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第9話

 俺が、愛瑠のちょっと溶けたアイスクリームのように甘ったるい誘惑に、何て答えるべきか考えていた、その時だった。


 「……ぃちゃん。お兄ちゃん、入るよ」


 ガチャッ。


 いきなり、奏美が部屋に入ってきたのだ。


 俺は慌てて「ちょっと待ってね」と愛瑠に伝えた後、スマホの画面を手のひらで隠してながらベッドに押し当て、奏美の方を見た。


 「な、なんだよ奏美。いきなり部屋に入ってくるなよ」


 普段、奏美が俺の部屋に入ってくることはほとんどない。


 小学校までは何かあればすぐ俺の部屋に入ってくるお兄ちゃん子だった、と俺は記憶している。


 でも、それはもう終わったことだ。目の前にいるのは、ただの反抗期の生意気な妹だった。


 「いきなりじゃないから。何度も呼んだんだよ。ご飯できたって。お兄ちゃんお腹すいてるでしょ?」


 ああ、昼ご飯か。なんだ。


 そう、油断していた。


 「お兄ちゃん、誰と話してたの? さっきから外まで聞こえてきてたんだけど、相手女の子でしょ? でも、夢乃先輩って感じでもないし、たぶん高校でできた友達、だよね?」


 うっ。俺の顔はわかりやすく固まってるはずだ。


 こいつ、マジで妙にこういう勘が鋭いんだよな。彼氏になった奴は大変だわ。


 俺が何も言えないでいると、奏美は無言の肯定と思ったらしい。


 「でも、彼女じゃないよね、絶対。お兄ちゃんに彼女とかそもそも無理だし。まあ、頑張ってね~。ご飯先に食べとくから、ゆっくり話していいよ」


 バタン。


 奏美は言いたいことを言ってすぐに俺の部屋から出た。そして、1階に向かって大声を出した。


 「お母さーん。お兄ちゃんが女の子と電話してるー!」


 おい、奏美お前いい加減にしろよ! 


 なんでわざわざ母さんに言うんだ。絶対に面白がって後で何か聞かれるに決まってるだろ。


 でも、俺は通話中だ。生意気な妹に反論の1つもすることができない。


 「そろそろい~い~?」


 スマホから甘ったる~いアニメ声が聞こえてきた。やばっ、結構長い時間放っておいてしまった。


 「待たせてごめん。ちょっと、妹が部屋に入ってきて。うるさくってさ」


 「聞こえてたよ~。妹ちゃん面白いね~。今度会ってみた~い。でさぁ~、慎一の友達6人で~、LANEのグループ作らな~い?」


 へ? なんで? いきなり?


 愛瑠の唐突な提案に、俺は電池が切れたロボットみたいにされてしまった。


 「え、あの、ろ、6人でLANEグループ? なんで? 愛瑠って、雛崎以外俺の友達と話したことないよね?」


 顔は見えないけど、愛瑠がスマホの向こう側でこっちの反応を楽しがっているのが伝わってくる。


 「ふふ。だってぇ~、慎一の友達ってみんなイケメンとカワイイ子じゃ~ん。集まったら絶対に面白いな~って。いいよね~?」


 愛瑠はそう言うと、俺がうんと返事をする前に行動に出た。


 ポコッ。


 LANEグループの招待メッセージが1通来ている。


 名前は……、『しんいち会』? はい?


 「ち、ちょっと愛瑠。このグループ名何なの!? なんで俺の名前に会がついてるんだ?」


 「え~、だって5人とも慎一の友達じゃ~ん。どー考えても慎一がリーダーでしょ~。だ、か、ら、しんいち会って名前にしたの~。いいグループ名でしょ~」


 愛瑠のアニメ声には当然でしょ、という自信が満ちあふれていた。むしろ、いいことでもしたかのような口ぶりだ。


 え、ちょっとそれはさすがに恥ずかしいんだけど。でも、まあ、最悪、グループ名はそこまで言うまい。

 

 ただし、俺がこのグループのリーダー? ありえないだろ。あのイケメンと美少女達のだよ? いや絶対におかしいって。


 「えっと、まあ、最悪グループ名までは許そう、うん、嫌だけどね。 だけど、あのメンバーの中で俺がリーダーってどう考えても無理があるでしょ。イケメンとかわいい子の中にいる普通の男子がリーダーって、ねぇ。そもそも、俺今までリーダーなんてやったことないし」


 俺は何とか、本当はしんいち会も嫌なんだけど、どうにかリーダーだけでも考え直してもらおうと、愛瑠に頼み込んだ。


 「頼むよ、愛瑠」


 でも、返ってきたのは、それまでのかわいいアニメ声とは違った、まるで小さな鈴が遠くで鳴るような、消え入るような声だった。


 「……あたしが、慎一がいいかなって、リーダーに決めたんだけど……。そんなに、気に入らないかな?」


 心底残念そうな声でそう言われると、俺はとたんに言ったことを後悔しはじめた。


 「なんかごめんね。いや、別に絶対に嫌ってわけじゃないんだけどさ」


 すると一転、愛瑠の声が元通りの明るくて甘ったるいアニメ声に戻る。


 「おっけ~。しんいち会でけって~い。リーダーもしんいちで決定で~」


 くそっ。まんまと愛瑠の演技に騙されてしまった。


 「……はぁ」


 俺が反論する元気もなくため息だけついて黙っていると、ポコッと音がして誰かがグループに入ってきた。


 『yumeno 誘ってくれてありがとう しんいち会 いい名前だね 決定!』


 総体会場にいるはずの雛崎からすぐに連絡が来たのだ。


 そして、雛崎も「しんいち会」に賛成してしまった。この時点で2対1、これじゃあ取り消せないじゃないか。


 ポコッ。


 『あいる♥ あ~夢乃だ~ きまり~』


 その後、すぐに愛瑠は通話に戻ってきた。


 「じゃあ~、慎一から他の3人に招待送ってて~。またね~」


 そういうと、愛瑠はすぐに通話を切ってしまった。


 何か、いきなり嵐が来て過ぎ去ったみたいだ。結構驚いて疲れたけど、心地いい疲労感でもあったな。


 その後俺は、愛瑠の言うとおり彼方と颯人、そして高山に招待を送った。


 雛崎も含めて、みんな皆崎市の試合会場にいるはずだけど、試合とかの邪魔にならないかな。




 その後、俺は自分の部屋で勉強したりスマホで漫画を読んだりしていた。


 時間は夕方6時。総体の試合が終わって、今ごろみんな宿舎に戻ったはずだ。


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


 スマホの通知音が一斉に鳴った。


 見ると、予想どおり招待した3人がグループに入ってきた。


 『空野彼方 空野です よろしく』


 『HAYATO おっす! 颯人って呼んでね』


 『花音♪  高山花音です みんなと仲良くなりたいな』


 『yumeno 今ホテルで一緒にいるよ みんな「しんいち会」でいいって』


 おい嘘だろ。これじゃ、どうやってもグループ名は変えられない。


 もし、他の男子がこのグループ名を見たら、間違いなく俺は調子に乗っていると思われてしまう。


 『あいる♥ おっけ~ しんいちがリーダーでけって~い』


 愛瑠のコメントにみんなから「いいね」や肯定的なスタンプが送られている。


 はぁー。まじか。このメンバーで俺がリーダーって……。


 『慎一 わかった これからよろしく』


 その後、グループチャットはかなり盛り上がった。


 その中で、いくつかのルールや予定が決まっていった。まあ、言ってるのは大体愛瑠なんだけど。


 『あいる♥ 下の名前で呼び捨てで呼び合お~ どーせ仲良くなるんだから~』


 『あいる♥ 月1で集まってオフ会しよ~ いろんな話しようね~』


 「あいる♥ 今度の水曜休みだから集合~ 花中ジャイファル11時ね~」


 確かに、今度の水曜日は土曜登校の振り替えで学校は休みだった。部活もこの日は大会帰りでほとんどの部が練習を休むはずだ。


 ていうか、仕切ってるの愛瑠じゃん。頼むからリーダーやってくれよ。


 愛瑠のメッセには、「いいね」やその気持ちを表すスタンプが次々と押された。


 いいのかな、みんな。いきなり下の名前で呼び捨てで。


 俺には、雛崎や高山を下の名前で呼ぶのにはまだ、いやかなり抵抗がある。


 でも、みんなが賛成して決まったことだ。早く仲良くなるきっかけになるかもしれない、と前向きに考えることにした。

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