その22
思ったより電車の乗り継ぎが悪く、つばさは十分ほど遅れて約束の映画館の前に到着した。
「すみません、先輩、遅れてしまって…」
駆け寄ったつばさの息が少々荒い。
「大丈夫?」
相沢が心配そうにつばさの顔を覗き込む。
「平気、平気、そんに慌てなくても。映画が始まるまで、まだ全然時間あるから」
やさしく微笑み、つばさの眼を見ながら言う。
「は、はい…」
「さ、じゃあ、行こうか!」
すっと、相沢がごく自然につばさの手を取る。
「あ、はい」
つばさが少し頬を赤らめて答える。
――やっぱり、相沢先輩って、やさしい・・・
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その日以降も、つばさは相沢と二人でいろいろな場所に出掛け、何度かデートを楽しんだ。クピトの話とは違い、紳士的な相沢の態度に、つばさの心はどんどん惹かれていった。
ただ、時折のぞく、女の子の扱いに慣れているような雰囲気だけは、やはり少し気になった。
――ではその間、クピトはどうしていたかと言うと・・・
なんとか彼女を相沢の手から救いたいという一心で、つばさが出掛ける度に、毎回ストーカーよろしく二人の後をつけて回った。
まだ人間から完全体の神へと戻ってはいなかったが、不可視の能力は回復していたので、つばさにさえ気づかれなけばよかったから、尾行は案外容易だった。
その日も、つばさは相沢と水族館でデートを楽しんでいた。
蒼白いライトに照らされた水槽の中を悠々と泳ぐ巨大な魚。群れを成し、光を反射して、素早く縦横に駆け巡る小魚たち。
きらきらと輝く幻想的な世界。
二人で一通り見て回った後、館内のレストランで食事をしている最中に、相沢が切り出した。
「今度さ、みんなで一緒に海へ行かない?」
「えっ? 海ですか…」
つばさはアイスティーのグラスを持ったまま俯いた。
「どうしたの?」
「いえ、あの…、私、スタイル悪いし、海はちょっと恥ずかしいかな…」
――へっ、こいつ自覚はあんのかよ・・・ 相沢が心の中でせせら笑う。




