その24
二人が電車を降りる頃、空模様が少々怪しくなってきて、俄かに灰色の雲が沸き起こってきた。ゲリラ豪雨でも来そうな気配だ。
「なんか嫌な感じだね。ちょっと急ごうか」
駅のホームで空を見上げて相沢が言った。
「そうですね…」
改札付近では、伊東が相沢とつばさ、二人を待っていた。
道々三人並んで歩きながら、伊東が聞いた。
「つばさちゃんは相沢の家に行くの初めて?」
「え、ええ。はい…」
「あ、そう。コイツさあ、兄貴と二人のくせに、結構いいマンションに住んでんだぜ」
「そう、ですか…」
緊張気味に答える。
「おい、あんまりハードル上げんなよ~。――言ってもヤロウの二人暮らしだからさ、そんなシャレた部屋じゃないよ。あんま期待しないでね、つばさちゃん」
三人が角を曲がり、相沢の住むマンションのエントランス前まで来た時、隣接した公園の植え込みから、なにやら人影が近づいて来て声がした。
「つばささん! ついて行っちゃいけません!!」
声と共に制服姿のクピトが姿を現した。
「――えっ? クピトくん!?」
驚いたつばさの口から思わず声が漏れた。
「九尾堂!? お前こんなとこで何やってんだ!」相沢が叫んだ。
「つばささん、この人たちについて行っちゃいけません!!」
スッ、とクピトが三人の前に立ち塞がった。
「九尾堂、いきなり現れて、何言ってんだ!」
「相沢先輩、つばささんはぼくにとって…」
――と、その時、一瞬空気を切り裂くように、ピカッとジグザグに稲光が走った。遠くでゴロゴロと雷鳴が轟く。
「とっても、とっても大切な人なんです!! 何も言わず返してください!!」
「えっ!??」
不意に弾かれたたようにつばさがクピトの方を見遣る。
「はあ? 返せだって? 何言ってんの。つばさちゃんはこれから俺ん家に来るんだよ、つまんないこと言ってねえで、どけよ!!」
そう言うと、相沢がクピトを突き飛ばした。思わず尻もちをつく。
――真っ黒い雨雲から、とうとうこれ以上堪え切れないというように、ポツリ、ポツリと周囲に大きな雨粒が落ち出した。地面から夏の湿った匂いが漂い出す。




