1・初体験……?
ここは、とある国のとある領地。
領民に崇められる聖女、それがわたし、セシリアである。
聖女はどの領地にも一人は存在し、女神から特別な力を授かる。
癒しの力だったり、天候を左右したりと、その力は人によってさまざま。
ただし、ひとつだけ共通している条件がある。
それは、乙女でなければ力を失ってしまう、ということだ。
そのため婚約者のアルヴィンとは、直接的な関係を避けている。
先輩聖女たちから聞いた話だが、間接的なスキンシップなら許される……らしい。
「あ……だめ……ドレスが汚れちゃう」
婚約して数ヶ月が過ぎたある夜。
アルヴィンは、わたしを呼び出すなり、いきなりそんな雰囲気に持ち込んできた。
「ドレスなんて、いくらでも買ってやるさ」
この時間は誰も来ない執務室。
軽く笑いながら、アルヴィンが背後からわたしを抱き寄せる。
革張りの椅子や重厚な書棚が並ぶこの部屋は、普段はビジネスの話しかしない場所。
でも今は……彼の体温と甘い吐息に包まれている。
背中に当たる彼の胸板が、熱い。
腰のあたりに押し当てられるものも、もちろん……熱い。
(この体勢、聖女的に大丈夫? セーフ? ギリセーフ??)
心の中で何度も確認しながら、わたしは壁に手をついた。
アルヴィンは起業家だ。といっても、今のところ大成したことはなく、いつも資金繰りや新規事業のことで頭を抱えている。
その愚痴を聞いてあげるのも、婚約者であるわたしの役目だった。
でも、弱音を吐く姿を見せてくれるのは、それだけ心を許してくれている証拠でもある。
頼られている感じがして、悪い気はしなかった。
「人気者の聖女様を婚約者にできるなんて、俺も鼻が高いよ」
「うれしいわ、アルヴィン」
わたしたちが婚約することになったきっかけは、領内で行われた収穫祭だった。
毎年この時期、領民たちが一年の恵みに感謝し合うこの祭りに聖女として、わたしも招かれていた。その会場に、商会を営むアルヴィンが農作物の買い付けのために訪れていたのだ。
それが最初の出会いだった。
その後、アルヴィンは何度もわたしのもとを訪れ、熱烈なアプローチをしてくるようになり……。気がつけば、彼の勢いに押されるようにして婚約を交わしていたのだった。
「でも、本当にだめ。聖女は乙女じゃなければ力を失ってしまうの」
これは、聖女の世界では当たり前のこと。
純潔を失った瞬間、力はぷつりと消える。──と、先輩聖女たちが怖い顔で念押ししていた。
「そうか……それは大変だな。君は何の力を授かったんだ?」
「それが……〝異世界へ行ける力〟らしいんだけど……」
「異世界へ行ける力?」
アルヴィンが確かめるように繰り返す。
「でも、発動したことがなくて、どうやったら行けるのかわからないのよ」
「ふぅん……。でも、面白そうだな、異世界だなんて」
起業家らしく、好奇心だけは旺盛だ。
「そうかしら……わたしは怖いわ」
「セシリアは臆病だなぁ。商売に成功するためには、いろんな世界を知っておかなければならない。だから──」
そう言いながら、アルヴィンはドレスの裾を捲っていき、腰の辺りを撫でる。
「こういう世界も、知っておいた方がいい」
「……ものは言いようね」
呆れたように、ひとつ息を吐いた。
「結婚するまでは我慢するよ。だから、君のその綺麗な脚で……」
そう言いながら、アルヴィンはまるで当然のように背後からぴたりと密着してきた。
「え、え、ちょっと待っ──」
そして自分のモノをわたしの太ももの間に滑り込ませると、ゆっくりと腰を押しつけてきた。
布越しに伝わる熱と、ずっしりとした圧迫感。
背筋にぞわっとした快感が走り、思わず壁に手をつく。
(えっ? 結婚するまで我慢するって、そういうこと!?)
ぎこちなかった動きは、次第にリズミカルになっていく。
わたしはただ、為す術もなくその場に立たされ──。
「っ……!」
アルヴィンの体がびくんと震えたかと思うと、次の瞬間、どさりと音を立てて床に崩れ落ちた。
「え……? ちょっと、アルヴィン!?」
身体をゆすってみるが、アルヴィンは完全に気を失っている。
そんな、気絶するほどわたしの内股が良かったの?
なんて言っている場合ではない。
床に横たわるアルヴィンは、まるで魂を抜かれた人形のようにぐったりしていた。
焦りと困惑と、なんとも言えない恥ずかしさがごちゃ混ぜになって、頭の中は大混乱だ。
とにかく、こんな格好のまま放っておくわけにはいかない。
わたしは慌ててドレスの裾を直し、アルヴィンの服もそれなりに整える。
廊下に出て使用人を呼ぶと、すぐに人が集まってきた。
事情を説明しようにも、
「素股してたら気絶しました」
……なんて言えるわけないでしょ!!
「ええと……急に倒れて……と、とにかくベッドへ運んでください!」
使用人たちは顔を見合わせつつも、慣れた手つきでアルヴィンを抱え、寝室へと運んでいった。
一応、医者も呼んで診てもらったけれど、診断はあっけないものだった。
「……単なる失神ですね。疲れも溜まっていたのでしょう」
単なる失神。
──いや、だからなんで!?
医者が帰ったあと、わたしはぎこちない足取りで自宅へと戻った。
(はあ……なにこれ……明日からどういう顔で会えばいいのよ……)
乙女の初・間接プレイ(?)は、なんとも後味の悪い結末となったのだった。




