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宇宙最高ブラディ・オン  作者: 蟹谷梅次
第2章 クールガイは堕ちない
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第11話 腕っぷし

 哀しみがひろがっていく。


 憎しみを超えて‥‥‥哀しみが‥‥‥哀しみが‥‥‥。


 はるか、宇宙の‥‥‥心さえもが、その哀しみにのまれてしまう。


 失わないようにと気をつけていても、いつかそれはやってくる。


 人は生まれる限り死んでいく。


 尋常維持機構。


 人の死をなくそうという組織。


 ミャウミー・カーミーはコーマという星で生まれた女だった。


 美しい花が咲き誇る優しい国で、ドーナツ建造後は毎年のように観光客がやってくる、みんな笑顔になる光の国。


 ミャウミーはコーマが大好きだった。


 しかし、宇宙戦争があった。


 ジロー・アカギという地球人が軍隊を引き連れて必死になって守ろうとしてくれたらしいが、それも虚しく、惑星規模の爆弾を投下されてしまい、コーマは塵になった。


 ミャウミーはたまたま宇宙警備隊の戦艦に避難していて無事だったが、それがかえって、故郷の消滅を目撃する手伝いをしてしまった。


「あああ、ああ! ああーっ!」


 ミャウミーは泣いた。


 泣いて、泣いたところで何も変わらないということがわかっても、泣き止むことができなくて、立ち上がるのも出来そうになく、まばたきと同じ数思い出して、心臓の鼓動と同じ数だけ涙を流した。


 死さえなけりゃ。


 死さえなくなってくれりゃあ。


 死さえ。


「‥‥‥隊長、この、〝異端児〟っての知ってますか?」

「知らないね。傭兵かい?」

「ここ数年で一気に名前を上げてるんです。卓越した操縦技術を持っているそうで、最近本も出たんですよ。お読みに?」

「ならないよ。ファイターは人を殺す乗り物だろ」


 ミャウミーは部下が出した「異端児にて」という本を片手で払いながら、煙草を灰におさめていく。


「おやめなさいよ、隊長、身体に悪い」

「煙草がいつから子供のおもちゃになって?」

「いけずを言うんだから‥‥‥」

「これをね、かっこうつけるために吸うのは‥‥‥電光おたくか、ネクラだけだろ‥‥‥」


 ミャウミーの視線はふと「異端児」の文字に向いた。


 部下がいなくなると、その名前で検索にかけてみて、いくつかの記事がヒットすると、そのひとつを読んだ。


「‥‥‥。‥‥‥人を殺さない男‥‥‥」


 戦闘の映像も乗っており、見れば、まさにミャウミーの理想のままの男であることがわかった。


 圧倒的な力があり、圧倒的な技術を持ち、それであるのにその全てを「人を殺さない」という目的のために使っている。


 自分の船の部下にもそれを守らせ、そのせいで部下が堕ちそうになれば手助けをしてやる。


 最近〝死相〟と呼ばれた、ミャウミーの嫌いな傭兵も異端児に影響を受けて人を殺さなくなったという。


 そして、その男は、ジロー・アカギの孫と言う。


「‥‥‥なんで、いままで宇宙に出てきてくれなかったんだ」


 ミャウミーはすぐに異端児サブローの船に部下を二人ひきつれて向かっていった。


 スペースピードのマシンデッキには黒いマシンが乗っていた。


 事前にアポイントメントをとっていたので、船長──つまり、サブロー自らが出迎えてくれたので、ミャウミーは「おお」と感動する。


 この宇宙にこのような飄々とした男は山ほどいるが、ここまで心拍の落ち着いた人間はあまりいない。


 ミャウミーとサブローはコミュニケーションルームで話をするらしいから、バベルはその空間に入っていくことができなかった。


「あいつに女の来客だよ」

「珍しくはないけれど‥‥‥なんだか様子のおかしいものでしたね」

「そうなの? アニキ、ビジネスって言ってたじゃない」

「ビジネスでしょうけど」


 サブローとミャウミーの会話は何気ない世間話から始まっていて、たとえば「最近はドーナツの物価が高くなってきた」だとか、「好んでのんていた煙草が何処に行っても手にはいらない」だとか。


 そういうワンクッションを挟んでから、ミャウミーは自分がここにやってきた理由というのを話した。


 死をなくすための組織、尋常維持機構。


 その組織名を聞くと、サブローは思い当たるのがあるのか、グラスを触るのをやめて、手を組んだ脚の上に置いた。


「その組織に、俺に入れと?」

「そう。どう? 貴方はどうやら人を殺すのを嫌っているから、悪い話ではないように思える‥‥‥というより、都合のいい話ではなくって?」

「お断りだね、悪いけれど、思想っていうのは‥‥‥無常観を嘆くためのものじゃない。俺はそう思うがね。生憎と」

「‥‥‥なぜ?」


 ミャウミーは思わず立ち上がる。


「人は死ぬから人だ。花は枯れないのかい?」

「‥‥‥‥‥‥」

「その、尋常維持機構とやらとは、どうやら相容れんよ」

「死というのは、別れなのよ! 大切な人が死んで‥‥‥今後自分が生きる世界には、その人が存在することは一切ない、そんな事を死というの! あなたは、その辛さを知ったことがあって!?」

「あるさ」

「嘘よ!」

「ありますね。父と、母と、姉が死んだ。俺の言動が悪いせいで、俺を守ってくれていた兄が自殺した。家族が死ぬとき、俺はいつもぬくぬくと自分一人安全なところにいた。そういうところを何度も嘆いて、自分のことが嫌いになって、『人なんて死ななければいいのに』と思うこともあろうさ。でもね‥‥‥いいかい、カーミー。人は死なんと始まりませんよ。どいつもこいつもが不死じゃ何の風情もありゃしなくって‥‥‥」


 交渉は決裂。


「かえります」

「そうするがいいや。足元気をつけて。紹介ありがとうね」

「お気になさらず‥‥‥!」


 それからというもの、ミャウミーの耳にはやけに異端児のニュースが入ってくるようになった。


 また無殺人で二十機ひとりでやっつけたと。


 また特権勲章を授与されただの。


 本の売り上げが大宇宙出版で一位になったと。


 気に食わなかった。


「ようするに、サブロー・タキっていうのも、理想を追い求めるだけで、実行に移さない理想家っていうだけじゃありませんか!」

「まぁまぁ、よしなよ。気の良い兄ちゃんじゃねぇかよ」

「そう言って、男はみんな彼の味方をするんだから」

「あの人に惚れんで、この空やってられますか。知ってますか、〝なりたがり〟って言ってね、異端児が吸ってたタバコやら飲んでた酒やらを真似して飲む若者が多いんですよ」


 それだけ人気、とのこと。


 この時のミャウミーには、何が何でも「生き物から死をなくす方法」を確立させてやるという、ある種の覚悟が決まっていた。


 投薬でもダメというのなら宇宙粒子を独特のカタチにねじ曲げて、それを宇宙全体に放出してやるということで、その為の人工星の建造を開始させた。


「一度作ってしまえばこんなもの‥‥‥」

「そうやって意地になるのは、自分のやり方に誇りを持てないガキのことだぜ」


 その声はサブローだった。


「な‥‥‥ぜ、ここに!?」

「宇宙連邦からお達しを受けてな。連邦未登録の不明組織がよくわからんお城を建てているから見てこいってな。なぁ君、こりゃなんだい。こんな大きなものに‥‥‥」

「お前たち、やっておしまい!」


 男たちが出てくると、ルールブレードを手に取って、サブローに斬りかかる。サブローは両腕を広げ、宇宙粒子を急速に拡散させ、男たちを吹き飛ばした。


 ミャウミーは光線銃を取って、構えた。


「撃つのは勝手だが、スカーフには当てるなよ。俺の宝だ」

「う、うう‥‥‥」

「隊長! こちらに!」


 補完者であろうか、サングラスをかけた男が右腕を引き絞ると、ミャウミーは隠れた。


 宇宙粒子による光学迷彩らしい。


 男たちが殴りかかり、サブローはそれを返り討ちに合わせるので手一杯で、まるで追えやしなかった。


「君たちわかってるのか! 死ななくなるっていうのは‥‥‥」

「うるせぇ! 隊長はいま一番この組織の理念にかなった事をしているんだ! てめぇのような、理想論ばかりほざくガキの考えじゃ理解できないような計画だ!」

「ガキらしいのはどちらかよ!!」


 補完者同士のぶつかり合いは粒子の操り合いである。


 質量を持った威圧がぶつかり合い、バチバチと火花が散ると、最初に動いたのはサングラスの男だった。


 威圧の中を泳ぐようにして、サブローに掴みかかると、思い切り持ち上げ、地面に叩きつけるように落とした。


 スチール製の足場を崩しながら落ちていき、サブローは頬を切りながら、光線銃から放たれるビームを敷板を回転させて弾き返すと、自分の銃の引き金を引く。


「なにかデカいことをしたいから無理矢理に理屈を建てて、ジャングルジムを作ったんだよなぁ!? それで他人がどうなろうともわかんないで、なんの信念もないんだから、誰がついてくるかもわかんないでさぁ!!」

「バカを言わないで!」


 声が響いた。


「死なない世界の何がいけなくって!?」

「人が老いて、死にたくなっても死ねなくて、人が増えるばかりで、捨てる場所がなくなるぞ!!  身体が死なないだけで魂の死期が来る!! その時また、君はバカみたいに嘆くだけだ! 求め過ぎなんだよ、君は!」

「黙って! 黙って、そして、死ね!」

「死なせたくなちんじゃなかったか!!」


 サブローは確かに腹が立っていた。


 こんな子供じみた理想論の為に人の不幸があるんじゃない、と。


「私はこの宇宙粒子放出砲で世界を新しく変える! 死ななくなってみんな喜ぶ! 貴方だけだわ! ネガティブを言うのは!」

「ふざけるな‥‥‥!」


 サブローはベルトのバックルに取り付けていた緊急連絡用の赤いボタンを押し込むと、人工星の外側に待機していたスペースピードがその信号をキャッチし、接近してきた。


「君のくだらない英雄譚の為に‥‥‥誰かの苦痛を蝕むな!」

「あなたが言えたこと!?」

「俺は英雄になろうと思った事はない!」

「嘘を言う‥‥‥では、あの人気はなに! 子供たちに人気なようで! スペースピードのおもちゃは何!」

「人柄が、愛されたんだろうさ‥‥‥!」


 ミャウミーはマシンデッキに走った。


 そこには最新のデピアという戦闘機がある。


 人工星を破壊するかたちでサブローの専用機が投下された。


「二つの戦闘機が空に上がった‥‥‥! 隊長やめろ! その男に空では勝てない! だから陸上でカタをつけるつもりだったんだ!!」

「やらなければわからない! ボスだって言っていたでしょう!? 一歩先は前のはずだ!」


 サブローはコックピットに降りると、通信装置を使い、スペースピードの操縦室にいるバベルとビリーに連絡をつけた。


「ビリーは人工星から生物反応がなくなり次第に全力展開ブラディ・オンでビームの一斉放射、バベルはビリーの言うとおりにふかせよ! できるか!」


 元気な返事が返ってくると、サブローは右手で桿を握り締め、左手で前髪を後ろにかき上げた。


 ミャウミーはヘルメットをつけ、急加速でサブロー機に突撃。


 サブローはそれを冷静に見切り、桿をダンダンと叩きつけるように絞りつけ、廻した。


 サブロー機は急速なジェットの逆噴射で後ろに下がり、ジェット噴射を巧みに操り、ケツの方から上昇していくと、機体の位置はサブロー機が上、ミャウミー機が下という構図になった。


「まずい‥‥‥! あんな旧式の田舎マシンに‥‥‥!」


 ビームが放たれると、メインとサブの両方のカメラに直撃を受けた。


 デピアのコックピット内ではモニターに砂嵐が走り、まるで何も見えない、暗闇である。


「私は、学校では‥‥‥一番の成績だったんだ!」

「ヘタクソなのにか」


 攻撃を受けたらしい。


 ドンと衝撃が走り、ミャウミーは気絶した。

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