その28
「その手をどけなさい!」
そう言うと、どこからか忽然と姿を現したクピトが、片手で相沢の腕を掴み、そのまま軽々と持ち上げて壁に放り投げた。
「うがぁ!」
一回転して相沢がまともに壁にぶつかり、したたか頭を打って呻いた。そのまま後頭部を押さえながらうずくまっている。
続けて左手で伊東の顔面を掴んで後ろの壁に叩きつけた。力が抜け、ずるずると膝から崩れ落ち、そのまま失神した。
伊東の手から抜け出し、自由を取り戻したつばさが、飛びついてクピトに抱きつき、首にしがみついた。
「クピトくん!!!」
「ごめんなさい。つばささん、また少し遅くなってしまいました」
「ほんとよ~~」
泣きながらクピトにもう一度しがみつく。
「九尾堂、お前~、どうして、どうやってここへ・・・」
相沢は頭を振りながらそう言うと、顔を上げて睨みつけた。
「そんなことはあなたに答える必要はあません」
「なんだとぉ~。それになんだ、そのイカレたカッコは」
今や完全に神の力を取り戻したクピトは、神話の神々のごとく凛々しく、薄っすらと美しい光を纏い、地に足をつけることもなく、宙に浮いている。
「我はクピト。オリュンポスの神々が一人」
「ああっ、ふざけんな!! 何が神だ!!」
「今、この場はわが力によって支配されている。汝がいかに騒ごうが我に敵うことはない。大人しく我に従い、つばさに詫びて、二度と近寄らぬと誓え!!」
「なにを馬鹿なことを・・・」
そう言って殴りかかろうとした時、すっとクピトが右手を挙げた。途端に相沢の動きが止まり体の自由が利かなくなった。
「なんだ、これ・・・」
「詫びる気がないのなら、これを飲んでみよ! さっきお前がつばさに飲ませようとした物だ」
グラスのオレンジジュースを差し出した。
「それは・・・」
「どうした? 自分で飲めないようなモノを人に飲ませようとしたのか? ――だが、汝に選択の余地などはない」
そう言った途端、相沢の身体が意志に反して勝手に動き出した。ぷるぷると震える手で、グラスを受け取ると、蒼ざめた顔で一気に飲み干した。
すると、たちまち意識が朦朧としてきて、そのままドサリと床に崩れ落ちた。




