第23話 君の初試合2
「なんで?」
「しゃ!」
千田が短く、小さく叫ぶ。
「ワンラブ(1-0)」
観客席で見ている鷹梨と鈴木は察す。
「あの軌道は…粒ラバーか?」
粒ラバーとはボールが当たった瞬間に、ボールの衝撃を吸収するので、相手ボールの回転やスピードを殺すことができる。その上粒が曲がったときに 相手の回転やスピードは予測不可能な変化ボールになって返球される。特殊なラバーだ。
「零くんに粒ラバーのこと教えた?」
鈴木が鷹梨に聞くと、鷹梨は手で顔を抑えながら
「いや…」
と言ったことに対して、鈴木は短く「バカ梨…」と返す。
「そうなるとまずいぞ…観客席からアドバイスをするのは禁止だ。」
「零くん…」
零は再びサーブを打っても、予想外の回転でボールは返ってくる。そして、ボールを打ち返しても、今度は下回転が入っていて、ネットにボールは阻まれる。
「ツーラブ(2-0)」
(くっ………!)
心の中で叫ぶ
そこからは相手のミスでしか点は得られなかった。
「テンスリー(10-3)」
「マッチポイントです!」
審判が宣言する。
零は一か八か…とボールを真上に高く上げる。ロビングだ。
観客席では鷹梨が叫ぶ。
「それは悪手だ!」
回転が分からなくても高くあげることで、無理やり入れようとしたのだろう。けれど…
「打たれる!」鈴木も言う。
2人の言う通りに、相手コートでボールは高くバウンドする。”チャンスボール”だ。
千田は思いっきり、パーンと言う音のなるスマッシュを打つ。
「テンフォー(10-4)」
ボールは台をオーバーした。結果零の得点になる。
「相手のミスで命拾いしたわね…」
と言う鈴木に鷹梨は否定する。
「いや、違う。零は相手の回転を利用したんだ。」
「これは紛れも無く、零が取った得点だ!零がこんな早めに適応し始めたから、まだ勝ち目はある!」
日向は愛芽の試合を見える位置に移動している。
「愛芽ちゃんの相手も1年生か…しかも強豪校…」
(零くんといい、うちの1年運悪くない?)そう思いながら、試合のよく見える場所に着く。
「おっ、やってるね〜」
既に試合は始まっていて、点数を見ると。日向は思わず顔が微笑む。
「すごい…愛芽ちゃん」
愛芽ちゃんは相手を圧倒していた。
既に1セット取っていて、点数は8-3で優勢だった。
日向は1年生に才能のある子が入ってきたことの喜びと、すぐに自分の実力が抜かされるかもしれない…そう感じた。
「それに…汗一つかいてない…」
愛芽ちゃんは相手を翻弄するように、色んな回転を左右にフェイントをかけながら打つ。そして相手のミスを待ち、点を取っている。だから愛芽ちゃん自体はそこまで動いてない。
「くそ…!!」
と最後の力を振り絞って対戦相手はスマッシュを打とうとする。
愛芽はこういう追い詰められた状況は、私自身を目掛けてスマッシュを打つと予想して、ラケットを後ろに引く。
相手は全力のスマッシュを打つ。
(ボールは見えないけど、打つところを予想出来れば…)
「打ち返せる!」
一瞬の出来事だった。見事に愛芽のラケットにボールは当たって、カウンターが決まる。
愛芽が点数を見ると11-3、2セット先取だから私の勝ち!
「よしっ!」
と小さく呟いて。
「結果を本部へ伝えに行ってください。」
と審判の子に言われ、愛芽は本部へ向かう。
「愛芽ちゃん勝った〜!」
日向は電話で鈴木に電話する。
「すごい!相手強豪校でしょ!?」
「うん!余裕で勝っちゃった。」
「すごい!」
電話越しで、部長に「愛芽ちゃん勝ったって!」と言っているのが聞こえる。
そして日向は気になっていることを聞く。
「そっちはどう?零くん」
すると…鈴木はしばらく黙り込む。そして…3.4秒後に
「負けちゃった…」
と小さく言う。
「相手が悪かったの。粒だったし、そして何より…」
「彼。俺より強い。」
と急に鈴木の電話から部長の声が聞こえる。その言葉に日向が驚く。部長は県大会の常連と言っていいほど強い。その部長より強いなんて…
「零くんにお疲れ様って言っておいて…」
零くんが審判を終える頃には私はちょうど試合だと思い、そう言い残した。




