その21
夏休みに入った。
すでに高く昇った太陽が、地上に容赦ない日差しを注いでいる。
その日も、クピトは朝から家の前で、つばさが出てくるのをずっと待っていた。
――ところに、つばさが白にネイビードットの可愛らしいワンピース姿で出てきた。
三日前クピトは、追い出される前に、つばさが相沢とデートに行くことを聞き出していた。
あの日、部屋から追い出され、廊下からドアを叩いて、
「ぼくの矢の力が無ければ絶対上手くいきませんって。どうせ、次に会う約束もしてないのでしょう?」
と、カマをかけると、
「お生憎さま、今度一緒に映画に行くことになってるんだから。わかったらもう二度と私の前に顔を見せないで。もう、あんたの力なんか借りないんだから!!」
と返事が返ってきた。
その日がいつなのかまでは聞き出せなかったので、翌日から今日まで、ずっとここで見張る羽目にはなったが、めかし込んでいるところをみると、どうやら今日で間違いなさそうだ。
「つばささん、どこへ行くんですか?」
いきなり後ろから声を掛けられ、つばさが驚いて振り返った。
「クピトくん…」
一瞬眉を寄せた。
「相沢君に会いに行くのですか?」
「あんたまだいたの・・・」
「はい。つばささんの望みが叶うまでは・・・」
「だったら、もう用はないわ。今日だってこれから彼とデートしに行くんだから」
「いえ、行ってはいけません!」
「もう関係ないでしょ! 私が誰と会おうと。契約だってもう終わりなんでしょう?」
「ダメです。行かないでください。彼と付き合ているときっとひどい目に…」
「・・・どうしてそんなに彼のことを悪く言うの?」
「それは…」
「それに、あなたの役目は、恋に悩む人の望みを叶えることなんでしょう? だったら、依頼主の好きな相手が善人だろうが悪人だろうが、そんなこといちいちどうだっていいんじゃない?」
「・・・確かに僕の役目はあなたの言う通り、片思いに悩む人の手助けをすること。それ以上でもそれ以下でもないのです。それはそうです…。でも、みすみすあなたが不幸になるとわかっていて、黙って見てはいられません!!」
「そう。でも、だいたい失礼よね。どうして私が不幸になるって決まっているのよ?」
「・・・・・・」
「それに、もし私が不幸になっても、崇高な神サマは…、人間の女の子が一人、傷ついて泣いたりしたくらいで、心を痛めたりなんかしないんでしょ? どうせ私のことなんか、どうなったっていいんでしょ!! ――結局、あなたと私は違うのよ!!」
「そんなことはありません・・・。ぼくは…、ぼくは…」
そう言いながら、クピトは自分の右の掌を、苦しそうに見つめている。
「どいて! 時間遅れちゃう」
苦しげに立ち尽くすクピトの横を素通りし、小走りにつばさが駆けて行った。




