第49話 君の手は雨より冷たい
「今度は俺が助ける番だ!」
「すいません…………」
急いで零は119番通報をする。
「海は危ないので絶対に到着を待ってくださi……」
そこで電話を切る。
その後スマホを薄い上着の中にしまい、砂浜のパラソルのある所に投げ捨て、海にあらがっていく。
(スマホをしまった時に硬いものに当たったが気のせいか?)一瞬そんな事を考えるが、すぐに後回しにする。
泳げないやつが荒れた海に行くなんて普通なら自殺行為でも……
「泳げないなんて関係ない俺は…行かなきゃいけない理由があるんだ!!」
フォームなんてなっていない泳ぎ方だろう…だが、零のその思いだけで着実に愛芽に近づいていた。
「零!!ゴブォ………戻って…このままじゃ2人とも」
と弱々しい声が聞こえてくる、零自身、耳に水が入って聞こえずらい。さらに口にも大量の水が入る。
「ブクッ……プハァ!!!……ハァ!!ハァッ!!」
必死に息を吸いながら。今出せる最大の声で零は
「俺は死なない!……お前と約束しただろ?」
零はあの時のことを思い出す。
「もう死にそうになんてならないで...これは文化祭の勝負の時の願いよ!これは絶対に守ってね!」
「ああ...」
プールで溺れた後、愛芽に言われた言葉。
ーーーーーー叫びながら泳ぎ続け愛芽の手を掴む。
運がよく風向きが変わり、何とか陸に戻ってくる……
「ゴフッ!!」
零と愛芽は水を吐き出し、息を整える。
「ハァッ!!!ハァ!!!……ハァッ!……ハァ、」
パラソルに避難しようと思ったがさらに強くなってきたこの風と雨じゃ意味をなさないため急いで近くの屋根のある場所に避難する。
愛芽の意識はギリギリだがあるようだった。
「バカ……無茶して……」
そこで零は海から出て初めて気づく……
「さっきの……もう一つ……やり残したことは...君に隠し...事を……していたこと...かな...……」
(隠し事?なんの事だ?)
そんなことより、救急車はまだか?零がじっとしていられなくなっていると。
「私はね……軽い水アレルギー…………なの。」
(え!?)
その言葉に零は一つあることに気づく
最初から雨は避けていた、
初めて一緒に帰った日……
そのほかにも、
折り畳み傘をいつも持っていたこと……
プールの時に見学していたこと……
プールの日の事件のあとしばらく休んだこと…
全てがつながり...零の眼から雨が出てくる。
(じゃあなんで……俺を助けようと”命懸け”でプールに……??)
「軽いと言っても……こんなに濡れちゃもう助からない...塗り薬があれば良かったけど……ホテルから出た時、晴れていたこともあって…………何も持ってない……」
「もう……助からない!!」
「バカそんなこと言うな!さっき救急車を呼んだから大丈夫だ!」
零は”その事実”を否定したい。愛芽の手を握りしめる。
(泣いてくれている。私なんかのために……ああ...やっぱり好きだなぁ……君のそういう...ところ……)
愛芽は微笑む。
「あなたも……気づいているでしょ?零の手って...こんなに暖かいのね……」
涙が出ている愛芽が言いながら意識を失いかけているのが分かる。
(愛芽の手が俺の手より冷たい?)
この事実を海から上がった時からずっと否定したかったのかもしれない……
(海も雨も俺の手より冷たい。けど、俺の手よりも、海の水温よりも、今降っている雨よりも……)
「どうしてだろうな?愛芽……”君の手は雨より冷たい”」
その時の俺の声と手は震えていた。そして涙が止まらず出てくる
そう……愛芽の手が冷たいんだ……。
俺の手よりも...雨よりも……...……
(何とか助ける方法はないのか……何か..
塗り薬...それさえあれば助けられるのか?)
「……どうする...気?」
愛芽に聞かれ...
「ホテルにある塗り薬を走って取りに行く!」
「無謀よ!零も……安静に...してなきゃ...それに、もう……私は永くない...」
そう言って愛芽が気を失う。
「愛芽!!!!」
零は叫んで愛芽の元へ駆け寄る。
「起きろ!起きろ!!!」
(くそ...!確かに今から走るなら救急車を待った方が早い、でもそれじゃダメなんだ...)
(でもやらなきゃ!)顔の雨を拭い、そう決心した零は駆け出す!
だが、...転ぶ。
零の身体はもう限界だった。
(クソ!動け!!動けよ!!!)
動かない身体、目の前に気を失っている愛芽、一向に来る気配のない救急車。
これは...”最悪”だ。
終わった……




