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幼なじみが天使だった件――1

「これは……その、ス、スゴい、ね?」

「……面目(めんぼく)次第もございません」


 リビングダイニングの惨状を目の当たりにした雛野が呆然としている。居たたまれなさから俺は視線を泳がせた。


 汚部屋とまではいかないけれど、健全な生活ができているとはとてもじゃないけどいえない有様なのだから、雛野がポカンとするのもしかたない。俺を傷つけないように言葉を選んでいるのが逆に傷つく。


「ひとり暮らしって思ったより遙かに大変なんだな。一応洗濯はしてるけど、それ以外の家事は全然できてないんだ」

「お料理もしてないの?」

「カップ麺とコンビニ弁当ばかり食べてます」


 体を小さくしながら白状する。悪さをして親に叱られそうになっている子どもになった気分だ。


 流石に雛野も呆れてるんじゃないかなあ……まともに顔が見られないよ。


 気まずさのあまりうつむく俺に、雛野は眉を下げた笑みを見せる。


「お仕事が忙しいもんね。家事がおろそかになってもしかたないよ」

「ひ、雛野ぉ……!」


 責めるどころか(いたわ)ってくれた。まるで雛野から後光が差しているみたいだ。ありがたさのあまり拝んでしまいそうになる。


「けど、カップ麺とコンビニ弁当ばっかり食べてるのはよくないかな。体を壊しちゃうんじゃないかって心配だよ」

「そ、それはわかってるんだけど……」


 やろうと思えば料理はできるんだろうけど、学業と作家業をこなしながらだとどうしても億劫(おっくう)になってしまう。


 後ろめたさからうなだれる俺に、雛野が微笑みかけた。


「大丈夫だよ。これからは、わたしがあきくんのご飯を作るから」

「い、いいのか?」

「うん! わたしはあきくんのお世話をするために来たんだから」


「それに」と、ほのかに頬を染めながら雛野が続ける。


「わたしが、あきくんにご飯を作ってあげたいって思ってるから」


 もしかしたら、雛野は聖母の生まれ変わりなのかもしれない。途方もない母性を感じる。いまならバブみの概念を理解できそうだ。


 感激のあまり涙を流しそうになるなか、雛野がキッチンに向かい、冷蔵庫の中身を確認した。


「食材がほとんどないね。先に買い出しに行ってきたほうがよさそうかな」

「助かるよ。お代はここから払ってくれ」


 リビングにある棚。その引き出しから財布を取り出して、俺は雛野に手渡す。


 俺の生活費は小遣いと合わせ、月に一度、両親が振り込んでくれる。そのなかから俺は、生活費と小遣いを分け、ふたつの財布にしまっている。雛野に渡したのは生活費のほうの財布だ。


「ありがとう」と財布を受け取った雛野が、俺にエールを送るように、胸元で両手をギュッと握る。


「帰ってきたらお掃除もしておくね? あきくんはお仕事に集中して大丈夫だからね?」


 日だまりみたいに、暖かくて優しい笑顔が俺に向けられた。


 天使かな?

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