序文 愛も恋もなく、ただ復讐のために
勇者の死を知らせた時、私は馬車に乗っていた。
田舎道の揺れで目まいがして、幼い頃から車に乗るのが苦手だった。
それに、馬車の中で手紙を読むなんて考えられないほどだった。
しかしその時、私はその手紙をしっかりと握りしめ、何度も何度も読み返していた。
胃の中から吐き気が込み上げてきて、抑えることができなかった。
信じられない、認められない、受け入れられない。
勇者は、こんなに簡単に殺される存在ではなかった。
勇者と共に過ごして五年、私はそれを深く理解していた。勇者は強い、勇者は細やか、勇者は冷静だった。
彼は熱血の物語に登場するようなドラゴンを倒す愚かな英雄でも、世界を救うための無知な理想主義者でもない。
厳密に言えば、彼は良い人とは言えないが、悪人にもほど遠かった。はっきり言えば、勇者はその品性においては完全に普通の人間だった。
だが、それこそが魔王の敗北を招いた。
もし勇者が神話の英雄のような人物で、もし勇者が陰謀論者が語るような国を盗んだ大泥棒だったなら、勇者は魔王を倒せなかっただろう。
もちろん、彼には私心があり、世界を救う英雄でもあったが、その世界を救うことは彼自身の目標を達成するための副産物に過ぎなかった。
だからこそ、彼は勇者の隊伍をうまくまとめることができた。
誰もが、単に魔王を倒すためだけに勇者隊伍に加わったわけではない。私もその一人だ。
私の目的はただ一つ、それは生き延びることだった。
言い換えれば、勇者は私に五年分の時間を与えてくれた。
もし勇者がいなければ、私は早くに王都の深い地下牢で命を落としていたに違いない。
私の名前はドロリス・デ・フリードリヒ、この国の第一王女であり、唯一の王女だ。
兄弟姉妹はおらず、言い換えれば、私は次の王国の後継者であり、それは確定したことだ。もし誰か貴族の子供と結婚すれば、彼らは権力を握り、私が持っている金雀花の王冠を手に入れるだろう。
おそらくその後、私は殺されるか、監禁されるだろう。それがどうなるのかはよくわからないが、結局、私には幸せな結末など望めない。
だからこそ、私は古の予言に従い、大司教の助けを借りて、勇者隊伍に加わった。
私にとって、これは王宮を逃げ出す唯一の方法だった。
勇者隊伍に加わって間もなく、私は父王が重病にかかっているという知らせを受け取った。
父王はもともと体が弱かったが、こんなにも悪化するとは思わなかった。そして、その手紙の最後には、王国が緊急会議を開き、権力を持つ貴族たちが会議を主導し、私の代わりに摂政を務めることになったと書かれていた。
その後数日して、教会で礼拝をしている最中に、大司教が反逆罪と神を冒涜したとして斬首されることを聞いた。その時、私はすべてを理解した。そして、大司教が私のために尽力してくれたことに感謝した。
翌年、父王が病死したという知らせが届き、貴族たちの悼む手紙も同封されていた。彼らは、私が魔王討伐に専念できるように国事について心配しなくていいと言ってくれた。
彼らは、魔王軍が私を殺すことを願っていたのだろう。
しかし、私は生き残った、勇者と共に。
そして、五百年も生きていた魔王さえも倒した。それは、魔王が強大で倒せない存在だと小さい頃から教えられてきた彼らには、全く想像できないことだっただろう。
彼らはきっと王宮に隠れて、すべての栄華を享受し、王国の遺産を分け合う美夢を見ているのだろう。
だから、私は確信した。
実際、こんなに考える必要もない。明白だ。
勇者は彼らに殺されたのだ。
王国の緊急会議には、勇者と父王を殺した犯人がいる。おそらく、全員がその計画に関与している。
許せない。
許せない。
許せない。
私がどうなろうと構わない。
この国がどうなろうと構わない。
この世界がどうなろうと構わない。
前にも言った通り、父王が私に命を与え、勇者が私に五年の命を与えてくれた。
だが、彼らはもうこの世にはいない。
私はすでに人間としての資格を失った。
だからこそ、人間としての幸せを求めることはない。
今の私はただの肉体、一つの死体に過ぎない。
今、私は王都へとひたすら進んでいる。
愛も恋もなく、ただ復讐のために。