第8話
こんな感じで、俺はハナコー1年の美少女トップ3(順位はわからんけど)と友達になってしまった。
周りから見たら、何てラッキーな奴だ、って俺のこと思うだろうな。
でも、もし仮に好きになって告白しても結果が分かりきってる相手だから、好きになることはない、と俺は常に周囲の男子に断言していた。
その結果、俺が人畜無害な、かわいい女子に興味がない男だから3人と友達になれたんだろう、何なら彼方や颯人と友達になれたんだろうと噂されるようになっていた。
今も、総体に行かず教室に残っている男子たちが、俺の話をしているのが聞こえてくる。
「おい、園山 って雛崎さんと仲いいだけじゃなくて、陸上部の高山さんとも一緒に帰ってたんだけど。何なんだあいつ?」
「それに、さっき玉木さんとも仲よさそうに話していたぞ。男子と話さないので有名なあの玉木さんが、園山とだけ親しげに話してるのは謎だわ。何なんだろ」
「それマジ? でもさ、園山ってかわいい子と話してる割には全然恋愛に発展しそうにないよな」
「まあ、園山って普通だからね。それに、あんま女子に興味ないって聞くし」
「そうそう。本人も付き合いたいみたいな高望みとかしてないって言ってるんだろ?」
「あいつ、自分のことよく分かってるよな。ま、せいぜい『美少女達の友人A』ってとこか」
「お前うまいこと言うな。それ」
おい、全部聞こえてるぞ。
まあ、言われてる内容は大体本当だからわざわざ反論しないけど。
ただ、俺って別に女子に興味がない訳じゃないんだけど。むしろ結構興味あるほうだと思うけど、まあいいや、勝手に言わせておこう。
今日は高校総体期間中の土曜日。家に帰ると、母さんと妹がいた。
俺の両親は学校の先生だ。父さんが高校の先生で、母さんが中学校の先生。
父さんは自分の学校の総体の引率で、しばらくの間皆崎市に宿泊らしい。昨日から姿を見ていなかった。
厳しいことも言うけど、勉強を教えてくれるしいい父親だと思ってる。
母さんは休みの日はたいてい家事に園芸、手芸なんかをよくやっている。家庭的な母だ。今は昼ご飯を作っていた。
「おかえり、慎一」
母さんの優しい声がリビング奥の台所から聞こえてくる。
「ただいま」
リビングには妹の奏美がいた。
奏美は俺の2つ年下で西園寺中学の2年生。生意気盛りの年頃だ。
家族が座るためにあるソファーに、思いっきり足を伸ばして寝転びながらスマホをいじっていた。
「おい奏美。疲れたから座りたいんだけど」
奏美はスマホに目をやったまま、俺の方を少しも見ずに事もなげに言った。
「私が今使ってるんだけど。お兄ちゃんは自分の部屋に行けばいいでしょ」
俺は何も言い返せない。お兄ちゃんは妹に弱いのだ。
こんな生意気な妹だけど、俺と違って顔立ちは整っており男子に結構人気らしい。たぶん母さんに似たんだよな、コイツ。
奏美は俺がモテないことをよく知っていて、いつも言いたい放題言っていた。
「だいたい、私が今いい気分で寝転んでるの分からないの? 女心を全く分かってないよね。そんなんだからお兄ちゃんはモテないんだよ。せっかく夢乃先輩と同じ学校で、同じ電車で通ってるのに。どーせいい友達止まりなんでしょ?」
奏美は毎回俺のめっちゃくちゃ痛い所をついてくる。俺は反論すらできず、逃げるように階段を上っていった。
俺は自分の部屋に戻って、ベッドに寝転んだ。
ブブッ。ブブッ。
すぐに、スマホのバイブ音が鳴りだした。
LANEの通話だ。誰だ?
名前を見ると『あいる♥』と書いてあった。
え、愛瑠から通話? メッセージもなしにいきなり? 今日LANE交換したばかりなんだけど。
戸惑いつつも、俺は電話に出た。
「もしもし。愛瑠、いきなりどうしたの?」
「慎一ぃ~。暇だから話したいな~って思ってぇ~」
脳みそに直接響くような、甘ったるいアニメ調のかわいい声が聞こえてくる。愛瑠だ。
「え、あそうなの? 別に、大丈夫だよ」
「慎一ってぇ~、夢乃と仲いいよね~。彼方とも~」
なんだろ、いきなり。
雛崎の話はまあわかる。でも、愛瑠さんが彼方の話をするのが本当に意外だった。
「まあ、確かにそうだね。それがどうかしたの?」
「それに~、この間背の高いかわいい子と一緒に帰ってたよね~。あれ陸上部の高山花音でしょ~」
え、高山と一緒に帰ってるところ見られてたんだ。ひなた市に帰ってるのをどうやって見たんだろ。
いや、別にやましいことは全くないんだけど。
「うん。でも、あれは2人とも花岡南駅で電車に乗るから一緒に帰ってただけなんだけどね」
「ふぅ~ん。まあ、今はそれでゆるしたげる~。あとさ~、同じ陸上部の速水颯人とも仲がいいよね~。いっつもフェミマで買い食いしてるし~」
俺は正直言ってかなり驚いた。愛瑠が、高山どころか颯人との関係まで把握していたからだ。
高山と一緒に帰るのは見られているだろうし分かるんだけど、颯人と買い食いしているのまでチェックしてるのか愛瑠って。すごい情報通だな。
愛瑠って、てっきり好み以外の男子のことなんか興味ないって感じだと思ってたのに。
「よ、よく見てるね。確かに、颯人、あ、颯人って速水のことね。颯人とは仲がいいよ。でも、愛瑠ってなんでそんな俺の友達に詳しいわけ? クラス内はまあ分かるんだけど」
すぐには返答は来なかった。だけど、愛瑠が俺の反応を見て、明らかに通話先で楽しんでいるのが無言の時間から伝わってくる。
「フフッ。あたしぃ~、慎一にキョーミあるからちょっと調べてたんだよね~。あの夢乃とあれだけ仲のいい男子ってどんなやつだろ~って。あたし、けっこ~情報通だし~」
愛瑠の言葉が意外すぎて何て答えていいか分からない。俺に、興味?
俺の沈黙を話を続けていい合図と受け取ったのか、愛瑠はカラカラと音の鳴るおもちゃのように楽しそうに話す。
「そしたら~、彼方とも仲がいいし~、速水颯人とか高山花音とも仲いいってわかって~。実は慎一ってすごいんだ~って」
そう言われると、悪い気はしないな。
でも、1つ気になることがあった。
「ありがとう。えっと、愛瑠っていつから俺のこと見てたの? あとさ、彼方とか颯人とか、他の男子にも興味あったんだね。知らなかったよ」
てっきり、この間の話からオタクっぽい童貞男子が好きなんだと思ってた。
「べっつに~。彼方は同中でイケメンで有名だったから知ってるだけだし~。速水颯人も陸上部にイケメンがいるって噂になってるから知ってるだけでぇ~。でも、あたしイケメン興味ないから~。だって、イケメンってみんなヤリチンじゃ~ん」
いや、それは絶対言い過ぎだし、それを言うなら愛瑠も……と言おうとしたけど、寸前で何とか言葉を止めることができた。
「慎一を見てたのは~、入学式の日からだよ~。夢乃と仲がいいな~って、チェックしてたんだ~」
入学式から? 嘘だよな。あの、男子をずっと無視してきた愛瑠が?
「それに~、ドーテーぽかったし~。あたしの好みだなぁ~って」
この言葉を聞いて俺は思った。
もし、中学時代に雛崎との友情を通してトレーニングを受けていなければ、俺はきっと即座に愛瑠を好きになって告白していただろう。
でも、間違えちゃいけない。愛瑠が好きなのは、「園山慎一」じゃなくて、きっと「扱いやすくて楽しめてすぐポイ捨てできそうな童貞の男子」だ。
俺は、自分が勘違いした挙げ句、一時の楽しみに使われて捨てられるなんて、絶対に嫌だった。
愛瑠の甘い声色にクラクラしながらも、愛瑠に何か言い返さなきゃ、と思っていた、その時だった。ちょっとした事件が起こったのは。




