきっかけにして、交際を始めて、そして結婚に至ったのだという。


 二人のことをベラル・ディールは大切に思った。


「こんなに尊いひとたちはいない!」‥‥‥そう思った。


 ある日のことだった。


 副総舵手がいらんところで加速装置をつけたので、カーバリアが事故を起こし、その影響で目と呼吸器をやられた。


 滝優子は親のつてを使って、ベラル・ディールに鉄仮面を渡した。


 ベラル・ディールは滝優子のことも大切に思った。


 なによりも尊い夫婦である、と。


 息子の三郎が生まれると、やはりいい遊び相手だった。


 三郎はとても陽気で、ずっと喋りっぱなし笑いっぱなしで、すぐに喉が渇いてしまうような子供だった。


 そしてよく転ぶ子供だった。


 姉の三子は落ち着いた性格をしているので、「にていないな」と不思議に思いながらも可愛くて仕方がなかった。


 鉄仮面をした自分を怖がりもせず、「昔の、フランスに、そういうヘルメットの人がいたんだよ」と嬉々としてその話をしてくれた。


 昔趣味と言われるかもしれないが、お気に入りのアーティストである。


 思い出は、滝家とともにあった。


 しかし、ある日、地球に寄生生物が降り立った。


 〝稲妻〟に用があるといい、眠っている哲次に寄生し、肉体を奪った。一家はすぐに地獄と化した。


 妊婦だった優子は必死に逃げながらまだ生きている哲次の部屋に向かうと、鍵を閉めて、そこで力尽きた。


 三子は哲次の頭突きで顔を壊してしまい、副次的に死んだ。


 哲次は泣きながら「三郎、逃げてくれ」と呟いていた。


 優子は死ぬ直前、ベラル・ディールに「きて」とだけ連絡をした。


 ベラル・ディールは異変を感じて、すぐにアパートから飛び出した。


 到着する頃には、哲次は家中を這うようにして歩きながら、「三郎、にげろ、にげてくれ」と泣いていた。


 ベラル・ディールは「寄生されたのだ」と直感した。


「身体が止まらない、もう除去できないほどに、染み付いた、から、殺してくれ、殺してくれ、ディール」


 殺した。


 雨の音がつよい夜。


 家の中は血だらけで、三子の遺体を、父親の直ぐ側に置いて。


「優子さんは何処だ」と考えていた最中、階段から降りてくる三郎と目があった。


 胸に潰れた赤子を持って。


 その瞬間、周囲が黒い宇宙粒子に包まれた。


 黄色と赤の稲妻がはしり‥‥‥三郎は、その粒子のなかで怒りのままにベラル・ディールを睨めつけた。


 ベラル・ディールは「その方がいい」と考え、わざと自分が家族の仇になることにした。


「父親が寄生虫のせいで家族を無残に殺しました」では、それでは三郎の感情が救われない。


「どうして殺した」


 三郎の言葉はいつものようなキャッキャという声ではなく、酷く震えた唸るような声だった。


「みんな、おまえのこともう一人の家族だと思ってたのに」


 怒りのあまり、生体電気が強く走った。


 そして、倒れる。


 記憶障害がのこったらしい。


 三郎はベラル・ディールという男のことを、記憶から完全に消去し、「鉄仮面の男」という情報のみでベラル・ディールを憶えた。


 親の仇、姉の仇。


 暗黒の時が始まった。


 ベラル・ディールは三郎を見守っていたかったが、「家族殺し」に愛感情を抱かれるのは、三郎からしたら相当な屈辱だろうと、ベラル・ディールは地球をあとにした。


 強い子になってほしい。


 人の痛みのわかる、優しい子に。


 ずっとずっと愛してる。


 もう一人の家族だった頃と同じ気持ちで、〝異端児〟になったとしても、「そそっかしい少年」として。



 〝愛している〟


 〝哲次さんと優子さんの愛した子供、三子ちゃんの弟〟


 〝滝三郎〟


 〝この先どんな奴が君の敵だろうと〟


 〝愛してる〟


 〝光年超えても愛してる〟





 煙草はからかった。


 記憶が、じわりじわりと、戻ってきた。


 あの時の憎悪も、なにもかもが戻ってきているので、心の中は複雑だったけれど、めいっぱい忘れた楽しい記憶が、頭の中で波止場を壊した。


 青年は火のない煙草にむせて泣く。

「野郎!地獄へ行け」を観ているんですが、場面のつなぎが素敵

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