その29
「彼に何をしたの?」
「何もしてません。彼があなたに飲ませようとしていた物を飲ませただけです」
「そう・・・、睡眠薬を私に飲ませようとしてたんだ」
「はい。ぼくがすり替えておきました」
「ん? ちょっと待って! それだったらもっと早く私を助けに来れたんじゃない? あんな怖い目に遭う前に」
「仕方ありません。少しは怖い目に遭わないと、つばささん、ぼくの言うことを信じてくれなかったでしょう?」
「う~~ん。なんか納得いかないなぁ・・・」
複雑な表情でつばさが唇を尖らせた。
クピトは近くの床に倒れたままの相沢を見て言った。
「でも、どうしますか? 今なら確実に相沢君の心臓に矢を射ることが出来ますよ!」
「はあ? もう絶対イヤよ、こんな人!!」
「そうですか? でも矢を使えば、一生あなた一人だけを愛し続けることも可能ですよ」
「それでも、絶対イヤ!!」
「そうですか・・・。それでは、正式にこの契約は破棄されたということで…」
「待って! 契約がなくなったら、もうあなたに会えないの?」
「そういう決まりです」
「あなたに会ったことも忘れちゃうの?」
「そういう決まりです」
「じゃあさ、残りの最後の矢で、私のハートを刺してよ! ……あなたのこと、ずっと忘れないように……」
つばさは下を向き、少しはにかみながら恥ずかしそうに言った。
「人間とキューピッドの恋愛はご法度だと言ったでしょう」
クピトがすこし寂しげに笑った。
「それに・・・、契約を解除したら、もう二度とぼくはあなたに会うことが出来ません。それで、あなたがぼくのことを忘れられなくなったとしたら、あなた、この先、一生一人でいるつもりですか?」
「それは……」
ハッと、つばさが俯いた。
「それじゃ、契約を解除しますね」
「待ってよ!!」
いきなり、つばさがクピトに抱きついた。
「あなた、私のことが大切だって言ったよね!?」
「はい……」
「あれは嘘?」
「いいえ、つばささんはぼくにとって、とても、とても大切な人です…」
「私にとってもクピトくんは大切な人。もっともっとあなたのことを知りたい。ずっと一緒にいたい。私、あなたのことが好き!!」




