第24話 君の拳はほんのり暖かい
零が審判から観客席に帰ってくると、部長と鈴木先輩がいた。俺を見つけると、すぐに向かってきて
「すまん!粒ラバーのことちゃんと教えなくて!」
と謝ってくる。
「違います。俺は粒ラバーのことは知っていました。」
と予想外のことを言ってきた零に対して、2人は驚く。
「知っていたのか!?」
「はい。愛芽から教わりました。」
「愛芽ちゃんが!?」
「いや、まぁ知っていたとしても、あの1年は強すぎた。零は運が悪かったんだ…」
そう部長は零をフォローするように言う。
「……相手が誰とか関係ないです。負けた俺が悪い。努力が足りなかった俺が悪いんです!」
その言葉と目を見た鷹梨は「はっ」となる。
「すまなかった!」
今、零に伝えるべき言葉は…鷹梨は目をつぶり、
「次、頑張れよ!!」
と大きな声で言う。
「はい…!」
と呟き、頷く。零の目に雨は溜まっていなく…ビシッとした目だった。
その時、愛芽がちょうど帰ってくる。愛芽は荷物を席におかず、零の所へ直接向かう。
「勝った?」
「負けた、でも次は勝つ!」
その言葉を聞いて愛芽は少し顔の笑顔が減る。
「そっか〜私は勝ったよ!」
「すごいな!おめでとう!」
「次は私がそれを言えるように頑張ってね」
「ああ!」
そう会話して零から少し離れる。
「…これ以上零にかける言葉は無さそうね」
そう愛芽は呟く。
零が席に座ると、来斗先輩が歩いて来る。そして、何も言わずにスポーツドリンクだけ置いて、自分のラケットを持ち、試合に向かう。零はその歩いていく背中に「ありがとうございます!」と声をかけると、来斗先輩は手を振ってくれる。
ここからは先輩達の試合が始まる。
先輩達の中で一番最初に試合をするのは日向先輩だった。零はスポーツドリンクを手に持ち、試合に目を向ける。
「日向先輩頑張れ〜!!」
そう応援する愛芽。かなりの大きさである他の人達声援の中、その応援が聞こえたのか日向先輩は少し笑顔になる。
日向先輩は大人しそうに見えて、スマッシュをどんどん打ち込み、相手に何もさせず、セット数2-0で圧勝。
その次は来斗先輩が試合だ。
来斗先輩はブロック、カウンターで相手のスマッシュを全て返し、セット数2-0で勝つ。
その試合の後思わず零は
「どんな反射神経と動体視力をしてるんだ……」とつぶやく。零はあの速さのスマッシュをミス少なく返すことが恐ろしく凄いと思った。
鈴木先輩は優しく、相手がミスるまでラリーを続けて勝つ。しかも鈴木先輩の相手はシードで決して弱くは無い。そのため1セットは取られてしまい、結果は2-1だった。
(どんな集中力を…)と心の中で零はまた驚く。
そして最後に部長…回転、スマッシュ、ブロック、全てが鍛え上げられていて、どれだけ練習すればそこまで上手くできるのか分からないぐらいの強さだった。
もちろん結果は2-0。
そこで先輩達それぞれに違う強み、強さがあることに気づいた。そしてこれからは自分の得意なことを伸ばすのが良いと思う。
そして…愛芽の2回戦が始まるーーーーー
体育館外に出ると雲ひとつない空は橙色になっていた。そんな空を見ながら零は試合を思い返していた。
零が1点を自力でとった後、千田は本気?を出したようで、何も出来ずに負けた。
「いや〜」
と愛芽は身体を伸ばして声を震わせながら言う。
「負けた〜負けた〜」
そんな愛芽に零は
「強かったな〜」
と共感する。愛芽は2回戦、零と同じく雪譜高校に負けた。
「でも…愛芽はいい勝負だったな」
愛芽はセット数で見ると2-0で負けたけど、点数で見ると11-8や11-7と善戦していた。
「でも負けは負けよ」
そう真剣な顔つきになって言う。
先輩達はと言うと…部長はベスト16に入って県大会出場、鈴木先輩は4回戦3-2で惜しくも負けてまう。日向先輩と来斗先輩はどちらも3回戦で負けてしまった。ちなみに言うと千田もベスト16に入って県大会に出場した。同じ1年なのに凄い差である。
「部長はすごいよな〜県大会なんて。」
そう零が言うと…前を歩く愛芽は後ろに振り向く。その愛芽は沈みかけの太陽の光に照らされる。
「私達も努力して県大会に行こう!!」
「お互いに高め合って!強くなって!」
そう言って愛芽は笑顔で拳を前に出す。
口で言うのは簡単かもしれない…でも…それが実現した時、一番やりがいがあったと感じられる。
何より…愛芽と”一緒”に県大会に行きたいと心から思った。だから……
零は拳を愛芽にぶつけて
「ああ!」
と言う。それに愛芽は……
「拳……いつもより少し暖かいね…」といつもと違う感想をつぶやくのだった。
まずは謝らせてください。すいませんでした。
かなりの卓球専門用語を使い、説明も分かりにくく、普通の日常の物語を読みたいという人もいると思います。でも、こういう部活の青春系物語も描いてみたかったんです。ただの自分のわがままですが…
ここまで3話、全て読んでくれた人、1話でも読んでくれた人、自分が描きたい卓球の物語を読んでくれてありがとうございました。次回から日常の物語に戻ります。




