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わたしの×××は異世界へ繋がっている〜聖女の華麗なる婚約破棄〜  作者: 草加奈呼


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3/4

3・バレた……!?


 ある日の夜、わたしはアルヴィンの主催するパーティーに、婚約者として招かれた。

 煌びやかなシャンデリアの下で、人々は音楽と酒に酔いしれ、談笑の輪があちこちに広がっている。

 主催者であるアルヴィンは、あちこちに顔を出して挨拶に忙しく、わたしは自然と一人きりになってしまった。

 場の華やかさとは裏腹に、少しだけ置き去りにされたような気分になる。

 うつむきがちにグラスを傾けていると、頭上から懐かしい声が降ってきた。


「やあ、セシリア」


 顔を上げると、そこにいたのはアルヴィンの幼馴染のクライスだった。


「クライス、あなたも来ていたのね」


 クライスは王宮騎士の制服に身を包み、腰には手入れの行き届いた剣を携えている。整った顔立ちと無造作に伸ばした黒髪が相まって、凛々しさと親しみやすさを同時に感じさせる青年だ。

 アルヴィンと婚約したあと、一番仲の良い友人として紹介されて以来、街中で見かけると軽く挨拶を交わす程度の間柄になっていた。

 

「アルヴィンのやつ、最近調子いいじゃないか」

「ええ、そうね……」


 まさか、聖女の力で異世界へ行っているなんて。

 その方法があんな破廉恥なものだなんて、口が裂けても言えない。

 グラスの中の液体に映るわたしは、とても複雑な表情をしていた。


「それにしても、こんな素敵な婚約者を放っておくなんて、あいつも罪な男だな」

「仕方ないわ。彼は主催者だもの」

「はは、確かに。俺も少し挨拶回りしてくる。またな」

「ええ、また……」


 クライスが去ると、再び人の波の中に取り残される。

 ポツンと一人になり、ちびちびと飲んでいたお酒の酔いを醒まそうと中庭へ出た。

 元々、人混みは苦手だ。

 涼しい風がここちよい。ベンチに座って物思いに耽っていた──その時。

 いきなり後ろから誰かに鼻と口を押さえられた。

 息が詰まり、身体が硬直する。

 気づけば、いつの間にか数人の男たちに取り囲まれていた。

 腕を押さえ込まれ、身動きが取れない。叫ぼうにも、口を塞がれて声にならない。

 

(だ……誰か……!)


 なんとか視線を巡らせるが、中庭にひと気はない。


「ふふふ、この女が……」

「ああ、聖女様だ」

「アルヴィンの婚約者だって? もったいない」

「その力、我らが有効に使ってやろう」


 男たちは下卑た笑いを浮かべながら、次々に口走った。

 

(こいつらもしかして……! わたしの力を狙ってる……!?)


 ひとりの男が、ドレスの裾に手をかけた、その瞬間。

 

 ──ゴッ!!

 鈍い衝撃音とともに、男の身体が弧を描いて倒れ込んだ。


「貴様ら……他人のパーティーの最中に何をしている?」


 低く、怒りを押し殺したような声が響いた。

 そこには、鞘のついたままの剣を構えたクライスが立っていた。

 月明かりが逆光になり顔がよく見えないが、怒りに満ちた声と気迫が、数人の男たちを一気に怯ませる。


「ひ……ひぇ……!」

「いえ、その、これは……!」

「さっさとその手を離せ。俺に剣を抜かせるつもりか……?」

「は、はイィっ!!」


 わたしを拘束していた男の手が離れる。


「さっさとその男を連れて消えろ!!」

「すみませんでしたーーっ!!」


 クライスが一喝すると、男たちは気絶した仲間を抱え、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

「大丈夫か!?」


 クライスが、わたしの肩をしっかりと支えてくれた。

 緊張の糸が切れ、思わずクライスにしがみついてしまう。

 

「クライス……ありがとう……」

「まったく、なんでこんなことに……」


 どうしよう、打ち明けるべきか。

 でも、もしクライスもあの男たちと同じで、わたしの力を知ったら……。

 利用されるかもしれないという、小さな不安が、棘のように引っかかった。

 

「……アルヴィンに報告しに行こう。俺もいく」


 アルヴィンに報告するなら、やはり、わたしの力のことも説明しなければならない。

 クライスの制服を、ぎゅっと握る。


「あのね、クライス──」


 わたしは、自分の聖女の力のこと、そして先ほど男たちに狙われた理由は、おそらくそのせいではないかということを打ち明けた。

 話している間、クライスは一度も茶化すことなく、真剣な顔で耳を傾けてくれた。


「なんだって? じゃあ、その情報がどこかから漏れたということじゃないか……」

「このことは、わたしとアルヴィンしか知らないはずなのに」

「まさか……」

「でも、アルヴィンには口止めしてあったのよ」

「とにかく、本人に報告しよう」


 アルヴィンの執務室で先ほどのことを報告すると、彼は目を丸くして驚いた。

 

「大丈夫だったのか!?」

「ええ、クライスが助けてくれたわ」

 

 わたしの身を案じる声に、ホッと胸を撫で下ろした──が、それも束の間だった。


「だが、どこから情報が漏れたんだ? このままだと、またセシリアが狙われかねないぞ」


 クライスが言うと、アルヴィンはポカンと口を開け、目を泳がせる。

 

「……あ」

「〝あ〟?」

「いや〜〜。もしかしたら、俺が話しちゃったかも」

「……は?」

「ごめんごめん、酔った勢いでさ〜〜。よく覚えていなくて……」

 

 ヘラヘラと笑いながら、軽い調子で謝ってくるアルヴィン。

 怒りというより、呆れと悲しみのほうが先にこみ上げた。

 わたしの力は、女神より授かった大切なもの。

 それに、内容が内容だから絶対に秘密にしてほしかったのに。

 それを酒の席で……?

 何より、わたしとの約束を破られたことがショックだった。

 じわりと目頭が熱くなる。


「いや〜〜、悪かったって。酔ってたんだから、仕方ないだろ?」

「許せるわけないじゃない……!」

 

 わたしが涙ながらに訴えても、アルヴィンは「酔っていたから」とヘラヘラしながら言い訳を並べるばかりで、反省の色はまるでない。なんて人なの!!

 わたしの胸の奥で、何かが静かにひび割れた気がした。




 執務室を出ると、クライスが真摯な顔で頭を下げた。


「すまない、セシリア。アルヴィンに代わって、お詫びをする」

「なぜクライスが謝るの、あなたはなにも悪くないわ」

「……アルヴィンも、悪いやつではないんだ」

 

 それはわかっている。

 アルヴィンは根っからの悪人じゃない。優しい面だって、頼りになる時だってある。

 でも、今回のことだけは、本当に許せなかった。

 わたしが守ってきたものを、彼はあまりにも軽く扱った。

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