第3話 異端児と死相
二つの戦闘機は間合いを取る。
シコームの機体からビームが放たれる。
それを躱しながらサブローはビームにビームを当てた。
宇宙粒子が弾き合って、粒子は飛び散った。
桿を廻し、それを回避しながら、黒い毛並みの、オオカミににたファーリピア星人・シコームは「おお」と嬉しげに笑みを浮かべた。
「訛りからして地球人だが‥‥‥地球人のマシンは自動照準が優秀なのか? いや‥‥‥パイロットの腕かな?」
次にシコームのところにとんできたのは、バルカンだった。
太陽系の、宇宙警備隊の戦闘機には総じて旧時代的なバルカン砲が備わっている。
ビームに転化された黄色に輝く宇宙粒子が、弾丸の白熱を飛ばしながら、シコームの狼のマークの入ったマシンに迫る。
ビームより視認性の低いその弾丸はレーダーには感知されず、マシンの装甲を一部削った。
《太陽系のはこれだからロマンなんだ。‥‥‥昔の戦争で使われたような、鉛玉を飛ばしてくるっていうのは、ほんとうのことらしいな》
シコームが探知機につながっているボール式の操作器を動かして、カメラの様子を見ているとき、サブローは似たように探知機のつまみを回していた。
《なんだ? なぜ反撃が来ない?》
〝死相〟という異名はどうやら「視界に入れれば次の瞬間には死んでいる」ということからつけられたものらしいが、それにしては、あの戦闘機からはビームも鉛玉も飛んでこないので、サブローは怪しんでいた。
「なにかやろうっての?」
誰に言うでもなく呟くと、次に、シコーム機が加速した。
加速装置が働いたのだ。
「スペースピードを追うつもりか?」
シコームは〝異端児〟を相手にしているような暇はないと判断していた。だから避けるのみで、ビームの消費はしたくなかった。
まだ自分に有利があると見ていたのだ。
サブローはまたもバルカンを撃った。
サブロー機も加速装置を働かせながら、「もっと加速装置をつけるべきだ、せめてあと三段階はほしいかも!」と叫び、ビームを撃つ。
シコーム機はビームに対して回避運動を取ったがスペースピードとの距離を空けるのには至らず、どうやら効率的な回避動線を知っているらしい。
「まるで戦場が視覚に頼んないで見えているみたいじゃないか!」
サブローはいやになって叫んだ。
自分が天才だという自覚はあるが、相手はそれ以上に──たとえば、地球人ではたどり着けないような、圧倒的な──格差があるように思えてならなかった。
ギュ、ギュ、ィイイン!
サブローはビームを撃つのをやめて、エネルギーを加速に使った。
「来たな、異端児」
シコームはレバーを押し、ビーム砲スイッチを押した。
機体が上がり、サブロー機に対して倍の光線を放ってきた。普通であれば避けられるような攻撃ではなかった。
「イ!!」
イチかバチか!
サブローは右・操縦桿を左に捻りながら前に押し出し、左・操縦桿を右に捻りながら引き込み、左翼ジェットを前方に吹き出し、右翼ジェットを後方に出す。
すると、機体は急速に回転し、暴れるようになりながら、サブローは「ここだ」というタイミングでビームを放った。
そのビームはシコーム機のメインカメラを撃ち砕いた。
「やるじゃないかよ! 異端児ってのも〝なまじ〟じゃない! あんなに熱くクールなの、初めてだよ‥‥‥異端児め!」
シコームが悦んでいるところで、サブローは酔いを感じていた。
吐き気をおぼえながら、「スペースピードは火星に着いたかな?」と通信を試みたが、撃ち合いの内に──あるいは、さきのジェットで電波送信ノズルをやられたらしく、通信は送れなかった。
《と、とりあえず‥‥‥サブカメラに切り替えられる前に火星に向かおう。目的地は火星なのだから‥‥‥》
太陽系に入れば、宇宙警備隊の艦があるから助けを求めることもできるだろうが‥‥‥。
《しかし‥‥‥〝死相〟のシコーム‥‥‥か‥‥‥。いつか傭兵仕事で一緒になったら、その技術、習いたいな‥‥‥相手にはされなかったが、俺にはわかるぞ、あのパイロットは、とてもいい腕を持ってるんだ》
スペースピードは「ドーナツ」のそばを飛んでいた。
「ああっ」
「どうしました!?」
「サブローが乗ってった戦闘機の位置探知発信機のアンテナが折れたんだ。あいつ、電波発信ノズル壊したぞ」
「それじゃあ、堕ちたってことじゃ‥‥‥」
「あいつに限ってそりゃあないだろうが‥‥‥」
何を心配しているかといえば、修理費である。
「名があって、仕事をできるとはいえ‥‥‥うちはまだまだ裕福とは言えんのだぞ‥‥‥? 大丈夫かよ、タキ?」
ガラーキーのあとにつづいて、シシリィお嬢様が操縦室に入ってきた。
「異端児は死んだの?」
「あいつは死なんよ。お嬢様コミュニケーションルームに」
「このメット、あついよ」
「我慢しなさいな‥‥‥それがなけりゃあ、商会のれんじゅうに襲われた時、脳みそが出てたんだぜ」
まったく、とビリーは目を細ませた。
《俺は宇宙警備隊の隊員でもあるんだぜ‥‥‥それなのに、船のおもりなんて、情けなくて‥‥‥戦闘機、もうひとつ買いたいが‥‥‥》
「デブリ帯のそば、抜けるよ」
「危険ですから、お嬢様。メットをよろしくお願いします」
「わかっ‥‥‥アレッ、なんか来る! 異端児かも!」
「えっ?」
シシリィお嬢様はモニターやレーダーの計器を見ずに、言い当てた。その二秒後、マシンデッキにサブローの戦闘機が降着。
「異端児!」
「シシリィお嬢様‥‥‥デブリ帯の中ですぜ‥‥‥」
「顔、青い」
「自分の事は構わないで。ホラ、コミュニケーションルームに行きましょう。シートベルト、締めなくちゃあ‥‥‥」
シシリィをコミュニケーションルームに連れていき、前に親子を運んだのをきっかけに置いておくことにしたクッキー菓子とジュースを出してやってから操縦室に向かう。
「どうだった?」
「宇宙警備隊を座標に寄越してやってくれ」
「死相は?」
「無理だよ、勝てなかった。次は勝ちたいな‥‥‥操縦戻るよ」
「顔青いぞ、少し休め」
「そうかい。じゃあ、頼むよ‥‥‥」
操縦室の隅にある折りたたみの簡易ベッドを展開させて、サブローは眠りについた。
それをしばらく見てからビリーは「お前にも格上っての、いんのかよ」とつぶやいたように、心のなかではその事実が恐ろしかった。
しばらく休んで体調も整った頃、操縦をかわる。
火星に着くと、カジラはビリーとサブローに感謝を告げた。
「報酬は口座の方に振り込んでおきます」
「カジラ、カジラ。私、異端児かっこよかったから、報酬上乗せってやりたい」
「そうですね。彼がいなければ我々は〝死相〟の伝説の一部になっていましたし‥‥‥五百万ほど、ですか」
「そんなに、いいのかい? もとの報酬だって六百万なんだぜ」
六百万リデ。日本円にして二億と一千万円。
「それだって、俺の活躍を見越してこその金額だろ?」
「謙虚なんですね」
「これ以上宇宙連邦政府に唾をつけられるのが怖いだけだよ。太陽系の出身者が太陽系外で稼ぎすぎると奴らはすぐ犯罪に結びつけなさる」
もう目をつけられていて、いろいろ面倒な書類が届いたり、二ヶ月に一度、宇宙連邦政府から使者がくるのが面倒くさいので、これ以上は辞めていただきたいと思っていたところだった。
「パパパリア家が後ろにつくから大丈夫だよ、これあげる!」
「なんだい、これ‥‥‥?」
「これって‥‥‥」
サブローに渡されたものを、ガラーキーはやはり見たことがあった。
「特権勲章ですよ! これがあるとある程度の無茶ができるようになるんです。貴族だから、持っていても不思議じゃないのか‥‥‥」
「もともとさしあげる予定ではいたのですけれど」
火星の風は砂を巻き上げる。
サブローは宇宙粒子で壁を作り、それを遮りながらバッジのようなそれを空に掲げてみる。
「こんな軽々と‥‥‥」
「いいじゃん! ね、異端児。あんまり仰々しいのもね!」
「シシリィのお嬢はわかっていらっしゃる。ほう、特権勲章。これがあると、船の故障を安く直せたりするんですかね?」
「タダで直せますよ!」
「ほう。それは嬉しい。どうもありがとうございます。これでは、パパパリア家には足を向けて寝られんな」
「服につけるといいよ」
「服に? こうかい?」
「似合ってる! ハクついた!」
「そりゃあどうも」
黒い革のライダースーツに銀色のバッジが光った。
「あとは、我々は護衛でもありますから、ついでに隠居先にもついていきますよ」
「じゃあ、じゃあ、街歩こうよ!」
「街?」
「火星って、ファッションの中心地なんだよ!」
シシリィは背中のバッグから雑誌を取り出してみた。
空暦九十一年──サブローが十歳のころ──創刊の歴史がそれなりにある若者向けの雑誌「ティーンスカイ」である。
「ほう。昔、姉が創刊号を買っているのを見た記憶がある」
サブローはそれをペラペラとめくってみる。
【異端児の船スペースピードとしても有名! 小型宇宙船アールパージャンの魅力とは!? 専門家を交えた徹底談義!】
【太陽系がアツい! 我々は田舎を愛しているか】
【太陽系出身の異端児に迫る! 専門家ジャジャリより】
【全宇宙のファッションが集まる星、火星。サエないきみはこれを読み、モテまくり!】
「これか」
火星がファッションの星と言われるようになったのはいつ頃か。
昔は電気系に詳しい職人や「おたく」が集まっているような陰気臭いところだったと覚えているけれど、サブローは「アキバみたいなものか」と納得してみた。
いま、地球では秋葉原を中心に酒の擬人化が流行している。
「どう?」
「人混みだからな‥‥‥一時間だけですよ」
「やった!」
子供は無条件で甘やかしてしまうのがサブローの悪いところだ、とビリーはカジラとガラーキーに耳打ちをした。
そこで、シシリィはサブローに黄色のスカーフをプレゼントした。
「私にとって、黄色って‥‥‥サブローの色だもん」
「そうか。似合ってるかい?」
巻いてみると、シシリィは頷いた。
「ありがとう」
サブローは首のイエロースカーフを風になびかせながら、微笑んだ。
のちに──十年後に、シシリィ・パパパリアは自身の著書で「彼が私の初恋だったたのかもしれない。背が高くて、声も低くって。一見すれば乱暴な不良少年のような人なのに、優しい顔をしていたから、子供からすれば彼より先にもあとにも王子様はいなかった。でも当時、彼の恋人は宇宙というダイナマイトだった」と語る。
(これでいいのか……?)
(これはただしいのか……?)
(どうなってんだこれ……?)




