第7話 全力展開
二人の戦闘機が発進地点にセットされると、観客席に向けて大型モニターが構築された。
三‥‥‥二‥‥‥一‥‥‥GO!
そのアイスがされると、カタパルトで二人の機体が空に上がった。
キャノン砲を積んだ全長十メートルほどのシャルル機は、小型ビームを連射で放ってきた。
サブロー機はそれを旋回で避け、お返しにキャノン砲を狙った一発を撃ち込む。
ビーム弾は確実に当たっていたが、装甲はつよいらしく、サブローの撃ったものは決して一撃としてカウントされるものではなかった。
シャルルは構わずにキャノンに火を集めた。
そこから砲弾が放たれると、空中で爆発し、あたりに光線が花火のように広がった。
サブロー機は回転しながらバルカンを放った。
弾は砲身に潜り込み、一撃をようやく与えた。
黒いボディのサブロー機の、赤い前照灯がビカッと輝くと、シャルル機を照らした。
《しょっぱい戦闘だ‥‥‥やっぱり、俺は‥‥‥シコーム・ダンとのぶつかりあいじゃあなきゃ‥‥‥興奮できんの‥‥‥?》
サブローは前髪をかき上げながら、次にくる攻撃を予測した。
シャルル機はキャノン砲を負傷した。
通常ビームの連射機能は優れているらしいが、それをすればあまり目立たないところに、黒色をもって隠れているはずのサブロー機を見つけるのは、自分の視点を絞ることになるので、シャルルからしてもよろしくない。
「満足できない‥‥‥」
キャノン砲から砲弾が放たれる瞬間、自分からバルカンを撃ち、砲身のなかで爆発させると、シャルルはさすがに砲を切り離さなければならなかった。
シャルルは加速装置を第二段階に入れ、急速にサブロー機に近づくと、バルカンを撃った。
「おっ」
サブローは桿を捻り、時計回りにブーメランのように機体を回して、バルカンを避ける。
すると、シャルルはレバースイッチを入れて次の瞬間、頭頂高八メートルほどの人型に変形した。
「人型変形機構!」
モアの発展機、モアⅡである。
モアⅡは軍用のはずだが、どうやら何処かから奪ったらしい。
赤色の塗装が、宇宙空間に溶け込み、宇宙粒子による再構築で右腕をキャノン砲に変えたシャルル機は加速装置をキャノン砲に組み込んだらしく、とんでくる砲弾はまるで常軌を逸している。
「ハハ‥‥‥」
礼儀として自分のも人型にするべきなのだろう。
しかし、人型に変形させた際の操縦系統の変化を知らんもので、サブローは「サボるんじゃなかった」と後悔。
そうしながら、加速装置を第四段階に変速させて、サブロー機はシャルル機から距離を取りながら、後方ビームを放つ。
お祭り的な面白さはなくなるだろうが、二秒だけでも時間を稼ぎたかった。
「異端児っての、逃げ足の速さを仰るつもり!?」
「宣いなさる‥‥‥!」
サブローはレバースイッチを入れて人型に変形させた。
頭頂高八メートルの人型ロボット。
「それでこそ祭だよ、異端児くん!」
通信回路を拡声機能に転用され、通された声がシャルル機から跳んでくる。両手にバルカンをそなえたサブロー機はシャルル機との間合いを詰めると、頭部コックピットをさけるように首の接続関節部分に弾丸を撃ち込んだ。
「急に楽しいじゃない」
シャルルは笑いながら、ヘルメットを脱いだ。
シャルル機はサブロー機の胸部に砲弾を撃ち込み、次の瞬間、コックピットの赤色警告灯がファンファンと鳴り響いた。
「異端児とレディカノンの格を、宇宙に見せつける時で──」
その時、不測の事態が起こった。
周囲の宇宙粒子が渦を巻いて、散ったのだ。
ビームを放ち牽制をしようとしていたシャルルは「何の起こり!」と叫びながら、サブモニターを天に向けてレーダーをそのほうに向けた。
様子を見ていたビリーが「宇宙怪獣だ」と呟いて立ち上がった。
「おい、おい。おいガラーキー、船を出すぞ。お前らもだ! ここから退散しろ!」
「なんだってんだ!?」
観客の一人が叫び返した。
「怪獣が発生したんだよ! わかんの!」
サブローとシャルルは通信を繋いで、現れた八つの眼球を持つヤギの頭をしたタコを見据えながら「怪獣か」と言い合った。
「あれは、デポロプシーだわ」
「知っているのか?」
「知らないの? 宇宙怪獣よ、私たちの戦闘で、引き寄せられちゃったんだわ。宇宙粒子に引きつけられたんだ」
「君の花火が原因じゃないのか?」
「その指摘、私に図星だわ」
デポロプシーという怪獣は触手を伸ばした。
加速装置第一段階ほどの速度を生身で出してくる恐るべき怪獣である。
「聞こえてるか、タキ! 怪獣は災害みたいなものだ! 『殺さないで場をおさめよう』なんてやめんだぞ! わかってんの!?」
「しかし生き物だろう‥‥‥?」
「怪獣に痛覚も意志もないわ。スペースピードから聞こえきた声、図星よ。気をつけんのね、足元掬われちゃうわ」
「し、かし‥‥‥」
触手がやってくると、シャルルは飛行形態に戻し、それを掻い潜ってヤギの顔面に砲弾をぶつけた。
「タキさん、怪獣っていうのは生き物に見えるだけの現象なんです。これは科学的にも判明していて、高出力の宇宙粒子が重なり合うと発生するものなんです。そもそも生き物ですらないんです。証拠を送ります、デバイスをご確認ください」
ガラーキーの声といっしょにモニターの隅に表示されたそれを読むと、「わかった」と納得するしかなかった。
サブロー機はビームを連射し、眼球に相当する部位を破壊すると、いままさに当たり損ねたシャルルの砲弾を左翼のジェットで跳ね返らせて、その傷口のなかに突っ込み、爆発させた。
デポロプシーの体内から光線が無数に弾き出された。
デポロプシーは周囲の宇宙粒子を吸い込み、巨大化した。
「俺たち豆粒くらいだぜ」
通信機のノズルを回す。
壊れた。
また、ノズルが‥‥‥取っ替えたばかりで、それも最新版のノズルが、デポロプシーの攻撃で。
つまり、通信できない。
「なら数撃ちゃ当たるわよ」
「らしいや」
怪獣というのは学習をしてしまう奴らしく、ビームを放ってきた。
その数は線を越えており、サブローとシャルルはそれを避けるだけで精一杯になり、出せるものは一秒のうちに一発程度と情けないことになってしまった。
しばらくはそれでも我慢していたが、とうとう堪忍袋の緒が切れて、サブローはバルカンを撃ちながら、巨大化したデポロプシーの体内に飛び込み、一心不乱にビームを乱射した。
「あいつ一体何を‥‥‥!!」
ビリーはモニターからそれを眺めて、思わずこぼす。
飛び出してくる光線の「長さ」にパターンがあることに気がつく。
「地球のモールス信号では?」
ガラーキーが言う。
ハッとして、その光線を読み解く。
「‥‥‥スペースピード、全力展開‥‥‥すべし‥‥‥?」
「全力展開?」
「全力展開って、ブラディ・オンだろ!?」
ブラディ・オンというのは、気合い──つまり、知的生命体が放つ、強力な生体電気をエネルギーとして反応が起こり、機械が融合を起こす現象である。
拡声機能をオンにして、ビリーは「なにと!」と叫んだ。
すぐに返事があった。
モールス信号を読めるのはガラーキーも同じである。
「マシンデッキを知らんのか、だと‥‥‥」
「えぇ‥‥‥えぇ‥‥‥んん‥‥‥んんんん‥‥‥!!」
ブラディ・オンは伝説のようなもので、我々にわかりやすく伝わるとすると、喜怒哀楽の電気信号で火傷しろというようなもの。
「大丈夫‥‥‥」
ガラーキーがサブローのメッセージを読み上げる。
「この宇宙で‥‥‥最も‥‥‥いや‥‥‥この宇宙において最高の船に乗っているような人間に‥‥‥できないことは、ない‥‥‥」
「やらなくちゃならんのか!?」
「‥‥‥できるはずだ。いち‥‥‥一歩先は、前だよ、ウィリアム・ホワイトクロウ・ガナム」
宇宙最高の船、スペースピード。
その艦長は怪獣の腹の中。
怪獣は暴れ足りない輝きに、ぶくぶく太って手のつけられないほどに大きくなっていく。
操縦席には軍人と記者。
「できるはずだ、一歩先は前だ。信号ヘタクソマンめ‥‥‥帰ってきたら特別講義をしてやる‥‥‥!」
バジンッ!
脳がひと際つよい生体電気を放つ。
ビリーの瞳が青くギラギラと光を放つ。
スペースピードが艦内のマシンデッキに格納されていた戦闘機を取り込み、変形を始めた。
蛇腹のようになっていた部分が展開されまるで百足のようになった。
「全力展開ブラディ・オン‥‥‥!」
宇宙百足
百足の脚に該当する箇所はすべて、ビーム砲になっている。
「全力展開ブラディ・オン!」
「どうなされたんで?」
「船長、全弾避けろよ!」
すべての脚が一斉にデポロプシーに向き、そして、一斉放射。
跡形も残らない様な一斉放射。
「あの船員‥‥‥頭が変になっちゃったのか‥‥‥!? あんなモン撃たれて全弾避けろよは無理があるでしょうに‥‥‥!」
シャルルは驚きながらも、全弾避けきったサブロー機に笑みを浮かべるしかなかった。
「続きやりませんこと!?」
「かまわんぜ」
「燃料切れ近いだろ! 帰ってこい!」
「どうとでもなるんだよ、ビリー・ガナム。気合いがあれば燃料だって増えるはずだ」
「増えねぇんだよバーカ!」
そこに、料理系の動画投稿者をやっている中年の主婦にありがちな喋り方の声が近づいてきた。
「こちら、宇宙警備隊! 君たち、なにをしているか!」
「野暮なれんじゅうがきた。ビリー・ガナム、スペースピード畳め」
全力展開時のスペースピードは攻撃態勢とみなされてしまう。
「その船は‥‥‥タキくんか!」
「レビア艦か。艦長はお元気か?」
「ええ、ええ、あなたは?」
「かろうじて」
船を集会地の港にとめ、船から降りたところでかろうじて無事だったもう片方の足を挫き倒れてちょっと泣いたサブローを抱えながら、「お知り合いで?」とガラーキーが訊ねる。
「俺はもともと宇宙警備隊レビア艦の隊員なんだ。二等兵だけどな」
「へぇ‥‥‥このおバカさんもですか?」
「そっちのバカタレは雑用兵だな。よく転んでた」
「洗いたての甲板は滑るんだよ」
「そんなわけねぇだろ」
少し落ち着いたところで、改めて酒の場を設けて、宇宙警備隊レビア艦長とレビア艦の副艦長チミュニを交えて話をした。
「それじゃあ、貴方はベラル・ディールを探していらっしゃる」
「心当たりどうか?」
「酒は?」
「隣のバカにでも」
「葡萄酒、お好き?」
「マジめっちゃ最高に好き。空気がなくなっちゃうな」
「お馬鹿め‥‥‥それで、ある? ない?」
「ありますね。目と呼吸器に障がいならね、知ってるわ。最も新しい情報では、ファビンデンのパイロットよ‥‥‥」
チミュニ副艦長が口を挟んだ。
「ファビンデンはドーナツの観光船です。目に爆弾を持っているような人間を雇うなんて、ドーナツは何考えてんの」
「法律の人っておかたいね」
「警備隊は警察でもあり軍隊でもある。多少の堅物はいい事だよ」
しかし‥‥‥ドーナツ。
「見当たらんと思ったら‥‥‥船に引きこもっていらっしゃる‥‥‥」
「会いに行くか」
「当たり前だ。会って、罪を償わせる」
シャルルが問う。
「殺すんで?」
「殺さない」
いい加減にうざったいと思い始めた質問に、サブローはムッとしながらも答えた。
「太陽系で起こったことなので、宇宙警備隊に突き出す」
ウィリアム・ホワイトクロウ・ガナム
William Whitecrow Ganum




