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その15


 保健室のベッドにクピトが静かに横になっている。精緻(せいち)で美しいクピトの寝顔。その土気色(つちけいろ)だった顔色が次第に元に戻っていく。そのそばに付き添って、つばさが座っている。


 やがてクピトが目を開けた。

「つばささん…。大丈夫でしたか?」

「なに言ってんの、私のことより自分のこと心配しなさいよ」

「ああ…、ぼくは大丈夫ですよ、なんせ、神ですから…」

 その声が、つばさにはいつもより元気がないように聞こえる。

「今は半分人間なんでしょ?」

「ああ。そうでした。あんまり無理をすると死んじゃうかもしれませんね」

 クピトが力なく笑う。

「えっ? そうなの? ――ごめんなさい。私のために・・・」

「いいんですよ。つばささんが無事ならそれで。必ず守ると言ったでしょ」

 その言葉を聞いて、つばさが少し照れくさそうに伏し目がちになった。


「それより、武藤先生は大丈夫でしたか?」

「うん。ここまであなたを運んでくれた。――でも、あの人、なんにも覚えていないみたい」

「そうですか、よかった。その方がいいです。つばささんも、嫌なことは早く忘れてください」

「そうね、そうする。元はと言えば自分が悪いんだし…。――あっ、そうだ、右手を見せて!」

「右手?」


 掛け布団の中から出したクピトの右手を取って、そっと手のひらを広げて見た。

「すご~い、もう治ってる。よかったぁ… あれっ? でも、一箇所だけ傷が・・・」


 ――つばささん?

 ――綺麗な手… 


 そう言ってつばさは、そのままそっと自分の唇を軽く押しあてた。


「大げさですねぇ、つばささんは」笑いながらクピトが身を起こした。

 二人の視線があった。

 ――あの日、美術館で初めて逢った時のように・・・。


  ****


 突然、ばあん、と勢いよく保健室のドアが開き、クラスの女子が大勢なだれ込んできた。

「九尾堂く~ん!! 大丈夫!!」

「死なないで~~!!」

 すぐに一人が素早くカーテンを開ける。


 つばさが自分の顔の前で、クピトの右手を握り、見つめ合う二人の姿があらわになった。その前で、猛然と駆け寄って来たみんなの動きが一瞬固まる。


 次の瞬間、保健室から学校中に響き渡るような悲鳴がいくつも上がった・・・。

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