天然。
「ロイドさ、あんまり私を怒らせない方がいいよ。リルちゃんの故郷を襲う? そんなふざけた事をやらせると思ってるの?」
「それはお前次第だと言っているんだよ。我々の邪魔をせずに大人しくしていればいいだけの話だ」
「そうやって力づくでムポポペサを支配したって誰もついて来ないと思うけど?」
「その言葉そのままお返しするよ。正に今、お前も力づくで飛竜達を攻撃しようとしているではないか」
こ、このやろう!重箱の隅を突くような言い回ししやがって、お前は意地悪な姑か!お前みたいのが姑だったらどんな良縁も即、切れるわ!
でも、どうしよう。こいつらを焼き払っちゃうのは簡単だけど、リルちゃんの故郷が危ないし。腹中黒達と手を組んでいるのなら他の場所だって危ないかもしれない。それに、敵とはいえ焼き払っちゃうのは少し気が引ける。……てか、出来ないかも。
「私にはまだ片付けなきゃいけない問題がいくつもある。ここでお前とおしゃべりしている時間は無い」
「私だってお前と喋ってるだけで寒気が走るわ! バーカ、バーカ!」
「朱里様、ここは一旦引きましょう。体制を立て直すべきです。奴等も直ぐには大それた行動は起こさないでしょう」
「ダメだよ! このバカはなにやらかすか分かったもんじゃないよ」
「鬼の魔王だって、この事実を知ったら黙っていない筈です。それに私達には先代様もついています」
そっか、霧丸か。そういえばアイツもいたんだね。忘れてたよ。それにしてもアイツは頼りになるのかね?おじいちゃんは分かるけどさ。
うーん、確かにニャンジの言う通りなのかな?ここでこいつらを逃しても、直ぐには手は出しては来ないのかな。かと言って、ずっと放っておく訳にもいかないし。
……ど、どうすればいいんだ!?
「どうやら怖気ついた様子なのでここらで失礼させてもらうよ。残り少ないムポポペサでの生活をせいぜい楽しむがいいさ」
「あー、うるさい! もうお前はどっかいけ!」
「そうさせてもらうよ。飛竜よ、使えない神鹿を始末して来い。生かしておいても情報を流されるのが関の山だ」
「……朱里様、小竜王の気配が消えました」
……は?今、始末って言った?神鹿って、ライカの事を?ロイドってそこまでヤバい奴だったのかよ。次から魔王の選び方考えた方がいいんじゃないの?
「あ、飛竜達が急降下し始めた! ええ、速っ! 飛竜ってあんなに速度出るもんなの!? ニャンジ、ライカって今どこ!?」
「恐らく飛竜達の進む先に、地上にいると思われます!」
「地上にって、ライカ落っこちちゃったの!? とにかく飛竜達を止めなきゃ!」
「しかし、『飛行』のスキルを使っても浮いているのがギリギリなのでは? スキルを解いて落下しても到底間に合いませんよ」
「多分、大丈夫! 全速力出した方が安定しそうだから。それよりちゃんと捕まっててね、ニャンジ。吹き飛ばられたら大変だから」
———
あ、渦巻いてた炎が消えた。朱里ちゃん、怒りが収まったの?
「いやあ、怖かったね。朱里があの地獄の業火を空でぶっ放してたら、丸焦げになった飛竜達が焼き鳥になって空から降り注いで来ただろうよ」
「なんだったの、あのバカげた魔力は。アイツって只の体力お化けじゃないの?」
「最近、魔術も使えるようになってね。もう手がつけられないよ。下手にからかったら蒸発させられちゃう」
上でなにかあったのかな?もしかしてニャンジちゃんが既に消化済みだったとか?うわあ、もしもそうなら目も当てられないよ!
ニャンジちゃんの大きさって、軽食には丁度いい位の大きさだったのかな。きっとおにぎり的な感じで食べられちゃったんだ!そ、そんな!
はわわわわ、琥珀ちゃんに何て言ったらいいの!?
「ニャンジ、食べられちゃったのかな。きっと、おにぎりみたいに軽食代わりにされたんだ。かわいそうに」
「私が言える立場じゃないけどさ、仲間が食べられたってよく平気な顔して言えるな」
「はっ! そ、そうだよ! クリスちゃんったら、縁起でも無い事言わないで!」
(あの顔。……絶対、リルちゃんも食べられたと思ってただろうな)
「全く、クリスちゃんは! ダメだよ、ちゃんとこの目で確認するまでは軽率な事は言わないでよね!」
「はいはい」
「二人共おしゃべりしている所悪いんだけどさ。上、見て」
「あれは……飛竜? こっちに向かって来てる!?」
「多分、私だ。二人共離れてた方がいいよ」
「なんで? 離れないよ」
「は?」
「だってライカちゃんを狙ってるんでしょう? だったら一緒に戦わなきゃ」
「僕は離れた方がいいと思うけどね」
「もう、ほっといてよ。私はここまで。ロイド様に見捨てられたんだ」
「きっと朱里ちゃんなら見捨てない。だからわたしも見捨てないよ」
「僕は離れた方がいいと思うけどね」
「クリスちゃん、うるさいよ。少し静かにしてて」
「ありがとう、でもごめんね」
「な、なんだ!? 体が動かない!」
「ライカちゃん!?」
むむむむっ!だ、だめだ。全く体が動かせない。ライカちゃんだって魔力がギリギリのはずなのに。ダメだよ、そんなに強引に魔力を振り絞ったら命に関わって来ちゃう。
「自分の事は自分でケリつけるから」
「ライカちゃん、待って!」
「そ、そうだよ! 一人で行くならせめて拘束解いてからにしてよね! 飛竜がこっち来たら抵抗出来ないじゃんか!」
「ばか! クリスちゃん、薄情すぎ!」
(なに!? 体が動かせずとも僕の口を凍らせて来ただと!?)
拘束魔法なんてただでさえ魔力を消費するのに、その上で飛竜達と戦ったりなんてしたら!
「むがががが! むご、むごごごご!」
(リルちゃん! 上、朱里が来た!)
う、うるさいなあ。口を塞いでもまだ喋ってるよ。おしゃべりな男はこれだからダメね。きっとクリスちゃんって恋人が出来た事無いんだろうな。はあ、ヤダヤダ。
「むごがご! むごごごご!」
(やばいよ! 落ちてくる!)
もう、ほっとこ。そんな演技までして。……ん?
「う、うわあ! びっくりした、飛竜!? なんで墜落して来たの?」
「むがご、むがごむが!」
「もう、なに!? ほらこれで喋れるよ」
「ぶはぁ! 朱里が上で暴れてるって!」
「ええっ!? あ、本当だ! 早く言ってよね!」
「……君は天然なのか、狙ってるのか、よく分からない子だね」