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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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42/52

41 俯瞰視点

時間は少し遡る。

こちらは、グラディス王国の王族専用サロンである。王妃は扇子を握りしめ、険しい表情のまま苛立ちを隠しきれずにいた。


「陛下、アルシオン帝国での噂をお聞きになりましたか?アウレリアが帝都の孤児院でシスターたちの不正を暴き、虐げられていた孤児を救ったとか……。民たちに絶大な人気があるそうですわ」


国王は深く眉をひそめ、忌々しげに吐き捨てる。

「承知しておるわ!『聖女様』だの『女神様』だのと持てはやされているのであろう?

まったく実にくだらん。どうせ怪しげな魔法。そう、魅了魔法でも使ったのだろうよ」


「ということは、やはりあの麗しい皇帝も“魅了魔法”に騙されているのでしょうね?でしたら……アルシオン帝国の方々に、本当のことを教えて差し上げなくては」

ミリアは唇の端を持ち上げ、にやりと笑いながらレオニスへ視線を向けた。

「レオニス様。追放されたシスターたちを、グラディス王国まで連れてきてくださいませ。あなたって、本当に何の取り柄もありませんもの。 これくらいはしていただかないと、王配にしてあげませんわよ?」


(お姉様が私より民に愛されて人気者になるなんて……絶対に許せないわ。なんとしても評判を落としてやりたい!)

ミリアの妬み心は相当に根深かったのである。


一方、レオニスはミリアに文句を言っていた。もちろん、心の中で。

(……本当に不愉快な女だ。しかし、王配の座を逃すわけにはいかない。ここは従うしかないか)


そもそも、ミリアとレオニスの間には、信頼も愛情も一切ない。

ただ惰性だけが二人を婚約関係につなぎ留めているにすぎなかった。

ミリアは本来、もっと上等の、自分をより輝かせてくれる男性と結婚したかったし、レオニスもまた、ミリアの傲慢さと意地の悪さにはすっかりうんざりしていた。それでも王配の地位を手放すわけにはいかなかった。スタッキー侯爵家の繁栄のために。レオニスは重い足取りで父である宰相に相談し、数日後、自ら部下を率いてアルシオン帝国の国境へと向かった。


◆◇◆


一方その頃、追放されたシスターたちは、反省するどころかアウレリアを激しく恨んでいた。 自分たちがしたことを“それほど悪いことだ”とは、誰一人として思っていない。

だからこそ、皇帝に告げ口をし、自分たちを国外追放に追い込んだアウレリアに、何としても仕返しをしたいと考えていた。


「シスター長様。あの憎き皇妃のことを調べましたら…… 祖国グラディス王国では、ひどく冷遇されていたようですわ。そちらに逃げ込めば、何か“良い手立て”が見つかるかもしれませんよ?」

シスターの一人が、ニヤリと笑った。


アルシオン帝国は、グラディス王国ともう一つの国に挟まれた大国である。

国外追放とは言われたが、“どちらの国境へ抜けよ”という指示までは出されていない。


(ならば、皇妃の祖国へ行ってやろう。復讐の種を蒔くには、グラディス王国ほど好都合な場所はないかも)

シスター長はそう思い、迷いなくその道を選んだのだった。


◆◇◆


国境付近の荒野を、冷たい風が吹き抜けていく。

走り去ったばかりの簡素な馬車の車輪跡だけが、土の上に残っていた。

追放されたシスターたちは、帝国から貸与された薄手の外套を羽織り、荒野の冷たい風に震えながら肩を寄せ合っていた。身につけているのは、黒い修道服。


しかし、所属する神殿や聖職者としての階級を示す徽章などは全て外されていた。それは、聖職者としての地位を剥奪された者という証明に他ならない。彼女たちが罪を犯し、立場も誇りも失ったという事実は、その姿だけで明白だった。


「……本当に、ここで降ろすなんて。」

若いシスターが震える声でつぶやく。


「当然でしょう。国外追放とはそういうものよ。」

シスター長は唇を歪め、やけに落ち着いた声で返す。

「さ、歩きなさい。グラディス王国はもうすぐよ。復讐の第一歩はここからだわ」


ドドドドド……!

馬の蹄音が荒野に響き渡る。


「だ、誰か来ます……!」

砂煙を上げながら近づいてきたのは、数名の騎士を従えた若い貴族――レオニスだった。騎士たちの鎧には、はっきりとグラディス王国の紋章が刻まれている。


レオニスは馬を止め、徽章の外された黒い修道服をまとう女たちを一瞥すると、口元をわずかに歪めて笑った。

「思いのほか簡単に見つかったな。お前たち……アルシオン帝国から追放されたシスターだろう?悪評はもう、この国にまで届いている」


「わ、私たちを……探していたのですか?」


「そういうことだ。ついてこい」

レオニスは軽く顎をしゃくり、続けた。

「国王夫妻と……“お偉い”王女様がお前たちをお呼びだ。話があるらしい。まあ、お前たちにとっては、損にはならないだろうな」


シスターたちは、彼が誰なのかまったく分からなかった。だが王女殿下を遠慮なく茶化すあたり、そこに立つ青年が相当な身分であることだけは察した。

そしてなにより国王のもとへ連れて行ってもらえるという言葉に、シスター長は渡りに船とばかりに顔を輝かせた。


「ありがたいお話ですわ……どうか、よろしくお願いいたします!」


こうして、追放された元シスターたちは、アウレリアの祖国グラディス王国へと引き込まれていった。





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