観察眼と推理力
高校からの帰り道、ボクはよくコンビニに立ち寄る。友達と二人で。
◇◇◇
「お釣りの五十二円です」
涼やかな声を発し、柔らかな笑みを浮かべたキレイな女性。そんな店員さんからお釣りを受け取り、ボクは軽く頭を下げた。
◇◇◇
「今日も触ってきたな」
コンビニを出てから程なくして、斜め前を歩いている友達が振り返りもせずに言ってきた。なんのことだか分からずに聞き返すと、友達はやはり前を向いたまま説明を始める。
「あの店員さんのことだよ。お釣りを返すとき、決まってオマエの手に触るんだ。オレには触らないのに」
そんなこと、全く気づかなかった。とはいえ、その接触は指が少し触れる程度のモノに過ぎない。そんな僅かな接触を毎回チェックしていたとは、なんとも恐れ入る。よく見ているものだと感心し、ボクは友達を褒めた。すると友達は照れ臭そうに、
「べ、別に・・・。よく見てなんかねぇよ」
と耳を赤くした。そして、
「あの人、オマエに気があるんじゃないかな・・・。で? オマエはどうなの?」
と続けた。
「いや、別に・・・。それにさぁ、キミの思い過ごしじゃないかな。あの人、たぶん大学生だよ? 高校生のボクなんか───」
「でも、オレの手には触れないのに・・・」
「キミの方こそ、気があるの?」
「そ、そんな訳ないだろ! あの人は───」
友達は振り返り、ボクを見た。その顔は少し怒っているようにも見える。
「あー、そうじゃなくて・・・。ボクに気があるの?」
「っ!?」
目を見開き、咄嗟に背を向けた友達。その耳は更に赤くなったように見えた。
あの店員さんがボクの手に触れるのは、ごく普通のことだと思う。どちらかと言えば、彼女が友達の手に触れないことの方が普通ではないのだ。だけど、それは仕方がないことかもしれない。
なにしろ、友達は見た目が怖い。いわゆるヤンキーに見えるのだ。そう見えるだけで実際には違うのだが。
友達は髪を赤紫に染めていて、耳にはピアス、そして目付きが鋭い。更には口が悪い。
だからあの店員さんは怖がって、友達の手に触れようとしないのだと思う。【同性】にも拘わらず。
「ねぇ、ボクに気があるの? もしかして、嫉妬してたの?」
あんな僅かな接触を毎回チェックしているだなんて、そうだとしか思えない。しかし友達は否定する。
「うるせぇ! 自意識過剰なんだよ!」
振り返ることもなく、そう叫んだ友達。その耳は、また赤みを増したように見える。
きっと友達の顔は、もう真っ赤っかになっていることだろう。