第6話 次のリングへ
「建造途中のピラミッドみたいでやんした‥‥‥」
宇宙連邦政府が捜査官と連行員を連れてくると、彼らは商会のアジトを見てそう言った。
「しかし、君たちは‥‥‥よくもまぁ、暴れたものだ‥‥‥」
「暴れはしなかったさ。非常に落ち着いた動きで」
「やっぱりケツにシコーム・ダンがいたのがよかった」
「逃しても追ってもらえるってのがな」
しかし結局使われなかったな、と。
「後先考えずに人を動かすので、こういうことはよくある」
「死相をそのように扱えるのは君だけだ」
「そうかい? まぁそうだろうな‥‥‥」
スペースピードに戻ると、シコームと今後の話をしたらしいが、どうも「異端児と死相が手を組むような事態というのはなかなか起きない」という事が分かり、シコームはやはり船から降りるらしい。
「なんだったんだ俺は」となりながら、シコームは「あとで操縦テクニック教えてくれよ」と見送りモードのサブローを見据えてみる。
「お前は今後、どうなる予定なんだ」
「なにか?」
「この宇宙でどうなりたい」
「まだそこまでは考えていないが、とりあえず、おれは鉄仮面の男を見つけ出す。そして、太陽系で起きたことなので、宇宙警備隊に突き出す」
「殺さんのか。すっきりせんでしょう」
「‥‥‥殺されたから殺してっていうのは納得できない。やられたからやりかえして、それで『ざまぁみろ』っていうのはさ、性格の悪いネクラのやることだろ。それに、人間の命っていうのはひとつしかない。雑に扱えない。そうだよ、雑に扱えないんだ」
サブローは家族のことを思い出していた。
シコームも、そうなのだろうか。
沈黙が流れていた。
「そうか」
そうだけ言うと、シコームの戦闘機は港を出た。
「また会えるかな」
「なんだ、その目は」
「言わんさ。野暮だよそれは」
「嘘だろ」
「言わんよ。‥‥‥戦えたらいいな。奴の戦い方はさ‥‥‥良いんだ。初めてだ。『殺さない』を意識しなくても、死なない相手だ」
「‥‥‥ゆがんでんなぁ‥‥‥」
鉄仮面の男。
鉄仮面の男。
捜査官はその言葉に、食いついた。
「その男は、ベラル・ディールだ」
「え?」
「鉄仮面の男だろ、ベラル・ディールだ。ちょっと待てよ」
情報デバイスを操作して、彼は尻から生えた金属的な尾を揺らしながら言った。
「これだろ、その男というの」
デバイスの画面に表示されているのは、凹凸のない艶消しを施された全面鈍色のフルフェイスマスク。
まさしく鉄仮面の男である。
捜査官はそれを印刷して、「持っておくといい」と言い、サブローに渡してくれた。
「彼は宇宙連邦にも目をつけられているんで?」
「いや違う。宇宙戦艦カーバリアという船を知っているか?」
「太陽系で事故を起こした。カーバリア‥‥‥俺が七歳の頃だったか、父がその捜査を担当したよ」
「その艦の戦闘員だ。戦闘機ゲサルトのパイロット。優秀な男だったが、カーバリアの事故で眼球と呼吸器をやられてね、そのマスクがないとろくに宇宙で生きていけない」
「‥‥‥‥‥‥」
「そいつって今、何してるんです?」
黙ってしまったサブローにかわって、ビリーが訊ねる。
「それがわからんのだよ、我々の方もカーバリアの生き残りとして奴には聞きたいことがある。しかしながら、見つからん。もしかしたらもう何処かで死んでしまっているかもしれない。名を変えてしまって顔もマスクも変わっているかもしれない」
「捜しようがないってもんだな。‥‥‥タキ、こりゃ見つからんぜ。宇宙連邦の捜査官すら手をこまねいてんだぜ、俺たちでどうにかなるか?」
「なる」
サブローは言った。
「あの男はきっと、俺の前に現われようとする」
「何故分かる。今まで現れなかったんだろう? 八年! いや、七年? その長い年月で、君の前に現れたことはあったか?」
「バカでなければわかるだろ、『サブロー・タキ』は地球の日本で殺し損ねた『滝三郎』だって。ベラル・ディールっていうのがどこの星の人で、その星の平均的な知能指数がわからないから言いようがないが‥‥‥ベラル・ディールはプライトの高い人間だ。つまり、殺し損ねは殺しに来る」
異端児・サブローが悪いれんじゅうをやったというので、騒がれ方は尋常ではなかった。
「さっさととぶのが賢いな‥‥‥」
「こんだけ人気がありゃじゅうぶんだよ。捜査官、パパパリア家はちゃんとこの星で生きていけるだろうか」
「え?」
「シシリィお嬢様さ。子供は故郷で過ごすのが一番いいよ。家族と一緒に。健やかに。そうだろ?」
その日の晩に、スペースピードの操縦室で仮眠をしているビリーにサブローが語りかけた。
昔は、というより今も「どうして自分ばかりこういう不幸な目にあっているんだ、どうして誰も俺の不幸を理解してくれないんだ」と思うそうだ。
それは自分の弱さだと理解している、と。
「俺だけが不幸なら、それが良いんだ。他の誰にも、こんな傷はいらない。もし剣が罪のない人々に向くならその剣を俺の骨で受け止める。銃口が平凡な親子に向くならその銃口に俺の肉塊を詰めてやる。その覚悟だ。俺は、悔しいことに、誰かの幸福を妬めない」
同時刻、ガラーキーは自室の机のなかに見知らぬ封筒があるのを発見した。
開けてみれば、どうやらそれはシコームの仕業らしい。
商会突入時、片手間で滝一家の集合写真を手に入れていたらしい。
写真の裏には宇宙警備隊の紋章もある。
自ら彼らに掛け合い、アーカイブから漁って貰ったのだろう。
「優しい顔したお父さんだ」
シコームはその写真を、もうすぐに来るサブローの誕生日にでも渡しておけ、とガラーキーに言いつけていた。
十一月の三日が来ると、その通りにして、サブローは写真を睨みつけるように見つめると、近くにあった星に寄っていって、写真立てを購入した。
コミュニケーションルームにはその写真が飾ってある。
すると、ガラーキーは「地球の風習と聞きました」と言って、花を供えるようになった。仏壇のかわりでもやっているんだろう。
ビリーも公休の日にはその写真立ての、まだ幼いサブローを見ながら酒を飲むなどしていたらしい。
「サブグッド‥‥‥っていうさぁ」
「ん?」
「お前知ってるかな、有名な宇宙海賊だよ。海賊っていうか、自由にやってたら海賊って呼ばれるようになってた、みたいなれんじゅうさ。そのサブグッドっていう船のれんじゅうが、お前に会いたがってるらしい」
ある朝──宇宙では宇宙連邦政府が定めた「二十四時間」のうちの、午前六時半──、ガラーキーがシャワールームで自分の肩の艶出しに躍起になっている頃、ビリーはそう伝えながら、操縦室で雑誌のクロスワード・パズルを解いていたサブローに新聞を投げ渡した。
【〝異端児〟サブローに挑戦状か!? サブグッドの〝砲の貴婦人〟が太陽系になぐりこみ!】
「‥‥‥レディカノン?」
「シャルル・サブグッド。自分の戦闘機にでっかい荷電粒子砲を積んでんだよ。なんも知らんのか?」
「シャルルって男の名前だろ」
「それを言ったらサブローはジャ・デンベリっていう星では女性名だぞ」
「ほんとうに? ‥‥‥まぁ、そういうもんか。しかし、このレディカノンとやらがなぜ俺を指名しているんだ? 何か因縁をつけられるようなことはしたかな?」
「名前が大きくなるとこうなるんだよ」
でかい網を張ったのは自分だろ、とビリーは牛乳を飲みながら笑う。
「これ、相手にしなくちゃならないか?」
「さぁな。しかし、海賊は人脈が広いから、ベラル・ディールの事も知ってるかもしれない」
「会ってみる価値はあるか‥‥‥こいつらは何処にいるんだろう」
新聞を読み込むと、座標が書いてある。
「これって何処だ?」
「ドーナツの近くだと思うけど、わかんねぇな」
ガラーキーがやってきたので、聞いてみる。
「前はそこにコーマっていう星があったんですけど、戦争で破壊されて、もうないんですよ。花の綺麗なところだったっていう話ですけど、この座標に何か?」
「呼ばれたんだよ、サブグッドっていうれんじゅうに」
「あのサブグッド海賊団ですか。良い人たちですよ。悪人が奪ったっていう宝を奪い返して、元の持ち主に何割か返してるんです」
「へぇ~。何割か」
「私も記者ですけどね、会ったことあります」
「取り敢えず行ってみるだけ行ってみよう。船同士の交流だ。気を引き締めよう。朝飯は食ったかい?」
加速装置を使い、コーマの跡地に向かった。
すると、そこにはゲートがあった。
「このゲートはいったい‥‥‥?」
「入れっていうんですかね」
「ん? ありゃ日本語か? なんて書いてあるんだ?」
「まっていたぜ、イタンこども」
「入れっていうらしいですね」
異星の言葉をわざわざ勉強されたら付き合わざるを得なかったという。
ゲートを潜り、超加速的な瞬間移動をすると、そこには大小さまざまな船が並んでいた。
「な、んだこれ?」
「こりゃあ、観客らしいですよ!」
ピーガガガ‥‥‥。
受信印刷機がチラシを刷った。
【女と男のデスマッチ! クールガイとレディカノン、勝つのはどっちか!? 血戦の場である!】
「俺で興行しようってのか‥‥‥」
「付き合うのか?」
「人脈は欲しい」
「付き合うのか‥‥‥」
船を適当なところに留めて、ステージに向かう。
船から降りる際に足首を挫いた。
「バカ」
五分くらい口を閉ざした。
それからバーのようなところに向かい、ビリーを酒場に縛り付けておくと、歌っているガマーシ星人という歌のうまい鳥のような星人女性たちの方へ向かっていくと、歌に割って入る。
ガラーキーは「歌もうまいんだ!」と喜んで、ビリーの肩を叩くので、ビリーは「いたい、いたい、痣になっちゃう」と泣いた。
観客席にいた彼らは驚きながらも喜んでいた。
歌が終わると、腰にメットをかけた女が現れる。
「驚いたわ! 本当に来てくれるとは!」
「わざわざ君のような美人に呼ばれて、来ない訳に行かないな」
「そりゃ、どうも」
「俺はなぜ呼ばれたのかな? デスマッチ?」
「やりましょう。私、腕には自信あるの」
「いいのかね、歳下に負けるところを、ファンに見られるぜ」
「構わないわ。勉強だもの。女だからって見くびらないことね」
「見くびる? まさか」
サブローはイエロー・スカーフを指で弾いて笑みを浮かべる。
「ファイターに性別はない」




