その14
「確かに、このまま放っておくと、武藤先生の方も危ないかもしれません」
「どういうこと?」
「たまにいるんです。キューピッドの矢の効果が極端に出る人が。通常は相手もその人が好きなわけですから、あまり問題はないんですけど・・・。今回の場合は・・・。――下手をすると、先生の精神に異常を来すかもしれません」
その時、武藤先生がむっくりと起き上がった。ジッとつばさのことを見つめている。もはや正気を失っているのは誰の眼にも明らかだった。
「凍蝶!! 好きだぁ~」
「いやああ~~」
武藤先生が再びつばさを目掛けて飛び掛かろうとした。両手を広げ、クピトがそれを遮って立ちはだかった。そうして、素早く身を翻し、そのまま背後に回って羽交い絞めにした。
「先生、ごめんなさい」
そう言うと、クピトは後ろか煌煌と光る神の右手を、まだ矢じりの残っている右肩にあてた。
その瞬間、武藤先生は一瞬悶絶するようにして気を失った。クピトもウウッと小さく呻いて顔を歪めた。
クピトの手が輝きと共に白い煙を上げ、武藤先生が着ているシャツを焦がし、右肩の中に、沈み込んでいくのが、つばさの眼にもはっきりと見えた。
「クピトくん、一体なにをやってるの?」
「仕方ありません、最後の手段です。本来キューピッドは人に刺さった矢に触れることはできないんですけど、ぼくは今、半分人間ですから、これなら・・・」
つばさを見ながら、苦しげに、弱弱しい声で答えた。
「なんかすごいことになってるみたいだけど・・・、大丈夫?」
何やら焦げ臭い、肉の焼けるようなにおいが漂い出した。
「あと、もう少し・・・。よし、掴んだ!!」
クピトが矢じりを握って、ゆっくりと先生の右肩から手を抜いた。焼け爛れたクピトの右手のひらで矢じりが光ながら消滅した。ホッとしたクピトが武藤先生を抱えたまま、床に倒れ込んだ。
「クピトくん!!」
「つばささん、下がって。今から武藤先生の治療をします」
クピトは武藤先生を床に寝かせ、怪我をしていない左手を翳し、その右肩の傷口に光を照射している。みるみる傷口は塞がっていったが、逆にクピトの顔色はどんどん悪くなり、玉のような脂汗が額にいくつも浮かんでいる。
「ふうっ・・・」
と大きく息を吐いてクピトが床に崩れ落ちた。同時に武藤先生が目を醒ました。
「クピトくん!!」
つばさが叫んでクピトに駆け寄る。
「大丈夫? しっかりして!!」
「う~~ん、なんだ、どうなってる? なんでこんなとこにいるんだ・・・。おう、お前、凍蝶か。――ん? そこに転がっているのは誰だ。 ――九尾堂? 九尾堂じゃないか。大変だ、気絶している。凍蝶、すぐに保健室に運んでやれ!!」
まだぼうっとしている様子だが、先生は頭を振りながらもすぐに指示した。
「は? はい~?・・・」
「ああ、いやお前にゃ無理か、俺がおぶって行く。――ややっ? こ、これはYシャツの肩にこんな大きな穴が開いている。一体全体どうしたって言うんだ・・・」
ついさっきまで自分に向って迫って来ていたことを思い出し、ジト目でつばさが武藤先生を見つめ、溜息をつく。
――はあ~~。全部、あなたのせいなんですけど。 センセイ・・・。
――ん? あれ~? もしかして私のせい?




