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宇宙最高ブラディ・オン  作者: 蟹谷梅次
第1部 流れ星
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第19話 ブルース

 沈淪を象徴するような、このチッポケな組織‥‥‥。


 そんなフネに、稲妻が落ちる。


 どうやらその新入隊員は、整備兵らしく、工具を持ってマシンデッキやドッキングベイを走っているのをよく見かけた。


 意識せんようにと気をつけながら‥‥‥やはり、頭の片隅にはその新入隊員のことがあるから、身が入らない。


 思わぬ形で敵になられたので、やはりジャックは苛立ちながら、「枷をつけたまま強くなってみせる」‥‥‥と、いきがった。


 ジャックはよく作戦に重宝された。


 暴れ馬のような‥‥‥狂犬のような…率直に言って、頭になんかがあるタイプの人間ではあったが‥‥‥‥‥‥こちらが突きさえしなければ優秀な軍人なので、扱いは慎重にされながら。


 まるで爆弾のような扱いだな、と誰かが言った。


「その、ジャック・ベイムって人は、そんなにおかしいんですか? なんか最近『乱暴児(レイジガイ)』だなんて呼ばれてますが‥‥‥」


 この頃の活躍が大変目覚ましいので異端児(クールガイ)を真似て、ジャックはそのように陰で呼ばれていた。


 ひどいあだ名である。


 新入の整備兵が、そんな乱暴児ジャックの機体を整備しながら、先輩たちに訊ねた。


 その先輩たちは笑ってみせた。


「ありゃ人の言葉を知ってる爆弾みたいな男だからなぁ」

「ぶっちゃけなんで軍隊に入ったのか分からんよなあ」

「コックピットは毎度壊すしな」

「そこ、ちょっと困りますよね」

「ハハハ、慣れりゃ赤子だよ、あんな男」


 新入整備兵ハイ・ムーンはそのやり取りを眺めながら氷のように冷めた目でジャックのモアⅡを見つめる。


 《あんな乱暴な使い方をしているのに、宇宙ゴミに当たらないし、被弾もしないし、この艦じゃどんなパイロットより上手いんだ、彼奴は‥‥‥それなのに、普段の乱暴なやり方が気に食わないからって、奴の全てを笑いものにしていいと思っているのは‥‥‥》


 急加速で剥げた塗装を直しながら、ハイは「そんなのって、チャンチャラおかしいよな‥‥‥」と呟いた。


 ジャックはシミュレーションマシンから出ると、自分に作戦がないのを八度にわたって確認すると寝室に帰った。


 オペレーションルームからは「食事をとれよ」と怒鳴りつけられる。ジャックは「うるさい」とつぶやいて、意地でも眠った。


 かれこれ何年も飯なんて食っていないし、自分がそういう事をしてもいいというような事は思えなかった。


 パイロットだから歯も強いほうだし、水はちゃんと飲んでいるからべつにいいだろと思っていた。


 それでも栄養失調で死んでくれないのは火星生まれの意地だろうか。


 メインブリッジでは、艦長が頭を抱えるもので、兵士一人一人のメンタルを慮ってカウンセリングを実施しても、ジャックは頑なにそれに参加しない。


「自殺志願者みたいだ」


 オペレーターのひとりがそう言う。


 きっともともとそうだったのだろう。


 空暦・一〇四年、「毟り合い」があったその三日前に、ぼろぼろの孤児が艦長の前に現れた。


 どうやら軍の追っ手を巻いて、侵入してきたらしく、彼は名をジャック・ベイムと名乗った。


 火星で、母と姉が殺された日からずっと、人を殺そうとするその心を憎んできた‥‥‥一種、滝三郎と同じ目をした少年だった。


 威圧を受け、仕方なく少年を保護すると‥‥‥少年は、整備中だったモアを勝手に使って、戦場に出てしまった。


 暴れ馬は昔からで、サブロー・タキの信条に則った撃墜を行った。


 その数、二十機。


 昨日まで戦闘機を動かしたことがなければ、手引きを知ったこともない子供が、ただ乗っただけですべて理解してしまったと言う。


 しかし‥‥‥セカイダーを見た一瞬、何も分からなくなったと言う。


「セカイダーの重力に才能を吸われた子供ってのはだな‥‥‥これから努力して、大きくなっていくってことだ‥‥‥」


 セカイダーの製造は行われなかった。


 初段階モアとデピアを掛け合わせてしまえば簡単に完成してしまうだけのものだけれど、それの製造はいつも失敗してしまう。


 宇宙粒子が運んでくるオカルト的な運命の何かで、セカイダーは「資格を持つ者が近くにいる場合」にしか製造ができない。


 まるでゲームの世界のような。


 ファースト・セカイダーはどうして誕生できたのか。


 そんな問題はあるが‥‥‥。


 ある日‥‥‥。


 艦のメインブリッジがビームで焼かれた。


 操舵・操縦を失った艦は、混乱のままに近くにあったデブリ帯にぶつかろうというところで、ジャックがメインブリッジの焼け跡でまだなんとか蘇生できた操縦の神経管をモアⅡに繋ぎ、操縦をモアⅡで支配し、安定させることができた。


「ベイム! どういうことだ!?」

「しるかよ! ‥‥‥知るかよ!」


 ジャックは、すぐそばに落ちている、艦長帽を──艦長帽は特別な布でできており、艦が落ちた際にもどの所属が分かるように、ビームでも燃え尽きない仕様になっている──それを見ながら、乱暴に応えた。


 無理やり焼け跡を触ったので、両手を怪我して、桿を握るたびにぐじゅぐじゅと痛みが走るけれど、どこかに着陸しなければモアⅡのアップルフレームが燃えてしまう。


「的確に‥‥‥艦の首を狙ってきたんだ‥‥‥て、敵は‥‥‥!! し、シン・ナッシュ伍長は!? 乗組員の入れ替えタイミングなので、かろうじて彼がおるんでしょう! 指揮させろ、彼が一番階級上なんだから!」

「あ、ああ! 伍長ならいま‥‥‥敵機発見のための指揮を飛ばしていて‥‥‥」

「そんなことより脱出させんだよ! フネがもたないんですよ!! 報復より生存を選ぶ時でしょうに! 何を考えてんだあのおばかちゃん!」


 そこで、通信が入った。


 どうやらシン・ナッシュ伍長である。


「なにか!!」

「スペースピードが見えた、来てくれたんだ」

「スペースピード‥‥‥!? バカいえ、来てるわけないだろ!」


 シン・ナッシュ伍長が部下の機からの映像をサブモニターに飛ばしてくれたのを見ると、一見すればほんもののスペースピードだが‥‥‥。


「よく見ろ‥‥‥! 白い戦闘機があんでしょ!」

「シコーム・ダンの‥‥‥一昨日もあったんだ!」

「シコーム・ダンが一日以上スペースピードにとどまるわけないでしょ、異端児はおらんのですよ! あんたの弟は引き止める性格か!?」

「で、では‥‥‥」

「バッキャロォ‥‥‥それが敵機だ!」


 スペースピードの姿を借りた敵。


 宇宙警備隊はそれを知り、怒り心頭に発する。


「ビームの影響はマシンデッキにも出ている、出られるマシンが少ない!」

「何と何がある‥‥‥!?」

「試験的にセカイダーを作ろうとしたときの」

「デピア? ならセカイダー作らせてくれ! 新入整備兵の‥‥‥ハイ・ムーンを中心にしときゃあ、一時間もかからん、その間、俺は偽のスペースピードを追う! シン・ナッシュ伍長! 見失わせるなよ!」

「加速装置を積まれている可能性があるんだから、限度ってもんがある。追うにしたって‥‥‥」

「あんたの弟ほどに加速装置に愛された操舵手も操縦士もいないだろうに‥‥‥とりあえず囲んでおけば逃げられまい! スペースピードは構造上、少しでも詰められれば、下には逃げらんないんだから」

「そもそもセカイダーを作るっていうのも!」

「俺が乗るんだから、できるはずだ!」


 その言葉通りに、一時間程度でセカイダーは完成した。


 しかし、完成したセカイダーの見た目はまるでサブロー機とは違う。ハイ・ムーンはそれを見て、「ゼロワン」と名付けた。


 ゼロワンはとうとう体裁も気にせず消えようとしてしまう偽スペースピードに向かって飛び出していった。


「ジャック・ベイムさん、加速装置を二つしか詰めていないので、あまり勢い込まないでください。ルールブレードも‥‥‥」


 まるで氷のような声。


 その声で自分の名前を呼ばれるのは、普通であれば嬉しくなってしまうのだろうけれど、いまはそれどころではない。


「口数が多い。俺に通信をつなげるな」


 スペースピードは加速装置をいきなり前段階に仕掛けたが、光速世界に入ろうとしている。


 ジャックは宇宙服を着てからブラディ・オンのスイッチをオンにして、コックピットハッチを空けながら偽スペースピードに向かってセカイダーをぶつけた。


 光速世界にはいると同時にブラディ・オンでスペースピードと合体が起き、質量性が増して、動けなくなった。


 この合体現象は三分は続くのでジャックはすぐに応援の艦が来ると、光速世界が発生したであろう座標まで連れて行った。


「うう、うう‥‥‥」


 ジャックは操縦室に乗り込むと、操縦室にいた多少ブサイクな男や、コミュニケーションルームにいたかなりブサイクな乗組員たち全員の腕をルールブレードで斬り落とした。


「なぜあんなことをした」

「艦長は俺の親代わりだった。それだけだ」


 それ以上、ジャックは何も言わなかった。


 次に何かを言ったのは、「宇宙警備隊やめる」という言葉で、そのとおりにジャックはすぐに降りてしまった。


 艦にのこったゼロワンはジャックと製造主のハイ・ムーン以外のパイロットの操縦に反応しないようだった。


 どういうメカニズムで‥‥‥?


 ハイ・ムーンはなにを考えたのか、ゼロワンに乗り、ジャックのあとを追った。


 ジャックは小さな惑星の川のほとりで三角座りをして、声を出さないようにしながら泣いていた。


「反抗期だったわけですか、いつものあの暴れ馬みたいなのは」

「ハイ・ムーン‥‥‥なぜここに? おまえ、軍の人間だろ」

「ゼロワンが動かんのです。邪魔になるので、解体しようという動きも見られて。せっかく作ったのに、またバラバラにされたんじゃたまったものではないので、あなたに使っていただきたく」

「‥‥‥反抗期じゃない。敵に見えてたし、実際敵なんだ。俺は異端児のように強くなりたいんだ。それでも、強くなるために必要なことをしていれば、あの人はそれを邪魔する‥‥‥あのフネにいたほとんどの人間は、俺の邪魔なんだ。邪魔な人間は敵なんだ」

「とんだクソ野郎ですね」


 ハイ・ムーンはゼロワンのハッチのキーをジャックに握らせた。


「僕はゼロワンの面倒を見られる唯一の人間で、あなたはゼロワンを動かせる人間なんですから、立ち直っていただかないと」

「俺は挫けていない‥‥‥ただ、方向性が定まらない。ここだけの話、正直に言うと、俺は、俺は、人を殺したくて仕方がない。俺ばかり不幸になる。俺は地球人じゃないんだ、君は確か地球生まれ地球育ちなんだろ。火星移民を汚いという奴らのお仲間だ。あの宇宙海賊も‥‥‥地球生まれだった、だから‥‥‥地球人は、憎い‥‥‥!」


 太陽系人は本来であれば、空暦などで生きていられるほど大がかりな生き物ではないのかもしれない。


 太陽系での問題が解決していないのに、自分たちの銀河の外の面倒まで見きれるか。

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