その4
「これでもぼくはオリュンポスの神々の一員なのです。神の使いである天使なんかよりも、むしろ位は上なのですよ。それをあなたは・・・」
「ハハッ・・・、まあ、まあ、いいじゃない、どうせこれも夢なんでしょ?」
「とんでもない、夢なんかじゃありません!」
「だって、あの時も、私、気がついたらベンチで寝てたし・・・」
「あの時はちょうど、あの場のレンタルスペースの時間が切れてしまったんで、仕方なく。まだ話の途中だったんですけど」
「レンタルスペース?」
「キューピッドの持つ力の一つです。――そんなことより、あの時の話のつづきを・・・」
「あの時の話?」
「もう忘れたんですか? 仕方ないなあ。ホントに頭の悪い人ですねぇ」
そう言った瞬間、あきれたと言わんばかりにふわふわ浮かんでいたクピトを、ひょいとつばさが両手で掴んだ。
「覚えてるわよ。さっきから頭悪い、頭悪いって、失礼ねえ。その後に『あんな話信じられない』、と言おうとしたのよ。人の話は最後まで聞きなさい」
クピトを捕まえ、顔を近づけ睨むつばさの手に次第に力がこもる。
「く、苦しい・・・。て、手を離し・・・」
「大体ねえ、あなた、なんてカッコして出てくるのよ。オ〇ン〇ンまで丸見えじゃない」
一瞬、幼児化した全裸のクピトに視線を落とし、頬を赤らめすぐに目を逸らした。
「チッ・・・。昼間はキューピッドのくせに服を着ている、とか言ってナンクセ付けたくせに・・・」
言いながらクピトが舌打ちをした。
「あのねえ、絵の中の清らかなキューピットと、あんたの実物のそれとじゃ違うのよ!! そんな生々しいモノ・・・」
ムッとしたつばさが、右手の中指で軽くピンとそれを弾いた。
「んあっ!!」
その勢いで、後ろに一回転し、小鳥サイズのクピトが、白目をむいて天を仰いだ。そうして真っ赤になって怒りだす。
「イッタ~~! な、何するんですか~~!! 昼間、大人の男の裸体には興味がないって言ってたから~~。わざわざ子供の姿で現れてあげたというのに!!」
「えっ? そんなこと言ったけ・・・、でもだからって、そういう意味じゃないっての~。勘違いしないで!!」
もう一度クピトを捕まえたつばさの両手に力が加わる。
「く、苦し・・・、勘違いって何ですか? だ、だから、あなたはショタで、少年の裸がお好きなのでしょ~~」
「ちがうから!!」
叫んだつばさがようやくクピトをその手から解放した。
「ふぅ~、苦しかったぁ・・・」
再びつばさの目の前をふわふわ舞いながらクピトが言った。
「――じゃあ、やっぱり大人の男性の方がお好きだと?」
「ちょ、ちょっと、言い方がアレだけど・・・。まあ、そうね・・・」
「そうですか。じゃあ、やっぱり元の大人の姿に戻ります」
「ちょっと待って! 裸はダメよ!」
「・・・どうしてですか? 今、大人の男性の裸が大好きだと・・・」
「言ってない、そんなこと!!」