その12
「凍蝶、もう、俺はこの気持ちを抑えられなんだ!! わかってくれ!」
――うえっ、キモ~~。そんなの絶対無理なんですけど~~。でも、キューピットの矢の威力ってこんなに凄まじいモノだったんだ・・・
つばさがそんなことを思っていた、一瞬の隙を突き、武藤先生が突進してきて、いきなり両腕でつばさを抱きしめた。
――いやあ!! やめて!!
思わず声が出た。しかし武藤先生は強面の柔道部顧問。その力で一度掴まれたら、男性でも抜け出すことは容易ではない。ましてや、か細い少女のつばさが、その両腕から抜け出すのはほぼ不可能だった。
「先生、やめてください・・・。大きな声出しますよ」
「ここは校舎の外れだ。そんなの聞こえるわけが…。いや、いや、そういうことじゃない、俺はお前に何かするつもりも、傷つけるつもりも、これっぽっちもないんだ。愛しているんだから。俺の話を真面目に聞いてくれれば、直ぐに手を離す。頼む!」
「いやあ~」
「恐怖」と、抱きしめられるというよりは、締め付けられる「苦痛」のために、自分で思ったよりも、よっぽどか弱い声がつばさの口から洩れた。
それを拒絶と受け取った武藤先生は逆上したように、ますますその顔をつばさにすり寄せていく。
――もう、ダメ…。怖い。クピトくん、たすけて・・・・・・
「先生!! やめてください。ダメです。これ以上は。その手を離して!」
そう言って、クピトが武藤先生の両腕を掴み、グイッとつばさから引き離した。素早く、つばさが這うようにして逃げ出す。足がガクガクしてまともに歩けない。
クピトの腕力は思いのほか強く、掴まれた先生の両腕にいよいよ力が入ってぷるぷる震えている。しかし全く身動きが取れない自分に、驚いた武藤先生がクピトをみつめる。
「九尾堂・・・。どうして・・・、どうやって中に入った。」
先生が振り返って鍵のかかったままのドアを見遣った。
「そんなことはどうでもいいことです」
そう言って、先生を突き放し、へたり込んでいるつばさに駆け寄る。
「クピトくん、遅~~い・・・」
ほとんど半泣き状態のつばさが言う。
「ごめんなさい、つばささん。遅くなって。でも勝手に一人で行っちゃったつばささんがいけないんですよ」
クピトがやさしくつばさの手を取って起こし、自分の背にかくまうようにして言った。
「もう、ばかっ…」
クピトの背中につばさがしがみついた。
「つばささんが嫌がっています。先生、もうやめてください」
「それは・・・、出来ん。なぜだかわからんが、たとえ自分がどうなろうと、どうしてもこの気持ちを、自分でも抑えきれないんだぁ~~」
絶叫してその場に座り込み頭を抱える。




