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第5話 商会沈黙

 進路。


 どこにするか。


 スペースピードは何処に向かうか。


 サブローはバチバチと黄色の稲妻を走らせながら、操縦室に向かっていくと、座標を入力した。


 座標はカーティ。


「ビリー・ガナム、ガラーキー。座っていろ。加速装置第七段階だ」

「Gで吹き飛ばされるぞ」

「どうとでもなるはずだ」


 火星から出発して、太陽系から出る直前、ドーナツに寄っていく。


「傭兵組合に俺の名を出して、こう伝えろ、『〝死相〟の望む金をやる。君の体と心を〝異端児〟に差し出せ』と」

「た、タキ‥‥‥」

「はやくしろ」

「タキさん、どうなさるおつもりで。そりゃあ、商会をつぶすのでしょうが‥‥‥」

「ガラーキー。君の出す本はガキの読み物か?」

「全年齢を対象に出したいですし、なんであれば、もう、ほんとうに、私の方で表現はぼかします」

「それでいい」


 自動操縦に切り替え、倉庫に向かうとペンキを取り出した。


「何をなさるおつもりで‥‥‥」

「俺の特技は塗装だよ。わかりやすくする。それが俺であるというふうに‥‥‥わかりやすくだ。俺はもう、これ以上怒りを我慢することができそうにないから、わかりやすく、俺が怒っていることを伝えるメッセージを出す」


 黒色。


 宇宙において最も最低な色。


 視認性は最悪で、邪悪な死相と同じ色。


 塗装を終えると、そこにちょうどビリーが帰ってきた。


「再戦の申し込みかと思えば、体と心を寄越せと来た。傲慢な野郎のプロポーズみたいで気に入らんな。何の用か? 異端児・サブロー」


 オオカミに似た黒いファーリピア星人──シコーム・ダンが言う。


「俺の部下になれ。俺の船に乗れ。君のマシンを白に塗れ。〝死相〟と名乗るのをやめろ。俺は怒りに堕ちるから、君は俺の手となり足となれ」


 色のついた宇宙粒子は、白色のスペースピードを背景にして大いに主張をはねていた。


 シコームは目を細めながら、唸る。


「後先考えての行動か? 君たちもだ、何故船長の暴走を止めない。怖かろうと、暴走しているなら止めるのが船員のはずだ。雇われでもあるまい‥‥‥」

「シコーム・ダン」

「なにか」

「口数が多いぞ」


 なるほど、と察する。


 《こいつ、頭に血が上っている時は話が通じないタイプなんだ》


 シコームはだだっ広い宇宙の中ようやく見つけた対等に戦えそうな異端児(クールガイ)の正体がこのような子供だとわかると少しガッカリした。


「わかったよ」

「それでいい。ビリー・ガナム、君の機体も用意する。金の工面はするから、買ってこい」

「子供の指揮官ごっこじゃねぇんだぞ、もっと具体的に言え! そんなに裕福でもないんだぞ、うちはさあ!」

「バルカンを積んだ物をひとつ買ってこい」

「まったく‥‥‥義務教育も出てない十八歳児はこれだから困るんだよ‥‥‥バルカン積んだ安物なんて売ってねぇよバーカ!!」

「じゃあ積んでなくてもいいから君の専用機を調達してきなさい」


 シコームが「ギスギスしているな」とガラーキーに耳打ちをすると、「普段はもっと和気藹々としているんですよ」と返ってくる。


「ほんとうかよ」

「いまは、商会へのイライラが溜まりに溜まっていて」

「ベルモンモンへの?」

「れんじゅうの社員らしいひとりが、火星移民を侮辱する発言をしたんです。それ以前にもやっぱりイライラはしていたんでしょうけれど、そこで堪忍袋の緒が切れたらしくて‥‥‥」

「ほう」


 ガラーキーは追加でひとつ、言葉をつけ足した。


「あの人は、他人の為にばかり怒るんですよ」


 シコームが船に乗り込んだ。


 スペースピード内でのシコームの仕事は特になく、たまに気が向けばサブローのストレス発散も兼ねて格闘訓練に付き合うことがあった。


 ファーリピア星人と地球人の体格差では負けっぱなしだが、それでもだいぶありがたいらしい。


 顔中に痣をつくりながら、サブローはスペースピードを操縦するのが日常になっていた。


 シコームはマシンデッキにいることが多かった。


 自分の愛機のそばにいたがったのだ。


 暇つぶしにパソコンをいじってみて、地球での「滝家」を調べてみることにした。


 滝哲次(てつじ)、宇宙警備隊二尉、その戦闘能力によりついた異名は「稲妻」‥‥‥空暦八十年に妻・優子(ゆうこ)と結婚‥‥‥空暦八十二年五月六日に第一子の三子(みつこ)、その翌年の十一月三日に第二子・三郎が誕生‥‥‥空暦九十二年の十一月二日に「鉄仮面の男」により第二子の三郎を遺して他家族と共に殺される‥‥‥妻・優子さんの腹のなかには妊娠六ヶ月目の赤子がいた‥‥‥警察の調べによれば、滝三郎くんは、死んだ母から弟だけでも助け出そうと、自力で腹を割いて赤子を取り上げたらしいが、取り上げたところで力尽きてしまい、階段で転んだ拍子に赤子を潰してしまったのだそうだ‥‥‥。


 そこまで読んで、シコームは「読まなきゃよかった」と思った。


 カーティに到着すると、ペルーのシャハロン社が製造販売している人型ロボットデポトロの軍隊が見えた。


 商会の運営の母体は、どうやら地球と密接に関係しているらしい。


 で、あるからあのような火星移民に対する差別意識の高い人間を部下にしていても、不思議はないのかもしれないが。


「シャハロン社はトーキョーにアジト持ってるって話だぜ。だからさ、奥多摩生まれのお前の同郷が‥‥‥つまり、あの男が、商会にいてもおかしくないってことだよ」

「嫌な話もあるものだ。ビリー・ガナム、商会の人間は売ってもいいけど、急所は狙うな。つまり殺すんじゃいけない」

「わかってる。四肢を撃てば動きは止まるだろ」

「そうだ。商会、敵対規格いずれか?」

「RハイフンB」

「アップルフレームか。ならこちらと同じだ。かまわず行こう」


 商会は異端児の敵対を知ると、「あのバカ!」と壁を叩いてタツミ・ツガミを罵倒した。


「俺は侯爵のガキを連れてこいって言ったんだぜ! だァれが異端児にケンカ売って来いって命じたよ!!」

「どうします、ボス」


 ボスのベイ・ベルモンモンは頭を掻きむしった。


 毛は、なかった。


 そこで、部下の一人が言う。


 彼は、四本ある青い腕のひとつでファイルを取り出すと、「たしか〝死相〟を二億で雇っていたかと」と言葉を申し付ける。


「し、死相!? シコーム・ダン!? そうだよ、そうそう、俺、雇ってたじゃないかよ! エェ!?」


 ベイは希望を見た。


「ならば勝機はある! よしよし、シコーム・ダンをすぐさまここに呼べ! 何のために加速装置付け足してやったと思ってんだ!!」


 タコのようなフォルムの部下が携帯に向かって、話をしている。


 その顔がみるみる内に怒りに変わって、「雇い主が変わったァ!?」という怒声になった。


 ベイは「誰だ、買いなおせ」と怒鳴りつける。


「ビリー・ガナム?」

「どこの誰だあ!」

「待ってください。ビリー・ガナム‥‥‥検索します。ビリー・ガナム‥‥‥ありました! 宇宙警備隊所属、現在は‥‥‥‥‥‥」


 部下の言葉が止まる。


「現在は何だ」

「スペースピードに所属‥‥‥つ、つまり‥‥‥シコーム・ダンの現在の雇い主は、サブロー・タキです」


 そこに、重苦しい空気が流れた。


 サブローは三下どもにビームを撃ち込みながら、先に進んでいく。


 一人残らず活動不能状態にするのが目的であるため、ゆっくりゆっくりと、先に先にと、進んでいく。


「ダメだよ、当たらん! なんでこう、当たり前に反れるか!?」


 補完者は宇宙粒子を操ることができる。


 サブローは自分に向かってくるビームの方向を逸らし、自分には一切当たらないようにしていた。


「ボスは逃げんのか!?」

「社長室から出てこんのですよ!!」

「あのバカジジイ! だからハゲって嫌いだよ! 頭悪くって! ボスに車を用意してやれ! 逃がすんだよ! あいつか生きてさえいりゃあ‥‥‥会社なんて続くんだから!」


 何処かに通信をしていたカーティ星人の現地の部下は「ち、ちくしょお!!」と泣いて叫んだ。


 何事かと聞かれると、「宇宙警備隊が交通規制で車を入れなくしてるし、敷地内の車は全部ぶっ壊された! ふねも!」と返事。


「終わった」

「そうかい」


 両肩に熱の穴が空いた。


「じゃあ、こっちのターンで構わないな」

「ずっと、お前のターンだろうが‥‥‥!!」

「そうかい」


 サブローは口笛を吹きながら──その口笛には、宇宙粒子を操る作用があった──歩き出した。


 ビームはすべて逸れて、ルールブレードはそもそも作動しない。


 船に乗っている間は、「船」という枠があるのでできない芸当。


 異端児・サブローのつよいところは、操縦技術であるから船から降ろしてしまえば良いのだろうと言う考えはよろしくないのがこれである。


 敵対する予定のあるものはご存知願う。


 サブローは規格外に強い。


 シコームはため息をつきながら、戦闘機のなかで「その強さは孤独だろうに」とつぶやいた。


「君たちのボスの場所へ案内してもらいたいがね」

「誰がするものかよ‥‥‥俺も、一端のヤクザだ‥‥‥しねぇのよ!」

「ほう。随分と立派に‥‥‥」


 胸ぐらをつかみ、壁に叩きつける。


「言え! それでも男か!?」

「ヒイ、ヒイ、ヒイ、ワン! 言わん!」

「強情な。立派な男だよ、君」

「うう、うう‥‥‥」


 補完者は宇宙粒子を操る。


「‥‥‥‥‥‥」


 もしかしたら、宇宙粒子を伝って感じる空間認識というものがあるのではないか、と考えた。


 人の位置を感じ取ることができるのではないか、意思を、そうでなくとも、生体電気を。


「無理だ‥‥‥できない‥‥‥」


 補完者にそんな能力はない。


 ベイはフフフとほくそ笑んでいた。


「あの男来んな、わからんのよ、ここが!」

「はい、そのようで‥‥‥」

「異端児だなんだと言われちゃいるが要するに太陽系の猿だ。お猿さん風情に、人間文明である『おうち』っての難しかったかな!? ハハハ‥‥‥」


 ガラーキーは「見つけましたよ」と、そのアジト中の電子機器からの接続を切って、サブローに言ってみせた。


「ありがとう。何処か?」

「エスコートしますよ」

「どうも」


 来る。


 来る。


 死神はきっと来る。


 商会のアジトはもうめちゃくちゃで、黄色のスカーフは破壊の象徴であるような、そんな気さえする。


 逃げ出す者もいた、立ち向かう者もいた。


 彼らは総じて四肢を運用不可能にされ、破壊。


 破壊。


 破壊。


 《十八歳の生き方じゃあ‥‥‥まるでないな‥‥‥》


 ガラーキーはそう思ったと言う。


 ベイのところまで辿り着くと、ドアノブを回すが、鍵がかかっている。


「マスターキーをご存知で?」

「ほう。知りたいな」


 ガラーキーは扉を蹴破った。


「マスターキー」

「なるほど、そりゃ贅沢な。二本持ちかい?」

「対応できん扉は無いようで」


 ベイはヒィィと尻もちをつきながらサブローを見据えた。


「逃げなかったのは評価するよ。いや、逃げる場所がなかったのか? 構造的に袋小路だものな‥‥‥同情するよ。君のような低能に生まれるのはさ‥‥‥生きるの、つらいだろ。死んでも良いんだぜ」

「お前が殺してくれんのかい‥‥‥!?」

「俺は人は殺さない。‥‥‥いや、君は人ではないな。なら、殺してもいいのか」


 銃口を向ける。


「バン!!」


 大きく声を張った。


 ベイ気を失った。


「馬鹿野郎、光線銃は『バン』じゃなくてどちらかといえば『ドチュン』だろうが」

「薬物中毒にはわからんのですよ」


 商会は、一日の内に滅びた。


 宇宙粒子の焼ける匂いとともに。

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