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その17


 つばさが怒りを静めるため、しばらく籠っていた女子トイレから出てくると、目の前にクピトが立っていた。

「なんか用?」

「捜しましたよ、つばささん! 急にいなくなっちゃうから」

「ほっといてよ、私のことなんか。あんたには大事なファンが一杯いるんでしょ!」

 そう言ってまた怒ったように背を向ける。


「あれぇ、もしかして、つばささん、ぼくにヤキモチを焼いているんですか?」

 その言葉に反応したつばさが、すぐさま振り返った。

「なっ!・・・、そんなことある訳ないでしょう。バッカじゃないの!!」


「あれあれ~~。顔が紅いですよ。まあ、仕方ありませんよ。そもそも人間であるあなたが、神であるぼくに憬れを抱いたとしても、そう・・・、それは無理からぬことです」

 眼を閉じ、顔を近付けてうんうんと頷くクピトを見て、逆上したつばさが大声を出した。どうやら満更(まんざら)的外れな指摘でもなかったらしい。


「だ、誰が、あんたなんか・・・、クピトくんなんか、クピトくんなんか・・・、――大っ嫌いよ~~~!!!」

 ライブが終わり、人気がまばらなホール中に響くような大きな声だった。


 その時、「おい、嫌いだっていってるだろ! 彼女から離れろ!!」声がして後ろから誰かがクピトの肩を掴んだ。

 相沢竜が怖い顔でクピトを(にら)んでいる。


 ――相沢先輩!? 

あっけにとられたつばさがつぶやいた。


「九尾堂、嫌がっているだろ、今すぐ彼女から離れろ!」

 相沢は掴んでいたクピトの肩を思い切り引っ張ってそのまま後ろに突き飛ばした。


「クピトくん!!」

 つばさが叫んで、駆け寄ろうとした。その腕を掴んで相沢が引き止めた。

「大丈夫、凍蝶(いてちょう)さん」

「あっ、いえ、あの、違うんです・・・」

「ウチの部員がごめんね」

 相沢がつばさの眼を見て言った。


「ひどいなぁ、相沢先輩、いきなり投げ飛ばすなんて・・・」

 ズボンの汚れをポンポンと払いながらクピトが言う。

「九尾堂、お前、嫌がってる女の子に無理に言い寄るとか、最低だぞ!」

「あの・・・、先輩、ほんとに違うんです。そういうんじゃなくて・・・」

「ホント、ごめんね。部長として、責任感じるよ。お詫びに何かごちそうするよ、どう、下の喫茶店とかでいいかな?」

「えっ? いえ、そんな、お詫びだなんて・・・」

 そう言って、下を向いた。

 

 戸惑うつばさを、女の子のエスコートには手慣れた様子で、上手に誘導して相沢が連れて行こうとする。

「つばささん!」

 クピトの声に一瞬立ち止まって振り返ったつばさだったが、

「行きましょう、つばささん」

と促され、またすぐに歩き出した。


「・・・九尾堂、一、二年生は機材の後片付けな、サボるなよ!」

 振り向いた相沢がニヤリと笑たように見えた。


 ――まずい。このままじゃ・・・

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