その18
サマーライブの日から遡ること二週間ほど前。
つばさの通う高校に転校し、早速クピトは相沢が部長を務める軽音部に入部した。もちろん、できるだけ相沢に近づき、恋の矢で確実に彼の心臓を射抜くためである。
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「ふ~ん、君、転校生なんだ」
視聴覚準備室で自分たちの練習の順番を待っていた相沢がクピトを見て言った。
「はい。先日、この学校に転校してきました」
相沢は、まるで値踏みでもするように、他のメンバーたちと一緒に、上から下へクピトの姿を目で追った。
「そうなんだ。――わかった。顧問の先生には僕から伝えておくから、正式に入ると決めたらあとで先生に入部届を出してよ」
「はい、わかりました」
「ところで君、楽器は何ができるの?」
「楽器ですか? そうですねえ。縦笛、横笛・・・、そうそう竪琴なんかも・・・」
「た、タテゴト? ――へえ、め、珍しいねぇ。ああ~でも、それはどうかなぁ・・・。そう、歌、ボーカルとかは?」
「はい。歌は得意です。鳥たちと一緒に、森の木々のざわめきや風に合わせて、よく歌ったものです。――それから女神たちともよく一緒に・・・」
すっとんきょうなクピトの答えに、他のメンバーと一緒に、相沢があっけに取られていると、ドラムの伊東がドアを開けて声を掛けた。
「おい、前の連中、終わったから準備しようぜ」
「お、おう。今行く。――じゃ、じゃあ、九尾堂君、転校して来たばかりで、すぐにメンバーを集めるのは難しいだろうから、まずはどこかのバンドに入れてもらいなよ、上手くいけばサマーライブにも間に合うかもよ」
「はい。ありがとうございます」
相沢たちが準備室から視聴覚室へと出て行った。
「なんだ、あいつ、キモ!」「へんな奴」「顔はいいのにな」などと口々に言い合っているのが聞こえる。
防音設備の整った視聴覚室から漏れてくる声を、普通の人間の耳には聞こえるはずもないが、クピトには聞こえる。
クピトがすぐに帰らなかったのは、もちろん相沢に矢を射るチャンスを窺うためだったのだが、そのうち演奏の準備をしている彼らの会話が漏れ聞こえてきた。
「・・・・・・えっ? お前、あんなのがいいの?」
「いやあ、だってカワイイじゃん・・・、あの子」
「凍蝶ってさ、よく俺らの練習見に来てる子でしょ?」
「ああ~、そうそう、3Bの柴田、ほら野球部の。あいつの妹といつも一緒にいる子な」
「あああ、あれね。――まあ、顔はそれなりに整っているとは思うけどさぁ。俺はもっとこうボンボン、とメリハリのある、抱き心地のいい方がいいな」
「相沢はそうだよな」
「なんかさあ、あの子きっと裸にひんむいたら、まな板に干しブドウ二個、くっ付けてみました、みたいな感じだぜ、きっと」
「ウハハハハ!!」
「ウッケる!!」
「相変わらず口悪いな竜は」
――あいつらぁ~~。つばささんを侮辱しやがって!!! 許せない!!
「そう言えば、あの子、いっつも竜のことばっか見てるよなあ」
「俺もそれ思った! 熱い視線ての」
「なんか、表現、古るっ!」
「そうなの? じゃあ、俺が一度確かめてみっかな。本当にまな板かどうか。まあ、一回ヤレばいいか。そしたら、その後伊東にまわしてやっから」
「やめろよ、いやだよ、竜と兄弟になっちゃうとか」
「もう決めたもんね~。贅沢言うなよ。前にも回してやったことあっただろう」
「ああー、相沢が言い出すともう聞かねえからなあ・・・。こと女のことになると。あきらめろ、伊東ちゃん!」
「ウハハハハ!!」
「アハハハ」
なんて…、なんてサイテイな奴らなんだ…。――つばささん、男を見る目、全然ない…。このままじゃ、つばささんがひどい目に…




