その19
サマーライブの後、相沢に誘われ、それに付いて行ったつばさが帰宅した。自室のドアを開けると、中でクピトが待っていた。制服姿の九尾堂結真の姿で。
「また勝手に人の部屋に入って!! もう、ママに見られてないでしょうね」
「すみません、お母さんが買い物に出掛けている間にちょっと」
「まったく・・・。でも、それなら目立たないように、また前みたいに小さくなって来ればいいのに」
後ろ手にドアを閉めながら言う。室内が涼しいと思ったら、クピトが既に部屋のエアコンをつけていた。
「今は半分人間になっていますから、変化の能力は使えないのです。一度人間の姿になると、大体一ヵ月位は元に戻れません。――まあ、そんなことより、どうでしたあの後?」
「相沢先輩、とってもやさしかったわ。あんたなんかと違ってね」
つばさがイヤミたっぷりと言った口調で答えた。
「そうですか・・・。あの、つばささん」
「なに?」
「あの、言いにくいことなんですが・・・」
「なによ?」
「相沢君にキューピッドの矢を使うのはやめたほうがよいかと…」
つばさの顔に明らかな不快の表情が浮かんだ。
「はあ? なにそれ? いまさら。だいたい、あんたの方から言い出したことじゃない!」
「それはそうなんですが・・・。その、軽音部に入部してみてわかったんですが、どうも、そのあんまりいい噂を聞かなくて。相沢君に関して」
「どういうこと?」
「その・・・、有体に言ってしまえばですね、女癖が悪いというか…」
「あれだけモテる人だもん。そりゃ他の人にやっかまれて、いろいろ言われることもあるわよ」
「それはそうかもしれませんが・・・、そうじゃなくて、ですね・・・」
「ああ、そう、わかった。もういいわよ、あんたなんかに頼まなくても、今日だって先輩の方から声を掛けてくれたし・・・」
「あっ、だから、それは・・・」
「つばさぁ~、いるの~? 開けるわよ~」
声がして部屋のドアがいきなり開いた。
「もう、ママ!! 急に入って来ないでよ!」
「なに? お客さん? なんだか、話し声が聞こえたから。 ――あら、まっ、ヤダ! 男の子だったの!!」
そう言ってクピトの顔を一目見るなり、ぱっと表情が変わって明るくなった。
「お母さま、はじめまして。九尾堂結真と申します。先日つばささんと同じクラスに転校して来まして、大変お世話になっています」
立ち上がったクピトがそう言って丁寧にお辞儀をする。
「まあ、なんて礼儀正しい。それに・・・。ちょっとつばさちゃん!」
そう言ってつばさの腕を掴んで一緒に部屋の外に連れ出した。




