その25
「クピトくん! 大丈夫!!」
駆け寄ろうとしたつばさの腕を取り、相沢が自分の背後に回す。隣にいた伊東がつばさの肩を両手で掴み、つばさはそのまま身動きが取れなくなった。
起き上がったクピトが右手を指し伸ばす。
「さあ、帰りましょう。つばささん、こんなとこに居てはいけません!」
「そんなことはなあ、お前じゃなくて、つばさちゃんが決めるんだよ!!」
相沢がいきなりクピトの胸倉を掴み、一瞬顔を近付けて凄んだ。
そうしてクピトを突き放し、振り返った相沢がやさしくつばさに尋ねる。
「どうする? つばさちゃん。コイツと一緒に帰る?」
つばさは俯き、戸惑いながら蒼い顔をして、絞り出すようにこう言った。
「クピトくん、もう帰って…。私のことはもうほっといてって言ったでしょう。あなたと私は違うんだって…」
「そんなことありません!!」
それを聞いても、クピトはまだ必死に食い下がる。
「なぁ? そういうことだ。帰んのはお前だ、九尾堂。――おい、伊東、先につばさちゃん、部屋まで連れてってあげて」
そう言ってズボンのポケットから部屋の鍵を取り出し、伊東に向って放り投げた。
「おっ、おう・・・、わかった。――行こう、つばさちゃん」
飛んできた鍵を片手で受け取った伊東が、ためらうつばさを促した。つばさは何度も振り返り、振り返りしながら、伊東に連れられて行く。
「待って、つばささん!!」
「おい、九尾堂、アレは俺の女だ、ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!!」
相沢はエントランスンの壁にクピトを追い込み、左の腕を押し付けて首を絞めつけた。
「くっ・・・」
そのまま襟元をつかんで何度も壁に頭を打ち付ける。苦し気にクピトの顔が歪んだ。
最後にドスっと相沢の右の拳がクピトの腹に食い込んだ。
――ぐあっ・・・
クピトの口から断末魔のような声が漏れ、目を閉じ、ずるずるとそのまま壁を這うようにその場に崩れ落ちた。
前のめりになって、必死に立ち上がろうと、両腕で屋根のあるエントランスから外へ這いずって行き、しかし力尽きてそのままそこで気を失った。
雨はいよいよ激しく、叩きつけるようにクピトの上に降り注ぐ。
「へっ、ざまぁ」
言い残して相沢が去って行った。




