その15
保健室のベッドにクピトが静かに横になっている。精緻で美しいクピトの寝顔。その土気色だった顔色が次第に元に戻っていく。そのそばに付き添って、つばさが座っている。
やがてクピトが目を開けた。
「つばささん…。大丈夫でしたか?」
「なに言ってんの、私のことより自分のこと心配しなさいよ」
「ああ…、ぼくは大丈夫ですよ、なんせ、神ですから…」
その声が、つばさにはいつもより元気がないように聞こえる。
「今は半分人間なんでしょ?」
「ああ。そうでした。あんまり無理をすると死んじゃうかもしれませんね」
クピトが力なく笑う。
「えっ? そうなの? ――ごめんなさい。私のために・・・」
「いいんですよ。つばささんが無事ならそれで。必ず守ると言ったでしょ」
その言葉を聞いて、つばさが少し照れくさそうに伏し目がちになった。
「それより、武藤先生は大丈夫でしたか?」
「うん。ここまであなたを運んでくれた。――でも、あの人、なんにも覚えていないみたい」
「そうですか、よかった。その方がいいです。つばささんも、嫌なことは早く忘れてください」
「そうね、そうする。元はと言えば自分が悪いんだし…。――あっ、そうだ、右手を見せて!」
「右手?」
掛け布団の中から出したクピトの右手を取って、そっと手のひらを広げて見た。
「すご~い、もう治ってる。よかったぁ… あれっ? でも、一箇所だけ傷が・・・」
――つばささん?
――綺麗な手…
そう言ってつばさは、そのままそっと自分の唇を軽く押しあてた。
「大げさですねぇ、つばささんは」笑いながらクピトが身を起こした。
二人の視線があった。
――あの日、美術館で初めて逢った時のように・・・。
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突然、ばあん、と勢いよく保健室のドアが開き、クラスの女子が大勢なだれ込んできた。
「九尾堂く~ん!! 大丈夫!!」
「死なないで~~!!」
すぐに一人が素早くカーテンを開ける。
つばさが自分の顔の前で、クピトの右手を握り、見つめ合う二人の姿があらわになった。その前で、猛然と駆け寄って来たみんなの動きが一瞬固まる。
次の瞬間、保健室から学校中に響き渡るような悲鳴がいくつも上がった・・・。




