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10/12

第10話

 高校総体特編授業が終わった水曜日。今日は学校が休みで、部活も休みだ。


 今日は花岡市の花中ジャイファルに行くことになっている。


 この間できたばかりの、自分で言いたくないけど「しんいち会」のメンバーと顔合わせ、通称「オフ会」だった。


 ジャイファルっていうのは、宮崎県にたくさんあるファミレスだ。「花中」は花岡中央店のことだろう。


 名前のとおり、ハナコーから結構近いところにある。土曜日の部活終わりとかに、いつも帰り道にみんなが寄っているハナコー生のたまり場の1つだ。


 友達と外で会うんだからと、俺は自分なりにいつもより服装に気を使い、普段あまり触らない髪の毛も整えた。て言っても、服はお気に入りのTシャツとズボンだけど。あんまいいの持ってないんだよな。


 今日は家には俺以外誰もいない。おかげで、奏美あたりに勘ぐられることもなかった。


 昨日は緊張してあんまり眠れなかった。その理由は、玄関の外にいた。


 ガチャッ。


 玄関を開けると、温かい風が家の中に入ってきた。既に雛崎、もとい夢乃は玄関前にいた。


 夢乃の私服姿は今までほとんど見たことがなかった。


 膝上のグレーのズボン(パンツって言うんだっけ)、シンプルなロゴが入った薄黄色のパーカーを着ている。髪型はいつもと違って長い髪をストレートに下ろしていた。


 明るくて活発な夢乃のイメージにぴったりで、はっきり言って似合っているし、いつもよりかわいく見える。


 「おはよ。私もちょうど今来たところだよ」


 俺が、夢乃と家の前で待ち合わせだなんて、他の同級生が見たら発狂するようなことになったのは、昨日夢乃から来た通話がきっかけだった。


 「慎一、明日電車で行くよね? じゃあ、一緒に行こうよ。明日10時に慎一の家の前で待ってるから」


 夢乃は、俺のことを「慎一」と呼んでも何ともないようだ。


 そんなことを夢乃に言われて、断れるわけがない。断る理由もないし。


 ただ、夢乃と家の前で待ち合わせ、というパワーワードの前に、俺の睡眠時間はどんどん削られていった。


 俺は眠いのを悟られないようにして挨拶する。


 「お、おはよ、ゆ、夢乃。じゃあ、行こうか」


 やっぱり夢乃の名前を言うのには全く慣れてない。思いっきりキョドってしまった。


 俺たちは自転車で西園寺駅まで向かった。


 電車は空いてたけど、座れるほどじゃなかったから2人で並んで立ってた。


 「でね、すごかったんだよ彼方。強い私立相手に2点も決めて。でも、負けちゃったけどね。先輩達泣いててかわいそうだった」


 夢乃はこの間までの高校総体の話をしている。サッカー部はベスト8で敗退したらしい。


 「やっぱり彼方活躍したんだな。あいつすごいからそのくらい当然だよ。夢乃も、マネージャーお疲れ様」


 そう言いながら気づいた。夢乃が自然と彼方を下の名前で呼んでいることに。


 もしかして、総体期間中に宿舎で仲良くなったりしたんだろうか。そういや、グループLANEの時に「4人で一緒にいる」って言ってたし。


 そんなことを考えていると、ひなた市駅についた。


 爽やかな風が吹き抜けてくるみたいに、花音が電車に乗り込んでくる。


 「おはよ、花音」


 「おはよ、夢乃」


 入り口近くにいた夢乃とあいさつした花音は、俺の方を向いた。


 「おはよう、し、慎一」


 「お、おはよう、花音」


 花音が恥ずかしそうに下を向く。俺も目をそらす。2人とも、まだ下の名前で呼び合うのに慣れていなかった。


 俺が少し言葉に詰まったのを横にいた夢乃は見逃してくれない。


 「慎一、なに緊張してるの? もしかして、花音の私服姿がかわいいから?」


 「い、いや、別に緊張してないって」


 俺はすぐに否定したけど、花音の私服姿のかわいさについては全く否定できなかった。


 だって、すごく似合っていたからだ。


 花音は、いつも部活で見るスポーティーな感じとは違って、薄緑色のワンピースタイプの長いスカート姿で、上着の白いYシャツも含めて本当に女の子っぽい格好だ。


 言葉が合っているかわからないけど、「清楚」ってこんな感じなんだろうか。


 その後、俺たちは高校総体の話題で盛り上がった。花音と颯人は2人とも100mに出場して、準決勝敗退だったと昨日グループLANEで聞いていた。


 俺たちは花岡南駅で降りて自転車に乗り、3人並んで花中ジャイファルを目指した。自転車で10分くらいだろうか。


 今日の花岡市は梅雨が始まったというのに珍しく晴天で、もうすぐ6月の、少し湿った生暖かい風が俺たちを包んでいた。


 でも、全然不快じゃなかった。もしかしたら、この3人でいたからかも知れない。


 女子2人は並んでずっと話をしている。俺は少し後ろにいて、2人の様子を見ながら走った。


 2人の仲よさそうな様子を見ると、なんかほっこりする。グループ作って良かったのかもな、と思った。


 しばらくして、花中ジャイフルについた。10時55分。時間前に来られて良かった。


 駐輪場には、見たことがある自転車が既に何台かあった。


 愛瑠が予約しているとLANEで言っていたので、俺たちは店員の案内に従ってスムーズに席まで移動できた。


 予約席には、既に彼方と颯人が座っている。


 「こっちだよ」


 「男2人で寂しく待ってたんだぜ。さ、早く座って座って」


 颯人に促されるまま、俺は颯人と彼方の間に座った。向かいには、夢乃と花音が座った。


 彼方は俺と同じような、休日に高校生男子が外出するときの格好、つまりズボンとTシャツだった。ただの私服でも圧倒的に似合っている。さすが彼方だ。


 颯人は予想どおりというか、上下ともおしゃれなジャージ姿だった。確か、結構いい値段がするブランドのはずだ。


 ここにいるのは俺の共通の友達だ。だから、俺以外のメンバーはお互いをあまり知らない人もいるはずだよな。

 

 特に部活やクラスの違う男子と女子はあまり話しているのを見たことがない。少しだけ、ギクシャクとした時間が流れそうな、その時だった。


 「お待たせ~。みんな集まってるね~」


 このグループを作り、今日のオフ会を企画した愛瑠がやってきた。時計の針はちょうど10時を指している。


 私服の愛瑠が登場すると、周りの温度が少しだけ上がったような気がした。


 愛瑠の服装は黒の短いスカートに黒のニーハイに黒靴、上着は明るいピンクと黒でヒラヒラがついていて、首元には大きな黒のリボンがあるものだった。髪型はトレードマークのツインテールだ。


 めっちゃかわいいし似合っているけど、これって地雷? とかなんとかじゃなかったっけ。うーんわからん。かわいいから正義だわ。


 愛瑠は俺たちの配置を見ると、露骨につまらなそうな顔をした。


 「なんで男子と女子が別々に座ってるの~。つまんないじゃ~ん。じゃ~あ~、慎一は花音と夢乃の間に座って~。慎一のとこにはあたしが入るから~。いいでしょ~」


 愛瑠の有無を言わさぬ指示に、俺たちは従うしかなかった。


 でもちょっと待って。花音と夢乃の間に座ってんの俺? しかも、目の前には愛瑠が? ちょっといろいろ無理すぎる。両側から、めっちゃいいにおいが常にしてくるし。


 こうして、俺たちは今後の「しんいち会 オフ会」で毎回座ることになる配置に着いた。


 左側が手前から彼方、愛瑠、颯人。右側が夢乃、俺、そして花音だ。


 この会は今日どんな感じになるんだろう。そして、イケメンと美少女に挟まれた俺は、今後どうなってしまうのだろう。果たして、この状況で「運命の人」は現れるんだろうか。


 俺はそんな、今後の楽しみと不安が、溶けた白黒のチョコレートみたいに入り交じった気持ちだった。


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― 新着の感想 ―
普メンの自分、対して圧倒的にイケメンの同級生が中学にいた。彼女まで作ってる、そんな奴がいた。 ああ、こういうイケメンにはかなわないなぁと思ったものだった。 でも、クラスの女子達の行った、男子人気投票に…
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