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第2話 船は火星へ

 スペースピードの旅路は非常に行き当たりばったりであった。


 月に一度振り込まれるビリーの警備隊としての給料をあてにするにはスペースピードの燃料や、スペースピードに積んである戦闘機のメンテナンス費用でそれらはごっそり消える。


 すると、食費なんかも削る必要が出てくる。


 そうするのは流石にいけないだろということになり、ビリーは宇宙に点在している傭兵組合で依頼を見つけ、それを解決していく。


 船から降りた喧嘩──規模によっては戦闘ともいえる──をすることもあり、警備隊の装備を模倣して、「ルールブレード」と呼ばれる剣を持つ必要があった。


 ルールブレードというのは、細長く引き伸ばされた「コ」のような形をした「ロード」と呼ばれる物を持つ特別な剣で、「出っ張り」の間を宇宙粒子が飛び交うことにより、斬る力を得る特別な剣である。


 ルールブレードは粒子の刃が形成されていることをわかりやすく説明するために、光を放つ。


 この光というのは、人によって異なる。


「まだなんのカスタムもしてないから、お前の使いやすさとかには合わないだろうけど、お前のルールブレード」

「ほう、これが‥‥‥」

「今まで持っていなかったんだな」

「白兵戦? 肉弾戦? そういうのって、苦手なんだ」

「ああ‥‥‥」


 それに、光線銃も購入した。


 あまり金がなく、古い回転発光式のものである。発せられるビールは使用者によって色が異なる。


 この光線銃とルールブレードの光はどちらも黄色であった。


 ビリーは桃色である。


「色で強さがどうこうなるわけではないよ」

「ほう。ふむふむ。わかった、ありがとう」


 射撃の訓練をすることになり、試しに射撃場を訪れてみると、時速三九〇キロメートルで飛ぶ的にビームを見事に当ててみせた。


 射撃場のオーナーはそれに驚き、「地球人の割に強いなあ」とサインを求めてきた。


「俺のサインなんて必要かい?」

「いつか大物になるかもしれんだろう? そうだ、その時にはさ、俺が異名をつけたって自慢したいな。何が良いだろう」

「なんだってかまわんよ、君は君のお好きなように」


 じゃあ、とオーナーはサブローのサインを壁に飾りながら、閃いたように言う。


「異端児、なんてどうだい」

「シンプルだな。いいんじゃない、異端児」

「そうだね。いいね。これから俺の名、売ってくれよ。おやっさん」

「まかせなよ。がんばれよ、異端児」

「頑張るよ」


 ヴァバーナ星人のヒューマンネットワークというのは強く、「最近すごいのが出てきた」というのはすぐに噂になった。


 その評判に違わず、サブローは見事な腕前を見せた。


「スペースピードの異端児」という名前は大きく通っていくようになった。


 戦闘訓練のために二人で、重力室に入っているときに、呼び鈴が鳴って、出てみれば記者だったこともあった。


 その記者というのは、ロチャンカという星の機械的な異星人で、名はガラーキーといった。


 ガラーキーは異端児・サブローの専属の記者になろうと一足先にやってきたらしい。


「私はあなたに関する本を書きたいと思っています。ロイヤルティを払います。何でもかんでも行います。どうでしょうかっ?」

「俺はそんなに特別か?」

「は、はい〜っ! 当たり前ですよ!」

「ほんとうか? 俺と寝られるか?」

「えっ‥‥‥」

「はは、冗談だよ。俺にソッチの趣味はないんだ」

「私は、女ですので」

「えっ、そうなの? ぼくてっきり野郎かと‥‥‥」


 ロチャンカ星の人は雌雄が分かりにくいので構いませんよ、とセクシュアルハラスメントを許されて、サブローは彼女が自分に関しての本を書くのを許可せざるを得なかった。


「ありがとうございます! では‥‥‥この船に乗り込み、二十四時間張り込んでみたいのですが」

「むむむ‥‥‥し、しかし‥‥‥まぁ‥‥‥いいか‥‥‥」


 勝手に弱みを握られた異端児サブローはこうして新たな船員を手に入れた。


 手に入れたというより、手に入れざるを得なかった。


「ばーか」というようなことを、ビリーに言われて、サブローはさすがに自分の阿呆を認めざるを得なかった。


 ビリーはガラーキーがこの船にいるうちは、船の仕事もしてもらう必要があるので、それを教えた。


 ガラーキーは「本のネタにもなりますよ」と強かに仕事を覚えた。


「お前よりできる」

「俺と比べられては困る」

「なんのお話で?」

「こいつはかなりの不器用マンなので、風呂すら沸かせられない」

「栓を閉めんのをね、忘れるよ」

「しかし、スペースピードの操縦を見る限りそのような人には‥‥‥」

「一緒にやってりゃわかるよ」


 ビリーの言葉のとおり、ガラーキーはサブローのことをびっくりするほど知るハメになった。


 ガラーキーはこの時に分かったことを手帳に書いていた。


 サブロー・タキのできること

 一、料理(怪我を伴う)

 二、塗装

 三、船の操縦

 四、戦闘機の操縦


「『失敗を伴う』だったら風呂掃除もできる」

「それアリならお前万能じゃねぇかクソが」

「クソは言いすぎだな」

「しかし‥‥‥なぜ船ばかり‥‥‥」

「天才たからだ。俺は何でもできてしまうだろ。しかしそれだと張り合いがないというので、俺の深層心理のところで行動にセーブがかかってしまっているんだろうさ」

「構ってもらっえるの嬉しいからだろ?」


 サブローは黙った。


 ビリーも黙った。


 筆が走った。


 三人の共同生活のなかで、ある日、傭兵組合の依頼で人運びを頼まれることがあった。


 それはカーティという星の貴族の令嬢を火星まで運ぶ仕事。


 船のなかに令嬢シシリィ・パパパリアとその側近のカジラを入れると、カジラは操縦席にいたサブローにキーを渡した。


 マップ機にそのキーを差し込んで、経路を表示する。


「ほう。デブリ帯を通るので?」

「かないませんか?」

「可能だけれど」


 サブローは、コミュニケーションルームの重力発生装置のスイッチを押しながら、わずかに笑みを浮かべて言った。


 ここ最近、ついてきてくれる者が現れたおかげでリラックスすることができている。


「ちょっと荒くなっちゃうな」

「かまいません」

「ほんとうに?」

「はい」

「そうかい。じゃあ、コミュニケーションルームで座っていな」


 船がカーティの港から出発すると、すぐに追っ手が来ていることに気がついた。


「誰のケツ追ってるかもわからんで‥‥‥」


 サブローは舐められた気になって、ガラーキーを呼び、尻に張り付いているの船のことを聞いた。


 ガラーキーは情報を持っており、 その憎っくき船はベルモンモン商会のマークをかけているので、それ関連だろうというのがわかった。


「パパパリア家がベルモンモン商会とトラブルを起こしたっていう事件を確か宇宙新聞で読んだことがあるな。八年前だったか?」

「はい、九十三年ごろの事です。パパパリア家の当主であるゲチャ・パパパリアが、ベルモンモン商会の薬物取引に起こり、領内での商売を取り締まった他‥‥‥近隣領地の領主に掛け合って、麻薬の栽培所になっていたところをすべて摘発したんです。それ以来ベルモンモン商会はパパパリア家を敵対視しており、今回もそれかなって」

「麻薬かい」


 地球でもよくある話。


「娘の安全だけでも護ろうとしているのか?」

「なるべく自分から遠ざけることができて‥‥‥そしてあなたのもとであれば、安全だろうと考えたのかも」

「異端児っての、信用されすぎるとな‥‥‥」


 ビームが飛んできた。


 サブローはブレーキを踏み、左翼ジェットを噴射させ、操縦桿を思い切り叩くように廻しながら、そのビームを避け、桿を倒しながら、赤いスイッチを押し、追っ手の船の翼にビームを当てた。


 《ほんとう‥‥‥船のことに関してはすごいんだから‥‥‥》


 ガラーキーはそう思いながら、コミュニケーションルームに向けて「緊急時につき、一時期に無重力にします」とアナウンスをかけてから、重力発生装置のスイッチを切った。


「しかし‥‥‥どうか? 無理そうだな。‥‥‥君は船の操縦はできるか?」

「高等学校で少し触ったくらいです」

「ふむ。ビリー・ガナムを呼んでくれ。この船は予定通りに火星に向かう。俺はあのハエどもを叩いてくる」

「は、はい!」


 ビリーがやってくると、サブローはビリーに操縦をまかせ、マシンデッキにのぼって戦闘機に火をかけた。


「あいつ、なんだ?」


 ビリーは呟きながら、コミュニケーションルームに戻ろうとするガラーキーに、「お嬢様がたに、ヘルメットをつけるように」と言いつけた。


「大丈夫なのか?」


 シシリィお嬢様はヘルメットをかけながら、不安そうにカジラに言った。カジラは窓から外を見た。


 窓だけでなく、艦内のモニターには戦闘の様子が分かるように、スペースピードに取り付けられたカメラがとらえた映像がうつされている。


「あの小型の戦闘機、異端児乗ってるよ!」

「‥‥‥‥‥‥」


 サブローは空に出ると、自動照準を切って、モニターのライトを二段階下げた。


 敵船がビームを放ってくると、それが目立ち、回避に対する反応が早く出る。


 これを説明すると、ビリーは「そんなわけねぇだろ」と否定したが、これはライフハック!


「ん? なんだこれ?」


 要らんボタンがある。簡素な説明文もある。


「‥‥‥宇宙警備隊め。人型ロボットなんてかっちょいいもの作ってたのか‥‥‥」


 宇宙警備隊の戦闘機は作業用に人型に変形する機構が備わっているらしい。


 《いつかやってみたいな。船に戻ったらお願いしてみよう》


 サブローは敵船にビームを撃ち込んでいった。


 黄色の光の線が走る。


 敵船のパイロットもどうやらそれなりにできる奴らしく──あるいは、幸運か──サブローのビームを回避する。


 と、戦闘機がいくつも飛び出してきた。


 その戦闘機のコックピットを避けて撃ち落としていくと、一機やたらと敏速に動くのがいた。


 それはどうやら傭兵らしい。


 ガラーキーに通信を繋げて、その船の特徴を言うと、ガラーキーは「それは!」と驚いたような声を出した。


「あなたと同じくらいの名声を持つ、有名な傭兵ですよ! 金を積まれれば何でもやるって噂で、ファーリピア星人です」

「ファーリピアか‥‥‥」


 ファーリピア星人は獣のような毛並みを全身に広げ、マズルを持ち、頭の上に耳を持つ──人型の獣のような見た目をしている。


「えっちなだけじゃなく強くもあるのか。名前は?」

「死相。〝死相〟のシコームです」


 それが見えたら死。


 サブローは「ほう」と口角を上げると、ビリーに通信を繋げ「加速装置フルに使って火星に向かえ、ここらにデブリはない。あったとして無視しろ」と命令を下した。


 スペースピードがいなくなると、通信電波は〝死相〟の戦闘機に向かわせた。


「ファーリピア星人の国の言葉はあまり喋れないが‥‥‥。どうも、はじめまして。撃ち落とします」


 すると、向こうから流暢な宇宙共通語で「やれるものなら」と返ってきた。

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