第11話
昼前だったこともあり、愛瑠の「とりあえず注文しよっか~」を合図にそれぞれご飯を注文した。
俺はジャイファルのチキンステーキに目がない。ジャイファルに来たら毎回注文するくらいだ。
だから、今回もチキンステーキ定食にドリンクバーをつけた。両方頼んでも1000円以内で、高校生にはうれしい場所だった。
食事がそろうまで時間があったからか、愛瑠がぐいぐい話を進めていった。
「それじゃ~、まずは自己紹介しよっか~。お互い知らない人もいるしね~。そだね~名前と~、部活と好きなものと~、あとは~」
そう言うと、愛瑠はいたずらを思いついたような、それはそれは楽しそうな顔をした。
「好みのタイプ、かな~」
それを聞いて、俺は思わず「え」、と口に出してしまった。
周りを見ると、花音は恥ずかしそうに下を向いている。それ以外の3人は平気なようだった。
こういう時に気が使えるのは、我らがハイスペックイケメンこと彼方だった。
「愛瑠、それどうしても言わないといけないの? 言いづらい人もいると思うんだけどな」
周りを見て、すぐにこういうこと言えるのマジでかっこいいな。俺もそうなりたいわ。
でも、愛瑠は全く気にしていないふうだ。
「言いたくない人は言わなきゃいいだけじゃ~ん。何なら~、この中で誰が好みかも言ってほしいな~」
「俺もいいと思う! ていうか、これからこのグループで集まるなら自分のこと知ってほしいし、みんなのことももっと知りたい」
颯人の一言で流れが変わった。誰も反論しなくなり、彼方の忠告は空中に消えてしまったのだ。
「じゃ~そだな~、彼方からこう回っていこうか~」
愛瑠は腕を回した。彼方、愛瑠、颯人、花音、俺、夢乃の順だ。
「分かった。空野彼方、サッカー部です。1年3組で、慎一、夢乃、愛瑠と同じクラス。好きなものはありきたりだけどサッカーかな。颯人と花音とはこれまであまり話したことがないから、仲良くなりたいと思ってるよ。以上です」
彼方はさらっと自己紹介した。自己紹介もスマートだ。
「あれ~、好きなタイプ言ってないよ彼方~。どうなの~」
愛瑠の追求が容赦ない。これを見て俺は悟った。後の俺たちは絶対に好きなタイプ言わないと許してもらえないんだ、と。
「好みのタイプ、か……」
彼方はしばらく考えている。
「彼方って~、高校でもいっぱい告白されてるのにみんなフってるよね~。なんでなの~」
愛瑠の追求は更に激しくなる。彼方もさすがに困った顔だ。
「……そうだね。俺のタイプは、自分のことを分かってくれる人、かな。だから、俺の見てくれとかサッカーとかだけ見て告白してくる人は全部断ってるんだ。それに、自分が好きにならないと意味がないからね」
彼方の答えに愛瑠は満足そうだ。
「なるほどね~。よく分かった~。この中に好みの子はいないの~」
「いないよ。少なくとも、俺は好みだからって理由で付き合う相手を考えることはないよ」
いつも穏やかな彼方が、少しだけ食い気味に反応したから俺は少し驚いた。
とにかく、今は好きな人いないし、この中に気になる人もいないってことね。これがイケメンの余裕ってやつなんだろうか。
愛瑠は彼方をチラリと見て、次は自分の番だという顔をした
「玉木愛瑠で~す。吹奏楽部だけど今はほとんど行ってないよ~。お姉ちゃんがいるよ~。好きなことは情報収集、かな~。あたし~、けっこー情報通だし~」
愛瑠はいつもの甘ったるいアニメ声で自己紹介する。
というか、愛瑠って吹奏楽部なんだ。でも、どうして今行ってないんだろう。
情報通、っていうのは分かるな。俺たちが知らないことも結構知ってるし。ただ、その情報をどうやって得てるのかは怖くて聞けないけど。
「好みのタイプは~、私の言うこと聞いてくれそうなカワイイ男子~。この中でいうと~」
男3人、特に颯人と俺に緊張が走った。彼方は余裕なのか、表情に変化はない。
愛瑠は俺たち3人をぐるーっと見て、俺のほうに止まった。
「慎一かな~。だってカワイイし~」
明らかに俺の顔は祭会場のリンゴ飴みたいに真っ赤のはずだ。
告白を受けたわけじゃないんだけど、それに近しい衝撃だった。
さすがの彼方と夢乃も驚いている。颯人はあんぐり口を空けてるし、花音は両手で顔を押さえて真っ赤にしている。
「私たち~、付き合っちゃう?」
愛瑠は、言っている内容とはほど遠い、軽い感じで俺に提案してきた。
「YES」と言ってしまいたい強い衝動にかられたけど、その直後に夢乃と目が合った。
夢乃は、心配そうな、見ようによっては不安そうな瞳で俺を見ている。
ああ、そうだ。俺は夢乃を見て思い出した。俺は、美少女達の友人Aなんだ。
「からかうのはやめてくれよ。言っただろ、俺は勘違いは絶対しないって」
「ちぇ~。でも、諦めないからね~」
本気なのか冗談なのか分からない調子で愛瑠が言う。ほんと、振り回されてるよな、俺。
「愛瑠って、どうして吹奏楽部行ってないの?」
話題を変えようとしたのか、夢乃が心配そうに言う。
「あ~、それね~。吹奏楽部の1年男子と連続で付き合ったら~、女子から総スカン食らっちゃって~。サークルクラッシャーとか言われて~? ま~何言われても平気なんだけど~、もういいかな~って。だから~、陸上部のマネージャーになっちゃおうかな~」
マジか。吹奏楽部の人間関係めちゃくちゃにして居づらくなったってことか。
次は陸上部のマネージャー? 吹奏楽部と同じこと起こらないといいけど……。ちょっとだけ、怖いな。
愛瑠は目の前の俺を上目遣いで見てくる。だ、騙されないからな!
「マジで? 愛瑠のマネージャーめっちゃ楽しみなんだけど。じゃあ次俺な。速水颯人、6組で陸上部。短距離がメインだ。好きなものはスポーツとカワイイ女子。彼女と別れたんで、彼女募集中!」
「彼女と別れた」という颯人の言葉に、俺と花音がピクッと反応した。颯人、すごく相手のこと大事にしてたように見えたのにな。
「好きなものがカワイイ女子って、お前あからさますぎだろ」
俺の言葉にも、颯人は気にしてない様子だった。
「いやだって、俺彼女いないし、今後のためにも正直に言った方がいいだろ? で、好みのタイプなんだけど、この中にいるんだよね」
この中にいる、という颯人の言葉で再び緊張感が走る。まさか、6人いる場所で告白なんてことはないよな?
「愛瑠、めっちゃ好みなんだ。一緒のグループになるって聞いてすごくラッキーだと思った。頼む、付き合ってくれ」
言いやがったー! 嘘だろ。
愛瑠以外の全員の顔が引きつっている。颯人、大胆にもほどがあるだろ。
愛瑠は変わらず、うれしそうにニヤニヤしている。まさか、OKするのか?
「ごめ~ん。あたしイケメン無理なの~。だって、イケメンってヤリチンじゃ~ん。だから無理~」
愛瑠の返事も衝撃だった。
あの、「イケメンはヤリチン」理論を全員の前で言うのかよ。
「い、いや、俺そんなんじゃないって」
颯人が焦って言ったけど、微妙な空気が流れている。
みんな何も言えなくなって固まっていると、彼方がはぁ、とため息をついた。
「颯人、言いたいことはわかったから、もうちょっと場所とメンバーを選んでくれよ。愛瑠も、だぞ。その決めつけは良くないって」
「あ~、イケメンに説教されちゃった~。説得力な~い」
叱られても、愛瑠は持ち前の愛嬌で笑ってごまかす。それ以上、誰も追及する人はいなかった。
初顔合わせなのに、なんでいきなりこんなハードな展開になるんだ? 俺は、「しんいち会」の先行きが少しだけ不安になった。




