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宇宙最高ブラディ・オン  作者: 蟹谷梅次
第1章 何も壊せぬ戦斗機
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第4話 虫

 隠居先の小さな、けれどしっかりと防御柵のある家に二人を届けられると、そこに地球産のブランデーがあるのをわかり、ビリーは五杯は飲みたいと駄々をこねた。


「時間も多いし、構わんよ。俺も火星の軽い重力で遊びたい。ついでに買い物も済ませておくよ」

「この重力下じゃ、お前、転んでも痛くないな」

「宣いなさる‥‥‥そうポンポンと転んでなりますかよ」


 家を出ようとして、自動のドアを出ようとして頭を枠にぶつけた。


「ひひ。とぼけなさんなよ、タキ!」

「く、そ‥‥‥酔っ払っちゃって‥‥‥ガナム、八時間後までには酔い、さませておくんだぞ」

「わかってるよ、遊んでらっしゃい」

「遊び?」


 ガラーキーはついていこうとして、ソファを立ち上がった。


 すると、ビリーは全身を包めるようなコートを投げた。


「着ていきなよ、ロチャンカの人は火星じゃ砂が挟まって、炎症の原因になるって聞くぜ」

「ありがとうございます」


 サブローは火星の重力で跳んで済ませて、買い物をした。


「何をお買いになられるの?」

「バルカンを使ったから、弾の継ぎ足しと、戦闘機の修理。業者に申し付けておきたいんだ。俺はあまり計算がうまくないので、料金の提示がなされたら二割引を提示していただきたい」


 ガラーキーは、サブローの言いつけ通りに働いた。


 修理業者は、異端児に仕事を頼まれたといって、喜んだ上に特権勲章を持っていて、料金の八割も払うので「おかしな人だ」と思った。


 業者たちを船まで案内すると、彼らは「本物じゃん!」と悦んで船内を見て回った。


「この特殊な蛇腹になっているところは、改造ですね。ここに装甲のほつれが見られますな。そこも直しておきましょう」

「助かるよ。戦闘機の方はどうだろう?」

「直せますよ。新しいのに変えるので、今までの三倍の通信速度ですよ」

「すっげぇ‥‥‥」

「宇宙警備隊の人型変形機構を持ったモアですか」

「よくわかるね」

「マニアですから。モアは宇宙連邦政府も使っているような安価で量産できるタイプで部品も安いですから、最初に提示した金額よりも安く済みますよ。三十五万ってところですかね」


 仕事が済むと、設備は見事に元通りになった。


 五時間ほどで仕事は終わった。


 サブローは当初の金額である五十万を支払った。業者のれんじゅうが「多いですよ」と言うと、「余ったのチップにしなよ」と言って、話を終わらせた。


 次に、食糧を買い置きしておく必要があった。


「あのバカのために酒を買っておこう。今回一番頑張ったの彼さ」

「飲みながら操縦するかも」

「公休を設けるさ。酒はそれ以外は‥‥‥」


 禁止、のジェスチャー。


「軍人ってのはさ‥‥‥酒をいつ知るんだ。あいつだって、俺と三つしか違わないんだぞ。ブランデーすらあんな飲み方するんだったら五年は飲んでそうだな‥‥‥あいつ、イギリスだろ。イギリスは何やってんだ、法律」

「イギリスって?」

「地球の国さ。わかる? 本に書けよ、地球には国がいくつもあって‥‥‥」

「え! 地球って国いくつもあるんですか」

「あるよ。そういうところは地球だけか‥‥‥」

「じゃあ王も何人もいるんですか」

「いるよ」


 ガラーキーは「変な星」と呟いて、サブローは少し笑った。


「太陽系は、昔は‥‥‥空暦以前‥‥‥つまり、一九九九年までは、世界といえば太陽系までのことをいったんだ。それも、恐るべきことに、地球だけの話だった。長い歴史を持つ外宇宙とのつながりはなく、たったの二年費やせばつくることができたドーナツすらなく、人間は地球に塔をつくって、穴を掘るしかやることがなかった。いまでも地球は‥‥‥というより、太陽系は、宇宙連邦政府の聖地のようなもので、守られているから、知らないことだらけだろう」


 リンゴ。バナナ。卵。肉。ほうれん草。キャベツ。レタス。豆。


 野菜を買って、カゴに入れて、運ぶ。


「地球人の歴史を短くまとめると、こうだ。〝戦争〟。いつの時代も地球人は殺し合うために文明を発展させてきた。ロチャンカは確か、宇宙連邦政府発足──空暦一年の頃まで、一度も戦争をしたことがないんだったな、恐ろしいことを想像させる。地球人は肌の色や思想、性的指向、自分とは違う人に憎悪を向けて、その憎悪を理由にして殺し合いをできる生き物だ。俺が強いのは、俺が誰かに怒りを向けているから。ガラーキー、俺の本を書くときは、ちゃんと俺の醜いところも書いてくれ〜」


 九歳も年下の、まだ遊んでいたい盛りの少年である。


 ガラーキーは共に過ごしていく内にそういうのが分かるようになっていた。


 宇宙放送で、地球のアニメが流れるとそれをよく見ていた。


 何が面白いのかわからないものを見て、少し子供に戻ったような目をしていることもあった。


 サブロー・タキという男は、十一歳の頃からずっと鉄仮面の男を捕らえることだけを考えて生きてきた。


 一人で生きていくのは辛いから、時折くじけそうになった。


 宇宙に出るために多少鍛えて、掃除をおぼえて、雑用兵の求人を見て後先考えなしに宇宙に出た。


 後先考えないで──というより、考えることを捨てて、生きる能力だけを鍛え続けた。


 本人すら気づかぬ内に空間認識に対する能力がベテランの軍人並みになっていた。


「まぁ、よろしく頼むよ」


 出航の一時間前になって、商会のマークが入った旗を持った男が女性モデルの頭を二つ持って、サブローの前に現れた。


 酔いもほとんどさめたビリーは光線銃を構える。


「これはさ、俺の新しいルールブレードの斬れ味を試すためのものなんだ」

「人だ」


 サブローは短く答えた。


 空気中の宇宙粒子が黒く染まり始めた。


 変装をして港まで来ていたシシリィとカジラは口を閉じ、潜んでいた。


「人? 違う。違う違う。違うよ、火星移民だろ。地球に住めなかった低俗な血の人間だ。人間じゃない」


 黒い宇宙粒子に黄色の稲妻が走り始める。


「人だ」


 男は溜め息を漏らして、二本のルールブレードを構えた。


「猿性愛者か?」

「彼女らは、人間だ。以前よりも、そして、いまもだ! 貴様が踏みにじっていい道理はない!」

「異端児ィ。滝三郎! 日本人だろ!? 俺とお前はおんなじさ。出身も同じなんだぜ。東京都世田谷区だろ? 俺はまぁ、奥多摩のあたりだけど‥‥‥同郷なんだから、頼むよ、会話をしよう!」

「奥多摩は神奈川だろ」

「‥‥‥いつの話してんだテメェ! 奥多摩は東京! 神奈川だったの大昔の話だろうがぶち殺すぞテメェ!」


 男は女性モデルの頭を地面に叩きつけ、踏みつけ、怒りを顕にした。


「貴様ァ!」


 ビリーは怒りに駆られ、「撃つな!」と叫ぶサブローを無視しビームを発射した。


 男のルールブレードがそれを弾き、周囲にいた野次馬に向かっていく。ガラーキーがそれに走っていき、盾になった。


 ロチャンカ星人の皮膚は金属に似た性質を持つので、ある程度の宇宙粒子には耐えられる。


「頭を冷やせ、ガナム。その怒りは人を思う優しさのはずだ」

「す、まない‥‥‥」

「悪いのは君じゃない。ガラーキーにありがとうと言って」

「ガラーキー、ありがとう」


 ガラーキーはサムズアップで感謝に応えた。


 サブローは腰にとめていたルールブレードを鞘から抜いて、宇宙粒子を往復させ始めた。


 黄色の光が蠢き始めたあたりで、腰にあてていたゴーグルサングラスを頭にかけて、構える。


「俺は手加減できないけれど、できる限り、お前のような脳の足りない人間にも後悔を知ってもらえるように頑張るから、よろしく頼む」

「あぁ!?」


 男が味わったのは、血の味だった。


 気がつけば自分の視界が、二秒前を映している。


 その攻撃はあまりにも早すぎたのだ。


 まるで加速装置をいれた船のような、光線のような、稲妻のような──男は、吐血して地面を転がる。


 腹を蹴られた。


 ただそれだけのことだが、それだけじゃない。


 《う、宇宙粒子で身体を無理矢理強化しやがったのか‥‥‥? あ、あいつ‥‥‥『補完者』なんだ‥‥‥補完者なんだ!!》


 補完者は宇宙全体に漂う宇宙粒子を操ることのできる特別な人間のことである。


 サブローは身体強化をしたのではなく、自分の背中辺りに溜まっていた宇宙粒子を増幅させ、自分ごと押し出したのだ。


「さて。後悔はできそうか」

「こ‥‥‥うかい!? なんで‥‥‥!? 火星移民なんて人間じゃねーべ! ケケ! ケケケ‥‥‥! 俺はさぁ、このルールブレードでお前の依頼人の娘をさ! つまり、シシリィ・パパパリアを、殺すんだよ! あのくらいの年頃の女っての、異常性愛者に売れるんだよ、おもちゃに加工するとさぁ! 商会はその事業にも手を出してんだぜ、笑えるだろ!? お前乗る船間違えたんだよ、商会に乗じてりゃあさぁ! 月に八百万の利益が必ず得られた! 地球人がそれほど稼げるなんて凄いだろ!? 太陽系星人って差別されるのにさ!」

「できなさそうだな」


 サブローはルールブレードを振るった。


 男も負けじとガードの姿勢をとった。


 互いの粒子が弾き合い、空中に黄色と赤色の粒子が飛び散っていく。


 ガン、バチバチ!


「どうだよぉう、俺のこのブレード凄いよぉ! さすが性能調整万事オッケー品! 異端児と競り合ってぇ! しかも勝つ!」


 サブローのブレードが斬られると、サブローはすぐさま胸ぐらをつかみ、地面に叩きつけると、顔面を殴りつけた。


「ンゲ! ンンエ!!」


 男はサブローの腹を蹴り飛ばし、血を吐いた。


「おォれはァ‥‥‥津上(つがみ)ィ‥‥‥龍巳(たつみ)ィ‥‥‥銀河に名を轟かせる、剣豪だい‥‥‥俺のブレードは、最強のォ‥‥‥」


 男──タツミ・ツガミは歌いながら立ち上がる。


「タツミ・ツガミだ。ガラーキー‥‥‥聞いたことあるか」

「ごめん、聞いたことない!」

「情報に通じてねぇだけだ‥‥‥俺は剣豪なんだからぁ!」

「そうかい、剣豪」


 サブローは光線銃を構えた。


「テメェ部下を叱りつけておいて、自分も同じ事すんのかよ!」

「同じ事?」

「そうでしょうが!」

「なるほどな。ビームを撃てどお前は跳ね返すと」

「おうよ」

「当てなければ良い話だ」

「当てないでどうすんのよ」


 サブローは引き金を引いた。


 旧式の光線銃、速度は遅い──反応できる。


 タツミはルールブレードを構えるが、その時二発目が放たれ、それはタツミのブレードを握る右手に直撃した。


 驚いた上に痛がって、一発目の直線上に左手が現れ、一発目は無事に左手に直撃する。


「う──ギャアエ!! ウギァ! 腕、腕が、手が!」


 三発目、四発目は両膝を撃ち抜いた。


 五発目、六発目は両肩を、それから何十発と四肢に撃ち込まれ、おそらく怪我が治っても後遺症が残り、ブレードを握ることはおろか、四肢を使うことなどできないだろうという大怪我を負った。


 その光景は、野次馬には見えていなかった。


 黒い宇宙粒子が幕のように張っていたからだ。


「銀河に名前を轟かせる剣豪が‥‥‥剣も持たんだろう方々を侮辱して‥‥‥人の心を踏みにじるようなことをしてならないだろ‥‥‥剣豪なんだってな。名前、おぼえておくよ。次会ったらお手合わせ願うよ。次会うとき、お前に四肢はないだろうけれど、それでもお前は剣豪なんだから口に咥えてさ。同じ土俵でさ、虫とでも戦ってくれよ。ハハ、お互い頑張ろうな」

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