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宇宙最高ブラディ・オン  作者: 蟹谷梅次
第1部 流れ星
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第22話 ゴールドファイター

 黄金児、と再び呼ばれ始めて、「アニキ」の存在を感じられなくなっていくのを、実感し始めて‥‥‥そこでようやくバベル・タキはほろり‥‥‥涙を流す。


 バベルからしたら、自分を再び立ち上がらせてくれたのは「サブロー・タキ」で‥‥‥「異端児」で‥‥‥「アニキ」だった。


 家族から利己的な復縁を申し込まれた際、特権勲章の力を使ってくれたのは、自分の弟だからというだけの理由で‥‥‥。


 バベルは、「実の弟」のことを、シコームから聞いて初めて知った。


 太陽系という田舎の、地球という聖地で生まれた男のことなど知らなくても、しょうがないのだからうだうだ言うのはお門違いだが‥‥‥バベルは、自分が憎くて仕方なかった。


 兄貴分の男の心の闇も知ることなく、ただ「俺はあの人の弟なんだ」という自信だけで、隣に立てるつもりでいた。


 それがどんなに恥ずかしいことか‥‥‥バベルは知らなかった。


 バベルの言動は、サブローを傷つけていたのだろうか。


「‥‥‥‥‥‥」


 バベルは、自分のスペースピードでの力を信じて、記者としての顔もあり、人脈も広いガラーキーに、サブローの‥‥‥「滝一家」を崩壊に導いたという「寄生虫」のことを調べてもらえるように頼んだ。


「火星生まれのあなたにこれを見せるのは‥‥‥正しいことなのか、まったくわからないけれど‥‥‥じつは、その寄生虫というのは、もう、調べてあるんです。私も、あの人を『想って』この船に乗りましたから。ですから‥‥‥でも‥‥‥」

「じれったいよ、あるなら、見せてよ」


 あの寄生虫は、第二次世界大戦の頃に、宇宙警備隊の前身となる大日本帝国平和維持機構という戦争組織が作り出した、バイオハザード専用洗脳生物兵器であるということで‥‥‥要するに、あの虫は、地球人が作り出したものである。


 地球人は、持て余した寄生虫を宇宙に放り出したのだ。


 それで‥‥‥。


「でも、奴等が‥‥‥返って来たのは、きっと、きっと偶然なんでしょう? 帰巣本能とかってやつでさ‥‥‥」

「違うの。‥‥‥宇宙警備隊で、変な動きが見えたの。ひとつ、あるひとつの小隊が、宇宙から何かを持ち帰ったって‥‥‥それで‥‥‥その報告書は事務局の方で独断で、金庫島に送られていて‥‥‥それが、アレンデの瞳で縁もできた、『滝三郎』の乗る船に‥‥‥」


 地球人による、滝一家のみを対象にした、殺戮。


 地球人による。


 地球人。


 こんなことで、こんなことでサブローの意志から反するのは、ばかげているというのは、バベルにもわかっていたが‥‥‥。 


 ベラル・ディールの日記に書かれていた「サブローくん」は、バベルが知っているような、「大人の男」ではなく、「年相応の元気な子供」だった。


 ビリーは困惑に満ちるバベルの顔を見ていた。


 何もいえなかった。


「太陽系人類は、宇宙を知るべきではなかったんです‥‥‥これを言うと、差別になりますか?」

「え、いや‥‥‥そ、その小隊とやらは、いまはちゃんと罰されて‥‥‥」

「宇宙警備隊の、上層部として、あります‥‥‥」


 滝哲次‥‥‥つまり、サブローの父の右腕として働いていたらしいセクト・ベイムという男は、滝一家の惨状の後、火星にて「戦争犯罪人」として宇宙警備隊に殺害されていた。


「宇宙警備隊は、滝一家を壊しておいて‥‥‥毟り合いで、アニキを担ぎ上げたのか‥‥‥?」


 地球人のしぐさ。


「そんなのは‥‥‥」


 ビリーが間に入った。


「サブローにも意志はあるよ。その意志を理解もせずに、すぐ絶望するのは違うだろ。サブローは、自分の弟が自分のせいで階段を落ちるのを、良しとはしないだろ」


 ビリーの言葉を一度は受け止めたが‥‥‥。


 バベルはそんなに賢くなかった。


 最近、宇宙警備隊の上層部がドーナツにある議事堂に向かうための船が出ることになった。


 その船には、上層部当人だけではなく、その家族が一堂に集うらしい。


 バベルはスペースピードを降りた。


 スペースピードはバベルを追えなかった。


 バベルの戦闘機には加速装置を九つ積んでいた。


 戦闘機での加速装置九つは、宇宙船の九つとは比べものにならないほどのスピードを出してしまう。


「あのバカ‥‥‥」


 スペースピードはドーナツへ向かった。


 ところかわってスキャットピードは、ドーナツで改造工事を行っていた。


「街が騒がしいな」


 徹夜で考えた資金練りの成果が出たので、比較的機嫌の良いジャックが荷物を両腕に抱えて船まで戻ってくると、指揮を執っていたハイに言った。


「宇宙警備隊の上層部が来るらしいですよ。第四区の議事堂で」

「だからか。四区のポスター、見たよ」


 ジャックの父親は古い時代、宇宙警備隊にいた。


 そのせいもあってか、宇宙警備隊というのに無意識に近づいてしまうのかもしれない‥‥‥夏の虫のように。


「この星が賑わってるの、僕たちのせいもあるでしょうけど。あっ、悪い意味ではないので、吠えるな」

「犬じゃないんだから! そうキャンキャンと吠えるかよ!」

「吠えてるじゃないですか」

「うるさいバカ! 改造、一区切りつきそうか!?」

「待ってくださいよ、あと二時間ほどで」

「そうかい!!」


 時間も時間なので昼メシを作ってしまおう、とジャックは手伝いをしていたマイトの細腰を抱え上げてキッチンに向かっていった。


「いきなり持ち上げられるとびっくりしますよ」


 マイトは驚きのあまり赤面していた。


「びっくりするお前が悪い」

「えぇ~‥‥‥」


 ジャックは文句を言っていた。


 自分が野郎どものために飯を作らなければならないというので、機嫌がよろしくなくなってしまうのだ。


「少なくとも船長の仕事ではない」

「みんなに人気なんですよ、ジャック船長のご飯」

「ベイムでいい! ‥‥‥飯なんてどれも一緒だろうに‥‥‥!」


 ジャックはムスッとしながらフライパンを棚から出した。


 マイトは、それを微笑みながら見ていた。


 スキャットピードはいろいろな星から来た変な奴らの寄せ集めのような船で、船員の食事もいろいろな特徴がある。


 例えばアレルギー反応が出るので魚しか食えない奴もいるし、宗教的に肉が食えないやつもいる。


 ジャックはそういうのを大雑把にせず、全員に合った飯を毎度バリエーションをつけて作る。


 ジャックの母はそういうのを尊重する人だったから。


 そうして、「めんどうくせぇなぁ」と愚痴をこぼしながら全員分の飯を作っていると、ジャックのエスパー能力が汚い感情を読み取った。


「何か来るな‥‥‥」

「えっ?」

「ここは頼むぞ」


 ジャックはエプロンを椅子に落として、すぐにマシンデッキに向かった。


「あっ、船長! とうなさったんで?」

「何か来る。俺が出る」

「ゼロワンの整備まだ済んでませんよ!」

「構わんよ、出る!」


 港から出ると、殺意の正体が分かった。


 黄金にペイントされた戦闘機が港に近づいてくる宇宙警備隊上層部の船に突撃しようとしている。


「そこのゴールドファイター、止まるんだ」


 ゼロワンの通信を拡声機能に変えて、金色の戦闘機に語りかける。


 《こいつ、上層部狙ってやがる‥‥‥!》


「そのセカイダーの、パチモンは‥‥‥ゼロワン‥‥‥ジャック・ベイムか! 俺はバベル・滝だ! 其処をどけ! 貴様には俺のこの気持ちが分かるはずだ!」

「知るものか」


 ビームが飛んできた。


 《シン・ナッシュ伍長の弟か!?》


 ゼロワンは粒子シールドを射出口から出し、飛んてくるビームを跳ね返し、バベルの機体ということは、どうせ加速装置をたくさん積んでいるのだろうし、そういう意味で、行動を絞れるのは良かった。


 バベルのゴールドファイターは赤い尾を引く光線を弾かせながら、人型変形をして、力士のようにゼロワンを押そうとする。


 それを感知し、ゼロワンも人型に変形し、Uブレードを手にした。


「邪魔をするな! その船に乗っているのは地球人だぞ!」

「貴様の兄貴も地球人だろう?」

「アニキは違っていた!」

「何が違うか。身内無罪を言っている内に正当性があると思うな」

「バカを言う!」

「どちらが」


 ルールブレードとUブレードのぶつかり合いで赤と青の粒子がはじけ合う。


 バベルは叫ぶ。


「お前が火星のベイムなら俺の気持ちがわかるはずだ、お前の父親は、お前の後ろにいる宇宙警備隊上層部に殺されたんだ、滝哲次の部下だったからだ! 奴等は何の因縁があってか、アニキの家族を殺した挙句、お前の父親を殺して、その癖に毟り合いじゃアニキを神様みたいに担ぎ上げたんだ!」

「そ、れは‥‥‥!」


 本当のことなのだとわかった。


 バベルが拡声機能でドーナツにも上層部の船にも広がるように叫ぶものだから、ネタを探している記者たちは一斉にペンを持った。


「どうだ、わかんだろ、本当のことだって‥‥‥だったらどけ!」

「どかない」

「落としちゃうぞ!」

「落ちない」

「落とすぞ!」

「落とされない」


 粒子の飛び散り合いに、黄色が混ざり始める。


「聞かなかったか!! 俺の言葉〜! お前にはそれを守る理由っての、ないんだよ!! なぜ守るか! 雇われたってことか!?」

「偶然目の前に命を狙われる奴がいたら、俺はそれを守るだろうさ」

「何故か」

「ちょっとは自分の頭で考えて行動をしろ!」


 ゼロワンはゴールドファイターの腹部を蹴りつけた。


「考えることをしないから、そうやって兄貴分の意志に反した行動をとっちまうんだ、サブロー・タキは怒りに任せて人を殺したか?」

「俺のこの怒りは、俺のこの怒りは‥‥‥!!」

「ウダウダ言ってねぇで退けっていうのがわかんないのか」


 頭部コックピットについている前照灯は赤い光を出していた。


 ゼロワンはUブレードを強く握りしめて、粒子を加速させた。


 宇宙粒子は青から黄に変色していく。


「兄の親の仇を討っていけないか!」

「いけないね」

「何故」

「言わなくちゃわかんないのか‥‥‥。家族が居るんだ。その『親の仇』っていうのにも。親か殺されたんじゃ、夫が、妻が殺されたんじゃ、遺された方はどう思う。お前に対して怒りを抱くだけだ。あんたが悪魔に見えるはずだ。人を殺すだけが復讐だと思うのは、それは間違いだ」

「じゃあどうしろっていうんだ、許せっていうのか。アニキはあんなに苦しんだのに、アニキばかり苦しんだんだ、地球人のせいでだ。お前の父親たって地球人に殺されたろ、母も姉も、そうだろ」

「そうだ。親代わりになってくれる人も地球生まれに殺された」

「だったら! 地球に生まれたあのバカどもだけでも消そうと思えるのは必然のことだ、無情なんだよ、誰も彼も」

「ふざけるな」


 怒るが、ストレスが溜まっていく。


 放つ度に新しいものが注ぎ込まれて、頭のなかで「後ろの奴ら殺しちまえ」と喚く。


 それでも、やらない。


「その怒りは、優しさのはずだろ」

「たからなんだ」


 この言葉ではなかった。


「その優しさで人を殺そうとするのは違う」

「お前に何がわかる!」


 建前ではダメだ‥‥‥本音で言わなくては‥‥‥火星生まれ特有の、手の速さや素行の悪さは止められない。


「どけ!」

「どかない‥‥‥」


 本音で‥‥‥?


 《俺は、止まってほしいのか‥‥‥?》


 地球人ぐらい、死んだっていいんじゃないか?


 《ちがう‥‥‥それは、ちがう‥‥‥》


「そいつら殺さなきゃ、何のための不幸なんだ!! これ以上邪魔をするなら、俺はお前をも殺す!!」


 怒りが弾けた。


「その怒りを殺す為に使うな! 憎しみに花を持たせるな!」

「その船にいるのは!」

「親の仇だろうとも!!」

「綺麗事を!!」

「宇宙が綺麗でいけないか!!」


 ゼロワンのアップルフレームが摩擦、火を噴いた。


 ゼロワンのアップルフレームがゴールドファイターのアップルフレームを侵食していき、そして「イブ」と呼ばれる現象が始まった。


 駆動系統の強制停止。


 ゴールドファイターは動かなくなった。

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