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宇宙最高ブラディ・オン  作者: 蟹谷梅次
第1部 流れ星
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第25話 ギターを持った青年

「いい気なもんだよ! 最近のれんじゅうは、ファイターなんかあるから、オートに乗らなくなったんだよ、わかるかいアカギくん」

「エエ、エエ、まあ‥‥‥私もそれが嫌になって、宇宙から重力を求めて‥‥‥そうですね、オートに乗りたくなって、いろいろなところを回っているんです」

「アカギくん、えらいよ!」


 喫茶の店主はアキラ・アカギのフルフェイスのマスクをぺちんと叩いてみせた。


 アキラは苦笑しつつ、コーヒーのカップを持つ。


 マスク下部のシャッターが開いて、アキラは少々の酸味のある甘い微糖コーヒーを呷った。


 それから、店の隅にあるテレビを見る。


 最近新しく出来たイプシロンという治安維持組織のことについてである。


 そこには、自分にとっても懐かしい名前が並んでいる。


 地球人 ビリー・ガナム。

 ロチャンカ人 ガラーキー。

 火星人 〝黄金児〟バベル・タキ


 懐かしさというのもあるけれど、戻るべきかと言われると‥‥‥。


 《組織のトップは‥‥‥最近、〝風雲児〟って呼ばれている彼か。セカイダーゼロワンのパイロット‥‥‥》


「セカイダーか‥‥‥」

「なんだい? セカイダー? それ、異端児のだろ」

「間近に見たことがあるんですよ、ただ、それだけです」


 アキラがその喫茶店を出ると、空は緑色に明るみを帯び、心地のよい風が吹いていた。


 時代は新しい方向に進もうとしている。


 ジャック・ベイムという青年はいい目をしている、と上から目線ながらも‥‥‥アキラは思っていた。


 もし、次の宇宙のリーダーというのがあるのならば、彼のような男がそれにふさわしいのだろうとすら考えている。


 エフ八〇〇〇という戦闘機が空を飛ぶ音が聞こえると、アキラはそれを苦手に思っていて、慌てて屋内に隠れた。


 エフ八〇〇〇は、シコーム・ダンの戦闘機の音によく似ていたからだ‥‥‥おそらく同じような原理で飛んでいるものなのだろうが、そんなことは知らなくて、アキラは「似ているから嫌いだ」と思った。


 あの音を聞くと、嫌がる身体と心を追い越して、「戦いたい」という欲望が魂を通して身体を支配しようとしてしまう。


 慌てて入った建物のなかで、震える手を押さえつけていると、そこが民家であることがわかった。


「ア、ウワ、申し訳ない。コリャ、申し開きの言葉もない‥‥‥」


 そこにいた母と娘はぽかんとした後に、優しく微笑みを浮かべて「かまわないんですよ」と言った。


 そこから、アキラとその親子の交流が始まった。


 どうやら母娘はアキラのただならぬ事情を察したらしく、「なんでしたら、しばらくここにいるといいよ」と言った。


 アキラも疲れがあったから、その言葉に都合よく甘えた。


 そのかわり、仕事を手伝った。


 母サタ・ネメコは食堂を営んでおり、昼メシ時になると、繁盛するので、娘のキャシー・ネメコと一緒に飯を運んだり、皿を洗ったりと労働をした。


 そうしていると、「太陽系地球の土産」として、客の一人がギターを持ってきたので、アキラはそれを弾いてやることになって、その音色が綺麗なものだから、食堂の名物になる。


 夜になると、その少し弾むような音色の儚げなブルースをバッググラウンドミュージックにしてディナーを食おうという客まで現れた。


 そういう活躍が気に食わない者がいるらしい。


 やくざがやってきて、その食堂に因縁をつけてきたのだ。


 悪い金貸しに引っかかったこともあるらしく、一晩のうちに、やくざによって食堂の設備を使えなくされてしまった。


 サタは笑みを浮かべながら、「直せばいいから」と言っていた。


 不安がってアキラにしがみつくキャシーの震えを感じた。


 これはあまりよろしい傾向ではないな、と思いながら‥‥‥それでも、自分ではどうする事もできないと思いながら、アキラはただ母娘のそばにいるしかなかった‥‥‥そうするしか‥‥‥。


「やくざってね、ひどいんだ」

「そうだね」

「とっても、わるいれんじゅうなんだ」

「うん」


 キャシーは寝る前に、泣きながら語っていた。


「アキラ兄ちゃんは、死なないで」

「‥‥‥‥‥‥」

「死んだら、人は‥‥‥冷たいんだよ。死んじゃわないで。さみしいよ、せつないよ、わたし、わたし‥‥‥」

「おやすみよ、キャシーちゃん」


 少女の頭を撫でながら、項垂れた。


「‥‥‥‥‥‥」


 自分に何ができようか。


 自分のような、我儘な都合で、雨中から落ちたクズ星に、この母娘をいったいどうできるというのか‥‥‥?


「こんな不幸ばかり続くなら、いつか‥‥‥この空に人が住めなくなるぞ‥‥‥そうなる前に‥‥‥俺が‥‥‥」


 この母娘のために、自分ができること。


 翌日になると、繁盛する時間帯にやくざが直接やって来て、暴れ出した。


 テーブルが殴り壊されて、スープが飛び散り‥‥‥飯が、丹精込めて作った飯が、地に落ちる。


 サタはやはり我慢しようとしていて、耐え忍ぶ姿が痛々しい。


 アキラはしばらく手の震えを気にしてから‥‥‥それでも‥‥‥やはり、生まれついた性分なのだろう‥‥‥。


 辛抱ならなかった。


「待て!」

「あぁ!?」


 いきなり出しゃばるアキラに、サタもキャシーも驚いて、そのほうを見るしかなかった。


「なんだ、テメェ?」

「アニキ、最近ここに住み着いたっていう泥ネズミですよ」

「ああ、ギターを持った泥ネズミっての、こいつか」

「俺にも名前がある」

「アキラ・アカギだろ、知ってるよ」


 心底バカにするような声。


「地球人だ」

「そうだ、地球人だ」

「じゃ、泥ネズミだ」


 アキラはマスクを外し、やくざに投げつけた。


 あれからずいぶん伸びた髪をかきあげながら、怒り襲ってくるやくざたちを片手間に討ち返していく。


「こ、こいつ! そっくりだよぉ、アニキ! 異端児に!」

「や、奴がこんな田舎にいるわけ‥‥‥」


 アキラは‥‥‥否、サブローは‥‥‥懐から旧式の回転発光式の光線銃を出すと、随分と震え淀みノイズの多い、子供のような拙い殺意を滲ませながら、「俺に逆らえますかい」と煽るように言った。


「う、うう‥‥‥! い、異端児なんての‥‥‥所詮は田舎者のガキ大将だろ! 死んじまえよ! うわあ!」


 やくざたちは殴りつけようとして、その瞬間に、そこにあった宇宙粒子がサブローの支配下におりた。


 空中に浮かび上がりそこにピタッと固定されるので、ヤクザたちは恐怖して、小便を漏らした。


「二度と‥‥‥この一家に手を出すな、二度と‥‥‥この街に現れるな‥‥‥! いいか、二度とだ‥‥‥何様のつもりだと思うのならば、覚えておくんだ。おれは‥‥‥貴様たちのようなのを‥‥‥『破壊』するために地獄の底から蘇った悪魔だ‥‥‥」


 そうだ。


「俺は、醜いおばけだ‥‥‥!」


 それから‥‥‥すべてが片付くと、サブローは髭を剃って、髪を切り揃えて、そこでようやく母娘を見た。


「これが、俺のほんとうの顔です」

「あなた、異端児だったんだ」

「宇宙が怖くなって、逃げてきたんだ。‥‥‥宇宙は暗くて、切ないから‥‥‥逃げ出したんだ。俺のような情けない男を、匿ってくれたあんた方にそれを明かさなかったのは‥‥‥俺の、人間不信なんだ」


 サタは笑顔を浮かべた。


「もう行っちゃうの?」

「ああ、そうなる」


 キャシーは「がんばって!」と言った。


「このギター‥‥‥差し上げます」

「え?」

「私、子供の頃にある地球人の方から、聞いたことがあるんです。『本当にかっこういい男はギターが弾ける奴だ』‥‥‥って」

「それは‥‥‥」

「なら、このギター‥‥‥あなたのだ」


 泣きそうな眼で人を殴り、泣きたくなるような吐息で祈るようなギターを弾く青年の‥‥‥今後を祈って。


 サタは「もう会うこともないんだろう」となんとなく察しながら、見送ることに決めた。


 そりゃあ、十歳以上年も離れているけれど‥‥‥本当に頼りになるものだから、ほんとうは、ほんとうは「想って」いたんだと‥‥‥。


 言いたいけれど‥‥‥。


 この人はきっと愛されるのを望んでない‥‥‥。


「ねぇ、アキラくん」

「え‥‥‥?」

「次は、所帯で来てね」

「‥‥‥‥‥‥仲間と、来ますよ‥‥‥」

「ふふ、そうだね」


 サブローは店の前に出ると、叫んだ。


「来い! セカイダー!」


 すると、はるか遠く‥‥‥イプシロンのマシンデッキに格納されていたセカイダーのアップルフレームが駆動を始めて、シャッターを破壊するのも厭わないで、飛び出した。


 頭上に現れたそれを見上げて、キャシーは「本物のセカイダー」と言った。


「キャシー、君は優しい子だから寒くて震えている人がいたら温めてやるんだ。君は人を愛することができる子だから、きっと誰かに愛されるんだ」


 足元が泥に見える。


「君は、人の愛を受け止められる人生にいなさい」


 立ち塞がる相手に‥‥‥それを、どういう理屈で相手にしていられるかというのが、人が人たる所以であるもので、自分の頭のなかにある感情をおもむろに出すのであれば、それが人の声になるということは一生ありえないんだろうとも思われる。


 人は‥‥‥一人で生きているわけではないのだから、と‥‥‥簡単に言ってしまうことができれば、サブローは幸せな男になれたろうが‥‥‥しかし、サブローはそれでも孤独を感じてしまう人間だった。


「俺が地球に降りるのは‥‥‥俺の因縁を全て片付けてから‥‥‥ということか? ミャウミー‥‥‥俺は‥‥‥それでも、君に乗るよ、セカイダー‥‥‥許してくれるかい、この黒い傷跡を背負った俺を‥‥‥」


 桿を握るのが怖い。


 大きく呼吸を整えて、モニターを灯して、弱々しく桿を握りしめる。


 宇宙粒子の反重力が滲み出し、空に上がる。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あとは‥‥‥えっと‥‥‥」


 どうするんだったか‥‥‥思い出せない。


 どうやら記憶に蓋がかかってしまっているらしく、サブローはセカイダーの操縦を忘れてしまっていた。


 コックピット内のボックスを空けてみると、「ばかやろう、感謝しろ」という乱暴な文字と、簡易的な説明書が収まっていた。


「‥‥‥‥‥‥イプシロンとやらには、マメな奴がいるらしいな‥‥‥感謝は、しなくちゃならないな‥‥‥」


 シャツのボタンを二つ外して、説明書を脚の上において桿を握る。


 星を出て宇宙に戻ると‥‥‥そこで数年ぶりに眠気が襲ってきた。


 どうもその眠気というのが強烈なもので、寝落ち寸前というところで、サブローは駆動を切って、宇宙を漂うようにしながら眠りについた。


 この狭いコックピットで‥‥‥眠りに‥‥‥。

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