4・婚約破棄
アルヴィンは、お詫びにと毎日花や宝石を送ってくれるようになった。
でも、わたしが求めているのはそんなものではない。
そんなものを、一度だって望んだことはない。
きらびやかな贈り物が増えれば増えるほど、わたしの心はアルヴィンから遠ざかっていくばかりだった。
アルヴィンは時おり屋敷へわたしを呼びつけ、強引に素股行為を迫ってきた。
その手つきに、愛情は欠片も感じられない。あるのは彼自身の欲望と、事業を成功したいという打算だけだ。
わたしの心は、アルヴィンからどんどん離れていく。
「わたしはもう、こんなことしたくないの!」
勇気を振り絞って口にすると、アルヴィンはうんざりしたようにため息をついた。
「なあ、セシリア。俺の事業が成功すれば、おまえのメリットにもなるじゃないか。おまえは未来の妻なんだから」
「あなた……なにも反省してないのね」
「おまえは俺の言うことを聞いていればいいんだ!」
ああ、もう……限界だ。
こんな人の隣で、これからの人生を歩んでいけるはずがない。
「もういや!!」
その言葉は、怒りというよりも悲鳴に近かった。
わたしはついに、アルヴィンに婚約破棄を申し出る。
「そんな、それは困る!」
「なにが困るのよ! あなたは、わたしの聖女の力が欲しいだけでしょう!?」
「そ、そんなことはない! 君を愛している!」
「……とにかく、もう、無理なの」
踵を返し、アルヴィンのもとを去ろうとすると……
「ま、待てっ。もう一度だけ!」
と、手首を掴まれた。
もう一度チャンスを与えろということだろうか?
ほんの少しだけ、期待して振り返る。しかし──
「もう一度だけ、〝異世界〟へ行かせてくれ!!」
──ブチッ!
完全に、堪忍袋の尾が切れた。
「ふざけるなーー!!」
平手打ちの乾いた音が、屋敷中に響いた。
*
「──そういうわけで、アルヴィンとは婚約破棄したわ」
「そ、そうか……」
わたしはクライスに、これまでの経緯を包み隠さず打ち明けた。
アルヴィンがわたしを道具として扱ってきたことも、すべてだ。
「あなたとも、もう会うこともないでしょう。さようなら」
クライスは、アルヴィンの幼馴染として紹介されただけ。
特に親しかったわけではない。
街で会ったとしても挨拶くらいはするが、それだけの関係──だったのに。
「セシリア!」
名を呼ばれて、振り返る。
「今度、食事に誘ってもいいだろうか?」
「……はい?」
「今まではアルヴィンがいるから遠慮していたが──もう、その必要はなさそうだからな」
「えええええっ!?」
クライスの熱烈なアプローチに押され、わたしはあれよあれよという間にクライスと恋人同士になり、結婚していた。
そしてその夜、初めてクライスと枕を共にした。
「でも、聖女の力を失ってしまうわ」
「俺はそんなものなくても、この世界で成功してみせる。君は、この力に未練があるのか?」
「……ないわ。こんな力、利用されるのはもうこりごりよ」
「安心した」
──あれから、アルヴィンは異世界体験ができなくなり、すっかり落ちぶれてしまったらしい。
一方わたしは、クライスと共に、異世界よりも確かな現実の愛を手に入れたのだった。
おしまい




