その20
「ちょっと、何よ! ママ・・・」
「つばさ、あんた、やるわね。あの子、絶対逃がしちゃダメよ! あんないい男、これから先、二度と見つからないわよ。あんたにはもったいないくらいじゃない」
「なっ! ママ何言ってんのよ、あんなヤツ! 今から追い出してやるところなんだから!!」
「何言ってんの! あれを逃したら、あんたみたいに人様より胸の劣った子に、一生春は訪れないわよ!!」
「れ、恋愛に、胸は関係ないでしょう!」
「何負け惜しみ言ってんの! あんただって今までの経験上、薄々気が付いているでしょう・・・」
「そ、それは・・・」
「男なんて、結局みんな胸しか見てないんだから。お父さんだって私のこの・・・」
言いながら両手で胸を掴んで見せる。
「わ、私だって、あと二、三年もすれば…」
「ふっ…、手遅れね・・・」
母はつばさの胸をチラッと一目見るなり、寂しげに下を向いて呟いた。
「あんたもう十七でしょ。あとで同い年の頃の私の写真、見せてあげるわ。いい、つばさ、女の子の成長は…、一般的に…、十六歳で完全に止まることになっているのよ~~~~!!」
「なっ!! そ、そんなの個人差があるんだから、わ、わからないじゃない!!」
つばさの声が上擦っている。
「とにかく、あの九尾堂君って子、絶対に逃がしちゃダメよ。じゃ、お茶淹れてくるわね」
「もう!! な、何言ってんのよ、まったく・・・」
と、言いながらも動揺は隠せない。
つばさの母は「あんな息子が欲しかったのよねえ~」と言いながら階段を下りて行った。
「どうかしましたか? 何やら揉めているようでしたが・・・」
部屋に戻ったつばさにクピトが尋ねた。
「別に、何でも。――ねえ、神さまもやっぱり胸の大きい女神さまの方が好きなの?」
「どうしたんです? いきなり藪から棒に・・・。――そうですねえ、オリュンポスの女神たちは、どなたもみな美しく、豊満な方たちですからねえ。胸の大きさに優劣はつけられないかと」
「そう、なんだ・・・」
「美術館に行かれるくらいだから、ヴィーナスの絵とか、ギリシャの彫像とかを御覧になったことあるでしょう? 皆さんあのような感じです」
「あっ、ああ~、そうかぁ~~」
そう言われて、今まで趣味で見てきた西洋画や彫刻の女神たちの姿を思い起こした。
「女神に限らず、西欧の女性はあのような感じの方が多いですねえ。つばささんのような体形の方は非常にレアかと・・・」
そう言って、帰ってからまだ着替えずに、夏の制服姿のままでいたつばさの全身を、まじまじと眺めまわす。
「これだけ凹凸の少ない体形の女性は、永年生きているぼくでも、初めてお目に掛かりました! それはそれはとってもレアで、貴重な存在かと思います!!」
それを聞いたつばさの眉がピクピクしている。
「あんた、それちっとも褒めてないよね・・・。――もういい。早くこっから出てって!!」
そう言うと、つばさは突き飛ばすように自分の部屋からクピトを追い出した。
「ええっ! そんな、まだ肝心なお話が全然・・・」




