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宇宙最高ブラディ・オン  作者: 蟹谷梅次
第1部 流れ星
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第26話 声も息も

「愛されたくない」と言われたって、俺は愛したいのだから「うるせぇ、愛してる」という意気込みで、追っていた。


 イプシロンという組織から「カラーモ宙域第四ブロックにセカイダーがあるので迎えに行けよ、はやく」という苛立ちめいた通信を受け、シコームもそれなりに苛立ちながらもそこに向かう。


 どうやらアップルフレームが暴走して擬似的な人格を持った──という訳でもなく、なかに人がいる。


 チェーンをつけて、直ぐ側まで来ていたスペースピードのマシンデッキに降ろす。


 いわゆる、滝三郎の帰艦である。


「い、いきなりだ‥‥‥」


 力が入らない。


 イプシロン宇宙基地のドッキングベイにスペースピードが帰ると、ジャック・ベイムがズカズカとやってきて、「いい年した大人が地球にも帰らずなにやってたんです」と怒った。


 目を覚ましたばかりのサブローは、反論の余地もないと頭を下げた。


「今まで何処で何をなさっていたんで!? 人の善意を無下にすんは『異端』ではなく『非常識』ってんだよ!? おい! 頭下げりゃいいと思ってさ!」

「落ち着きなさいよ‥‥‥どうしてお前はいつも怒ってんだ」

「じゃあ怒らせるな!」

「怒るなや」


 ビリーに強制的に退場させられ、ジャックはプンスコプンプン怒りながら、「寝床用意しとくんだよ! はやく!」と部下たちに命令をし、部下たちからは「あんたは早く仕事に戻れ」と言われた。


「彼が、風雲児か‥‥‥」

「奴がお前を見つけたんだ。俺に連絡したのも奴だ」

「感謝しないとな‥‥‥」


 しばらくの沈黙。


「気まずいな」とハイが思っていると、性懲りも無くジャックが現れた。


「あなたは仕事をしてくださいよ」

「するさ。まずそいつでしょうよ」


 ぷんぷんと怒りを吹かしながら、ジャックが現れる。


「アニキ!」


 バベルも。


「そのバカタレを鎖でお部屋にでも繋いでおけ!」

「アニキに向かって‥‥‥!」

「うるさい。俺は本気なんだぜ、どんな事情があったって、あんた女泣かせたろ。フワッとした感じで宇宙に戻ってきてんじゃいけないな」


 サブローは申し開きの言葉もない、とただ頭を下げるだけだった。


「いいんだよ、もう。生きてんだもの‥‥‥死んでてもおかしくなかったろ、お前。どういう心境の変化なのかは全くんからないけれどさ」

「言い訳を、ひとつかまわないか」

「人の言葉で頼みますよ」


 バベルはジャックを睨みつけた。


「人の言葉でね」


 ジャックはわざとらしく、強調して言い直した。


「‥‥‥シコーム・ダン。‥‥‥君たちの家族の抱擁を見て、『俺はここにいてはならない』と思ったんだ。俺は、自分の家族も守れんような男で‥‥‥相応しくないと思ったんだ」

「衝動的に飛び出したと」

「いや‥‥‥ずっと思うところはあったから、きっかけがあればたぶん‥‥‥」


 ジャックは思い切りサブローの顔を殴った。


「おい! 押さえつけてろよ!」


 鎖が巻き付けられようと、ジャックは構わず言った。


「俺があんたをやるのは、これで最後だよ。そういう、あんたの輝きを見て俺は生まれたんだ。今の俺はね! でもね! あんたなんも見えてないんだよ‥‥‥以上!」

「なんなんだお前」

「ふん! 言うけれどもね、その人、殴りでもしないと変わんないよ。あんたたちがあんまりにも全肯定の信者だからさ。タキさん、あんたね! たまには身の丈に合わない幸せをしなよ」


 ジャックは人を見る目があると自分を評価する。


 その目でサブローを見た時、病的なまでに自罰的であると思った。


「あんたがたもだぜ」


 コミュニケーションルームにつれていかれて、ビリーは指摘を受けた。


「認めるだけじゃなくて、甘やかさないと。あの人はたぶん自分から甘えることのできない人だよ」

「あなたもだろ」

「無理な反論はするなよ」

「‥‥‥‥‥‥」


 しばらくして、方針が固まった。


 サブローはイプシロンのスペースピード隊に配属されることになり、この際にバベルは「隊長の座を譲る」と聞かなかったが、ジャックはそれを受け入れなかった。


 バベルは「気に食わないからいじめるのか」と言ったが、どうやら違う。


「あの人は人の上に立てる人ではあるんだろうけど、立っていい人ではないんだよ。わからんか?」

「む‥‥‥‥‥‥」

「コックピットの様子も見た。俺が念のために作っておいた説明書を使った形跡があるから、船の動かし方を頭が封印したらしい。メインブリッジに置いておいたほうがいい。どうせ戦闘があれば、お前は出るんだろ、指揮の芯がなくなるはずだ。‥‥‥戦場を見せるのは嫌だけれど、仕方ない。彼が帰ってきたということなら、指揮官になってもらえ。それか‥‥‥そうだな‥‥‥」


 ジャックはデバイスで、田舎星の事件記事を見ていたが‥‥‥。


「格闘が苦手な奴らの教官になってもらうかだ」

「ならせめて教官だ。思い直してみれば、彼に戦場を見せるのはやはり酷だ」

「じゃあそうしよう」

「なぜアニキをそんなに想うんだ」

「母と姉の仇を取ってくれた。俺に光を見せてくれた。時代の先頭に立って、殺しのない生き方を見せてくれた。彼には大恩がある」

「‥‥‥‥‥‥」

「幸福と共に人生があればいいけど」


 それから、サブローは教官になり、格闘が苦手なれんじゅうに体の捌き方を叩き込んでいった。


 精神が衰弱しているとはいえ、サブローは強かった。


「タキさん、機械に強いと聞いて‥‥‥相談したいことがある。うちの‥‥‥あっ、いや、」

「なにかな‥‥‥?」

「補完者が宇宙粒子を操れるのは、生体電気の感応からで‥‥‥それはつまり、ある程度の電気‥‥‥磁気があれば、機械的に宇宙粒子の制御ができるということだろ」

「そうなる」

「ですよね」

「何か思いついたのかい? ひとつ噛ませてくれ」

「ブレードを軽量化したいんです。今はUブレードというのを使っているんです。ルールブレードのある程度の軽量化を図っていて‥‥‥」

「ほう。面白いね。チェーンソーのようになるわけだ」

「はい」


 磁気を発生させ、ブレードに使用される宇宙粒子を操ってやろうじゃないかという作戦らしいが、どうやら思っているようなかっちょいいブレードにはならないと言う。


「誘導が必要になる。そして、ブラディ・オンのための巨大化もできそうにないな。一般化も難しい。補完者専用ブレード‥‥‥としてならかなりアリかもしれないな」

「ムーンに頼んでみますよ。試作機」

「彼女か」

「なにか?」

「恋をしているな」

「えっ」

「君の目を見ればわかる。そうだな、それは必要な感情だ。恋のない」


 こうしてワイヤーブレードというものが完成した。


 三十センチほどのヒルトから、ワイヤーを出し、補完者の能力で真っすぐに固定し、磁気を発生させ、宇宙粒子のブレードを形成させる。


 ワイヤーブレードは補完者の能力が前提となっているので、非補完者には使えない代物である。


 イプシロン内の補完者に支給するために、補完者を探したが、ジャックとサブローしかいなかった。


 そこで、イプシロンという組織の戦力としての情けないところを改めて知ったサブローは、「ヒートガイは何処だ?」と宇宙連邦政府に掛け合い、監獄内でトマトを育てていたゴロー・シシドを釈放させる。


「合法で檻の外に出られるのは嬉しいけど、トマト持ってっていい? このトマトうまいよ、赤く育って栄養もある」

「構わないよ」

「あっ、そうだ、あともう一人。お前に会いたがってる奴もいるんだ。そいつも構わんか? 優秀なやつだよ」

「構わないよ」

「おい、オーゲ・サンデを呼んでくれよ」


 オーゲ・サンデは監獄内でキュウリを育てていた。


「おー、本物の異端児というので大興奮。キュウリ食べますか? 美味しいですよ。それにしても帰ってきたんですね、看守が言ってましたよ、『いなくなった』って。何してたんですか?」

「観光だ」

「へー、まぁいいや。僕は何処の所属なんですか」

「本部の科学部門だ。いろいろやってもらいたいことがある。イプシロンも野蛮ではない。進化の過程に君の心血が必要だ」

「恐竜的に進化しちゃいましょう。がおー」

「ハハ」


 性格で言えば、オーゲというのは、ジャックのドストライクだろうがどうも性別が男なのが幸いしているのだろうか? ジャックは実際にオーゲと対面した際に、事務的なやり取りのみで済ませていた。


 ゼロワンのコックピット古いね、時代遅れ。


 そうかよ、じゃあやってみろ最先端。


 このスイッチ類・レバー類の確認作業というものの流れっていうのはどのように?


 上から下、左から右。


 了解、なるべくそれを崩さんように、色々と改良を加えるね。


 やれるものならやってみろクソが。


 ‥‥‥というように。


「尋常維持機構の、シャドウファイターより簡単なつくりだけど‥‥‥ツインガンより配線がクソですね。ゼロワンは誰が作ったの?」

「スキャットピード隊所属整備兵ハイ・ムーンだよ」

「へえー聞いたことないや」

「そりゃあ、そうだろうよ。お前口数が多いな。いちいち考えを口にしないと気がすまないのはバカのやることだよ」


 仲は悪かった。


「君も黙って仕事してきなよ。黄金児くんはどこにいるの」

「知らんよ、あんなバカ」

「そう。じゃあこちらで探すよ。僕、彼のこと想ってるから」

「ほう」

「受け流すね。やっぱり、君みたいな人に色恋の事ははやかったかな」

「バカかな? 俺にだってその感情はわかる」

「そうかな」

「そうだよ」

「恋人とか、いた事なさそうだけど」

「くたばっちまえ。余興だろ、こんな感情も、なにもかも。‥‥‥俺には愛される資格も、愛する資格もないんだ。ただそれだけのことだ。いちいち突っかかってくるんじゃないよ、ばかばかしい」

「ムキになっちゃった」


 こっちも似たような状況に陥ってるのか、とオーゲはこっそり呆れながらゼロワンに視線を戻した。


「貴女もあの人に似てるからこそ、セカイダーを託したのかな」


 その点で言えば、バベルはサブローやジャックほど絶望をしていなければ、自罰的な生き方を選んではいない。


 あの二人ももう少し他人のせいにできる人間であれば、きっとセカイダーは生まれなかったし、託されなかった。


「だからこそ人がついていくのかな。難しいね、セカイダー。彼らは頑張ってるのに、いつまで経っても失敗した頃の自分のままのつもりなんだ。悲しいね、セカイダー、貴女も」


 アップルフレームの輝きに目を細めながら、


 補足はない。

ジャックとオーゲは同じ88年生まれ。

バベルは84年生まれなのでふたりよりも歳上

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