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その3


 気がつくと、凍蝶(いてちょう)つばさは美術館の廊下のベンチに座っていた。スマホを出して時間を確認する。察するに、どうやらここで二十分ほど眠ってしまっていたらしい。


 立ち上がり、先程クピトと話をした常設展の会場へ戻ってみた。特別展の「復元されたキューピッド」目当ての人たちの流れに逆らって。


 すると、扉の前には立看板が有り、「本日、展示作品入れ替えのため、常設展示室は休館とさせていただきます」との文字があった。


「えっ? どういうこと・・・」

――ここでキューピットの絵を見たこと自体、夢だったの? 



 ****



 その日の夕食後、風呂上がりにタオルを髪に巻き、つばさが自分の部屋に戻って来た。


――だけど、今日のあれ、何だったんだろ・・・。夢にしては妙に生々しかった


 両手でタオルを押し当て、濡れた髪の水分を拭き取っていると、目の前を左から右へ、小鳥のような物体がパタパタと通り過ぎて行った。

 ――ん?


「ようやく戻られましたか・・・」

 裸の姿、背なかに白い羽、今度は逆に、右から左へふわふわと、そいつはつばさの鼻先に漂うようにやって来て、彼女の顔を覗き込んだ。


「うぎゃ、何!?」

 叫んだつばさが身をのけぞらし、背後のベッドの(へり)にぶつかって足を取られ、尻もちを突いてそのままベッドに転がった。


「だいじょうぶですかぁ?」

 可愛らしい幼児の、小さな顔が覗き込む。

「ああ・・・、あなた、誰?」

「ぼくの名前はクピト。 ――って、ぼくのこと、もう忘れたんですかぁ。案外頭の悪い人ですねぇ。ぼくですよ。ほら、昼間美術館で会った。」

 仰向けにベッドに転がったつばさの顔の上を、ふわりふわりと舞いながらクピトが言った。


 身を起こし、つばさがベッドに座り直した。

「頭悪いって、失礼ね。それは覚えてるけど、どうしてそんな小さな姿に・・・」

「それはですね、人間には見えない、今の姿のままでは、ぼくは物理的にモノに(さわ)れないので、そこの窓の隙間(すきま)からこの部屋へ入るために、チョイと小型化したわけです」

「ふ~ん、そうなんだ。なんだかどっかのお菓子メーカーのマークみたいね。ま、ちょうどいいや、ちょっとこっち来て後ろ向いてくれる」


「えっ? ――は、はい・・・」

 訳も分からず、クピトは言われた通り、つばさの目の前に来て後ろを向いた。しばし、その場に(とど)まるために(せわ)しげに翼をパタパタさせる。

「こうですか?」

「そうそう。――ふぁ~、涼しい~。今、お風呂上がりで暑かったんだよねえ」

 つばさが大きめのTシャツの襟首を摘まんでパタパタさせながら言った。

「でも、あなたもうちょっと早く飛べないの?」


「キュ、キューピッドを扇風機の代わりに使うなんてぇ!!」

 怒ったクピトが振り向いて、短い手足をバタつかせる。が、小さく、幼児体系のその姿がなんだか滑稽にも見える。

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