第12話 セカイダー
ミャウミーは逮捕され、その他の隊員と称されるれんじゅうも連邦政府の調査機関に引き取られた。
全力展開ブラディ・オンの一斉放射を受け、人工星は粉々になった。
その報をうけ、ミャウミーは泣いた。
サブローは思うところがあり、ミャウミーの面会に度々足を運んだ。強化ガラスの板越しに対面する。
頬の傷は瘡蓋が出来ていて、治りかけているのがわかる。
サブローはそこで、ミャウミーに自分の過去を話し、ベラル・ディールという男の苦悩を語る。
「そんな過去があって、どうして死を恐れないの」
ミャウミーは訊ねると、馬鹿な質問だと自分でわかった。
「死ぬのは怖い。殺すのは怖い。だから、殺さないで済む力があるなら、それをするのか一番だと言うんだよ、ミャウミー・カーミー」
「違う‥‥‥死をなくせば良いのよ。死なんての、あるから‥‥‥みんな、みんな泣きながら朽ちていくんだわ」
「それこそ間違っているんだ。俺たち生きる者にして良いのは、『死をなくすこと』なんかじゃない」
サブローはミャウミーと頻繁に会った。
そこで、ミャウミーがコーマの生まれだとわかると、コーマの哀しい結末を思い浮かべ、「だからか」と理解した。
二人は互いのことを話し合い、互いのことを理解するようになった。
「あいつにあるとするなら優しさだよ」というのは、ビリーの言葉だったが、ミャウミーはそれをまさしく実感していた。
眼差しも、何も、まだ二十一歳とミャウミーと同じほど若いのに疲れた男の顔をしていた。
それでも、サブローはこの世界を愛していた。
「どうして、そんなに人を愛せるの。宇宙に疲れているのに」
「俺が愛してやらなきゃならなかった人が、俺のことを愛してくれているんだ。だから俺は‥‥‥その人の分まで人を愛したいし、愛されたいと思っているんだ。これは、なにくその根性だよ」
酒の趣味も煙草の趣味も、好きな音楽も、よく合った。
サブローは「本の編集をしたんだ」と、子供のための事を語ってみせたこともあった。
「異端児にて」ではサブローは完全無欠のように書かれているけれど、ミャウミーもなんとなく察していたところではあるが、サブローはナイーブなところのある男だった。
不思議な縁もあるもので、ミャウミーはそういうサブローの良くないところに惚れていった。
仮釈放という時になると、ミャウミーももう「死をなくす」だなんてことを言わないようになっていて、一緒にレストランなんかに行ったりして、バーで飲んだこともあった。
そして、一緒に川を眺めながら、口笛を吹いた事もある。
「あなたの戦闘機ね、あれ‥‥‥黒一色じゃ勿体ないわ」
「勿体ない? そんな事を俺に言ったのは君に初めてだ」
「そう? 勿体ないのね」
「フネかい?」
「あなたよ」
「そうかい」
船に乗っていないときのサブローはぼーっとした人で、けれどなにをさせても得意なものだから、ミャウミーには立場がなかった。
しかし、不思議と居心地の悪さはなかった。
この人とならなんでも心地よいのだろうな、という直感がミャウミーにはあった。
しかし、事件というのは起こるもので、尋常維持機構という組織のれんじゅうがミャウミーの裏切りを知って報復をしたのだった。
その時スペースピードが滞在していた小さな星に爆弾を撃ち込むと言うじゃないか。
サブローは当然のように怒って、過去のトラウマから動けなくなっているミャウミーをバベルに任せて、「あのやろうども!」とマシンデッキに駆けていった。
ガラーキーはすぐに傭兵組合に連絡を飛ばして、シコーム・ダンを手配してくれた。
シコーム・ダンは「サブローの恋人を守らなければならないのは」と少し嫌がっていたが、ことの大きさとミャウミーの過去を知ると、尋常維持機構のやり方に本当に怒ったらしく、爆弾を落とすのに躍起になった。
やり方が汚いのが気に食わなかった、いっそう「帰ってこい!」とさえ言えばいいものを、そういう契約でもないだろうに、短絡的に爆弾を落とそうというのは、それは、それはおかしなことでしかなかった。
だから、サブローは落ちてくる爆弾をすべて狙撃して、空中で爆発させてしまうと、尋常維持機構のれんじゅうの乗っている船を、ビームで二回貫こうとした。
このときは我を忘れているのもあったろうが、やはり死ぬ程の負傷になるはずはなかった。
戦艦は宇宙粒子を一点に集めて星を消そうとしていた。
その星には思い出があった。
花屋を見て回ったし、孤児院の子供と、サブローといっしょに遊んだこともあった。
「こうしていちゃあ‥‥‥いけない!」
「えっ、ちょっ‥‥‥カーミーさん!? いけないよ!」
「カーミー、あんた何処へ?」
「マシンデッキには私のマシンもあるのよ‥‥‥尋常維持機構ボスも言っていたの、一歩先は前のはずだって‥‥‥なら、私は一歩先へ行くわ! あの人は、そうしているように、私も‥‥‥!」
「えっ?」
ビリーは少し引っかかるものをおぼえて、ミャウミーをとめるのを怠った。
結果的に、ミャウミーは空に出て、巨大ビームを放出するための砲口に自分のマシーンごと突っ込んだ。
「まずい‥‥‥!」
ギュイン、と五感すべてが体を離れるような感覚。
サブローは大慌てで宇宙粒子を操った。
シコームもコックピットだけでも切り離そうとビームで接続部分を破壊しようとするが、デピアの接続部分は強固になっている。
操ろうとした。
しかし、巨大ビームの宇宙粒子がそれにノイズを生じさせた‥‥‥あんまり質量があるので、操りきれなかったのだ。
結果、ビームは星をそれたが、ミャウミーの戦闘機が半分巻き添えを食らった。
「ミャウミー!」
すぐにスペースピードが追いついて、マシンデッキに収容された。
「ミャウミー!」
コックピットから転げ落ちながら、ミャウミーに駆け寄るが、生きられないのは確実だった。
「あの、星にね‥‥‥サブローさん‥‥‥あの星に、私と、あなたの思い出‥‥‥あったの‥‥‥わかる?」
「ああ、ああわかるよ、わかるよ、ミャウミー」
ミャウミーの呼吸が短くなっていく。
身体の中に宇宙粒子を入れて、なんとか生命維持をさせようとするが、そんな事をしたって、明日を見ることなど。
できやしない。
「しくじったのは、私なの。ごめんね」
「そ、そんなの‥‥‥ぼくにいってもしかたないよ‥‥‥」
「サブローさん、私、サブローさんに出会えて‥‥‥いろいろ、考えちゃったのよ。毎朝あなたと、ごはんたべて‥‥‥地、球‥‥‥移住して、お隣さんと挨拶して‥‥‥お花、育てて‥‥‥」
「ミャウミー、喋んのいけないよ‥‥‥しゃ、喋っちゃあダメだ」
「でも‥‥‥無理らしいわ。ごめんね、お先に行くね、あなたを愛するの、ここまでみたい」
「待って、嘘だ、違う、ダメだ、ばか、だめだ」
「ダ‥‥‥」
ミャウミーは毎日のことを日記にしていた。
そのなかには「デピアはきっと部品にしても役に立つから、モアとくっつけて、あの人の力になれたらいいな。私には使い道がないから」という言葉があり、サブローは業者を呼ぶと、自分も混ざってモアの改造を施した。
黒を基調として、黄色の稲妻のような模様が入っている。
「モアから逸脱したぞ‥‥‥」
「なら名前は変えるさ」
「なにに?」
「なにに? ハハ‥‥‥さてね」
後に「セカイダー」と命名されるサブロー専用機は不可解なことに、再現をしようとしても、何らかの失敗が重なり制限ができないという事態に陥る。
時折これの再現ができて、セカイダーの製造ができてしまうマニアがいるが、そのマニアのすぐ近くには決まって宇宙粒子を黄色に染める者がいる。
「尋常維持機構‥‥‥知らんぜ、聞いたこともない」
「傭兵も知らんとなると、身内だけで回している組織らしいな‥‥‥宇宙戦争の時代にできた秘密結社かもしれないな」
「連邦にも登録してないんだろ、金はどう回しているんだろう?」
「宇宙戦争で財宝が盗まれたことがある」
「火事場のドロ?」
「そう。おそらくそういう金の行き着く先に尋常維持機構もあったんだろうよ。そうでなければ説明がつかない」
シコームはサブローを見つめた。
「大丈夫なのか?」
「ああ。ここで俺が自暴自棄になってしまうのもいいかもしれないけれど、そういう場合じゃない」
「そうかい」
今の時代には珍しい、成長しきった男の顔で、「なにか?」と少しばかりの笑みを浮かべながら、サブローは自分より少し背の小さいシコームを見た。
シコームは「なんでも」と返して、目をそらす。
「なんでーの、あれ! あれが大人のコミュニケーション!?」
「言ってやるなよ」
「だってぇ、あれじゃ中学生みたいだ」
そういう一幕を挟みつつ、サブローは変形の確認を行った。
人型への変形までに何秒かかるか? 操作感覚はどの程度か?
モニターとカメラの性能が上がったので、視界は万全であるのが良いこととして、モニターの明るさを五段階として、二段目に固定。
「燃料消費が激しいな‥‥‥ガソリンだって安くないんだぞ‥‥‥」
その問題を解決しなければならなかった。
サブローは時折そのことばかりを考えるようになり、機械入門の本を買って寝る前にはそういう物を読むようになった。
そして、思いつく。
そして、つくる。
「何を作っているんだ?」
精神の病気が心配になってシコームは時折スペースピードを見つけると降りるようになっていた。
「これが何かって? なにに見える?」
「風車か?」
「君のその考察は素晴らしい。宇宙粒子を取り込み、擬似的な液体を作り出すんだ。その液体はつまり宇宙だな。宇宙全体を使ってタービン回すんだよ。この世はなんでもかんでも回転してるやつが一番強いからね。まぁ自体はこれで行うことができる」
小さな機械を持ち上げて、シコームに渡す。
ただの鉄の塊のように見えるが‥‥‥?
「こんな小さなもので戦闘機ひとつ動かせるようになるのか?」
「ああそうさ」
完成は三日後だった。
クライムジェネレーターは、試験的にサブローの機体に取り付けられることになった。
それに際して、「これは新しい世界を作り出しますよ」という言葉がきっかけで、サブローはそれを「セカイダー」と命名した。
「セカイダー?」
「ああ。‥‥‥本当のことを言うと、立ち直ってないんだ。なにしろ‥‥‥ミャウミー・カーミーは俺の世界になるかもしれなかった女性だ」
そう言って、サブローは操縦室に向かっていった。
残されたシコームは黒と黄のセカイダーを見あげて、「俺でいいかい」と訊ねるように呟いた。
「あんたからしたら、いやだろうな‥‥‥死相なんて物騒なのはさ‥‥‥悪いね、こっちはこっちで勝手に愛するよ」
そういえば、今まで気にしたことなんかないけれど、どのくらい歳が離れているんだったか。
そんなに離れていない気がする。
空暦八十一年に生まれたので、二十三歳か。
「ちょうどいいくらいか」




