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洗礼

「卓ちゃん! ほんっっっとに、恥ずかしかったんだからね!」


 開口一番。

 花が怒っていた。


「え、何だって? ちょ、すまんって……っ!」


 耳に手を当てると、頬っぺたを抓られた。


「痛ててっ。千切れる、千切れちゃうからっ」

「話が全然違うよぉ~。私の乙女心はもうズタズタだよお。幼馴染たちに無理やり傷物にされちゃったんだ」


 俺は触ってないでしょうが。揉んでないでしょうが。

 エッチ、スケッチ、ワンタッチプリーズ。

 え~んとウソ泣きする花の頬を抓り返しながら、


「言っとくけど、アレは序の口だ。初級レベル。基礎の基礎。ヒロインだと名乗り出るならば、この程度淡々とこなさなければならない。堀田花。君はいずれ、彼に裸を晒すことになる。パワハラ発言になるが、嫌なら早くラブコメやめなさい。この業界、主人公の番いはいくらでもいるんだよ」

「うぅ……」


 俺の突き放すような冷たい表情に、彼女は沈痛な面持ちを作るばかり。

 ここまでか? それもいいだろう。修羅も泣く棘だらけのいばら道だ。

 嫌々やっても、仕方がない。頑張っても、報われない方が圧倒的である。


「これからは俺とモブの立場で、瀬利裕太の活躍を応援し」

「やるよ! 簡単には諦められないもん。だからっ、私は!」


 ――裕太ちゃんが好きだから。

 花の顔には、そんな感情をひしひしと感じさせた。


「それに、私には卓ちゃんが付いてるし。信じてくれる幼馴染がまだいるから」

「ん? ちょうど今、見捨てようとしたぞ」

「酷いよっ!?」


 コメディ調にポカポカ叩かれる。

 花のご機嫌取りにクレープの奢りで手を打った間、俺は次の作戦について考える。

 往々にして、ラブコメパートは複数あれば巡るもの。俺の俯瞰レーダーを頼ったところ、裕太は最近、とある美少女との逢瀬が徐々に増加している。


 ネクストヒロインズ・ヒント!

 ……アイドルという名の仮面。あなたのペルソナは如何ようで?


「さて、それじゃお次はもう一人の有力ヒロインにちょっかい出してみますか」


 ニヤリと笑みをこぼすや、花が顔をしかめていた。


「卓ちゃんが悪い人相だよお……大丈夫かな?」


 大丈夫かどうか、それはあなたのキャラ立ち次第でありまして。

 小生は忸怩たる思いのまま、見守ることしかできないでございます。

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