第33話 君のトラブルだらけのキャンプ2
零と愛芽は森に入り、薪を集めてはバケツに入れていた。
「キャンプファイヤーのために多めに拾った方がいいわよね?」
「そうだな」
夜はこのキャンプ場の専用の場所でキャンプファイヤーをやる予定なので、零はそれに賛同し、少し多めに集めることにする。
集めている途中、会話をするのがいいんだろうけど、少し気まづさがあって、なんの会話をすればいいのか迷う。
「かなり奥まで歩いてきたね…」
気づけば愛芽の言う通りかなり歩いていて、四方は森に囲まれていて自然を感じられる。鳥のさえずり、風の音。心が穏やかになっていた。そして、先程まで何を話そうか迷っていたのが嘘のように零は思ったことを聞く。
「愛芽はキャンプで楽しみなことはなんだ?」
「う〜ん。」
迷っているような顔をする愛芽を見ると、零はその様子が微笑ましく感じる。
「私が楽しみなことはね〜」
愛芽がそこまで言いかけた途端、さっきまで楽しく演奏をしていた小鳥のさえずりが急に止まる。まるで、歌詞を忘れてしまったかのように。
静かになった森の中で、次に演奏の主役となるのは草の音だった。ガサッガサッと不気味な音を立てて、小鳥のさえずりを跳ね除けている感じがした。
愛芽はおそらくとっさに零の手を掴んだ。
零はそこで愛芽の手が震えていることを確認する。
我に返った零はその手をしっかりと握り返し、
「早く戻ろう!」
そう無理やり作った笑顔で言う。愛芽はうん!と返事をして2人は歩いて元に道に戻ろうとした。その時……
草むらから、1頭の”クマ”が現れる。大きさは約150cm程、その巨体を見た零と愛芽の足はすくむ。故に動けない。
「グルルルルル!!」クマはそんな低い鳴き声で威嚇をする。零は愛芽の握る手がどんどん強く引き締まっているのを感じる。
(俺が動かなければ!)
(俺が助けなければ!!)
零は頭の中で様々なことを考えるが、身体は思うように動かない。
クマの様子を見ると、かなり警戒していることが分かる。
愛芽と零は声を出せば、襲ってくるかもしれない恐怖で、とにかく手を握ってクマから目を離さないでいる。
(このままクマから目を離さないでで、後ろにゆっくり下がっていけば…)
愛芽は零に本当に小声でその内容を簡潔に伝える。すると、零は小さく頷いて2人は1歩、1歩ずつゆっくりと後退していく。
クマはこちらをじっと見つめているので、少し離れても全く油断できない。
(そのまま動かないでくれよ!!)
零は心の中でそう願う。
クマの前足がピクっと動くのを見た愛芽は(お願いだから!!本当に!!)と心の中で叫ぶ。すると今度はクマはこちらに歩いてくる。
零は(愛芽だけは逃がす!!)と決心する。
「グル!!!!!!!!!!!」
その短い、けど今までで1番でかい鳴き声を出して、クマはこちらに突進してくる。
「クソぉぉぉぉ!!」
零は動く気配のない愛芽に覆い被さるように、右に倒れながら避ける。2人はクマを交わして、倒れる。
「ありがとう!」
(零が助けてくれなかったら私は……)
愛芽はクマが突進してきた時、反応はしていたが、足が動かなかった。
クマはご丁寧に、Uターンをして再びこちらに向かってくる。
もう無理だ!!愛芽はそう思う。
零は愛芽だけは何とか助けなきゃと思い、手持ちを確認する。すると、先程倒れた時に、折りたたみ傘が落ちたことに気づく。
(折りたたみ傘!!)
零はそれを掴んで、突進してくるクマに向かって、傘を開く。クマはそれに怯んで止まる。そして、身体を大きく見せようとすぐに立とうとする。……が、先程倒れた時に右足を怪我してしまったことに今頃になって気づく。……立ち上がれない。気合いを入れて、立ち上がろうと左足に全体重を乗せて(これで何とか……)
そこで、愛芽は零のやろうとしていることを察して繋いでいた手を離し、零の身体を支えて2人で立ち上がる。そして……
「わぁーーー!!」
そう大声を出してクマより強いアピールをする。
クマはすぐに森の奥へと逃げていった。
残された2人は崩れるように地面に座る。そして顔を見合わせてはぁ〜とため息をつく。
「流石に死ぬかと思ったね〜」
「この短期間で2回も死にかけるなんてな……」
零はプールのことを思い出す。
「本当に零がいなかったら私死んでたよありがとう!!」
そうあらためて愛芽が言う。
愛芽クマと見合ってた時、すごく不安だったけど……零と手を繋いでいたから”安心”していた。
「クマが戻ってくる前に帰ろう」
零は怪我したところを布で縛って立ち上がり、愛芽に手を伸ばす。その手を愛芽は掴み、立ち上がる。その時、愛芽は呟くように言う。
「本当に相変わらず君の手は冷たいね……」
「……?なんか言ったか?」
零が聞くと、
「手が冷たいから本当に生き残れたか不安だな〜って」
「え?」
零の手が冷たいため、零が実は死んでしまっているんじゃないかということだ。
でも、愛芽の心の中では(本当はこの冷たい手が”安心”するんだけどね)そう思った。
キャンプ場が見えてきて2人は改めてほっとする。




