怒り。
「よし、行くよニャンジ。しっかり掴まってないと落っこちちゃうから気をつけてね」
「分かりました!」
とは言ったものの、やっぱり怖いな。いきなり『飛行』を試す高さじゃないよ。だけどここで尻込んだって仕方がない!
朱里、覚悟を決めるんだ。……うう、けどやっぱり怖いもんは怖い!
「朱里様? なんか目を閉じてますけど本当に大丈夫ですか!?」
「平気だと思う、多分! 行くよ、せーの!」
うがー!やっぱり怖え!……お?
おお、ちょっとフラフラするけど浮いてるよ!これ凄くない!?
「さすが朱里様です!」
「う、うん。だけど、ちょっと難しいんだよね。バランスが取りにくくて」
「ゆっくりでいいのでこのまま下降しましょう。その内に慣れて来ますよ」
「だといいんだけどね。ところでニャンジさ、気付いてる? 飛竜達の動きが止まってるよ」
「まずい、命令の書き換えでは!? 朱里様、早くこの場を離れましょう!」
「ちょい待ち。マジでバランス取るの難しいんだよね」
なんか逆に思いっきり速度出した方が安定しそう。ニャンジ耐えれるかな?
「朱里様、飛竜が近づいてきます!」
そんな急かさないでー!うーん、上手くいかない!もう戦うしかないのかな?
でもこの高さで戦ったら飛竜達が落っこちて死んじゃうよね?ど、どうしよう。
「やあ、久しぶりだね朱里」
飛竜が喋った?いや、この声は……ロンド!
「こんにゃろう! 久しぶりだね、じゃねえよ! お前、勇者と手を組むって本気で言ってんの!?」
「利害が一致してるんだから当たり前だろ」
「わざわざ『オアシス』にまで手出しして! なんだこの飛竜の大群は!」
「今となってはもう『オアシス』に用は無い。既に福寿録と蠍にはコンタクトが取れたからね」
「朱里様いけません、囲まれています。ここは一旦引きましょう」
「う、うん。そうなんだけど」
ここで引いたら腹中黒と天音の居場所が分からなくなっちゃう。ここが地上だったらとっ捕まえてやるのに!
「遂にだ。遂に竜族がムポポペサの覇者という事が証明出来る。その時には朱里、お前を配下に迎えてやってもいいんだぞ?」
「……は? 馬鹿な事言ってんじゃないよ」
「ははは、そう来るだろうね。『オアシス』の住人共を全滅させなかっただけありがたく思うんだな」
「全滅だって? 竜の魔王よ。一体何を考えているんだ?」
「……ロンド、この飛竜達はお前の命令で無理矢理動いているの? それとも、自らの意思で?」
「ムポポペサの頂点に立つのは竜族の悲願。知能の低い飛竜とはいえ、多種族を殺す事になんの躊躇いもない」
「あっそ。分かった」
「邪魔立てするならば、生意気なフェンリルの故郷を真っ先に燃やし尽くす。お前は大人しく我らの覇業を見届けてればいい」
「ムポポペサは永きに渡りこの平和を保って来たんだ。今更支配などしてどうするつもりだ!?」
「黙れ、獣如きに我らの大望を理解出来るものか!」
「地位を得て暴走したか『小竜王』! ……って熱っ! しゅ、朱里様?」
……リルちゃんの故郷を?
ダメだ、ムポポペサに来てから一番ムカつく。
絶対に許さない。
———
「もう激突するよ! 二人ともちゃんと捕まってて!」
「ライカちゃん、この中にいれば安全だから!」
「本当に? 本当に平気なの!?」
「わ、分かんないけどクリスちゃんを信じて!」
「分かんないの!?」
「ぶつかるよ!」
ぐあーーー!!体が潰れるー!
くっ!痛みは無いけど衝撃が半端じゃなかったよ!もう絶対に高い所から落ちないんだから!二人とも平気かな?思ったより重力加速度か凄かったけど。……し、死んでたらどうしよう。
もしかしてぺったんこに?うわ、想像しただけで嫌だよ。
「ふ、二人とも出て来て平気だよ? おーい」
返事が、ないだと?まさか本当に!?
「おーい! 二人とも、おおおおおおおええ!」
「た、助かったの!?」
「クリスちゃん、ありがとう!」
「ぐあああ、リルちゃん抱きついてくるのは嬉しい限りなんだけどさ、喋ってる途中で出てくるのやめてくれない!?」
「ごめん! 口空いてたからつい!」
「まあ、いいんだけどね。ライカも大丈夫かい?」
「う、うん」
「君も思う所があるかもしれないけど、今はお互い無事だったんだ。とりあえず休戦って事にしないかい?」
「休戦? そんな事しなくったって、もう私には何も出来ないよ」
「ライカちゃん?」
「飛竜から魔力を供給してもらわなきゃ魔力が持たないんだよ。私一人じゃ、何も出来ない」
「ふうん、まあいいよ。とりあえず休みながら朱里を待とう」
「朱里ちゃん、大丈夫かな?」
「そんなに空を見上げたって見えないんじゃない?」
「うん、そうなんだけどさ。……クリスちゃん、あんなに分厚かった雲が無くなってるよ」
「……本当だね。まさか朱里?」
「何これ? 馬鹿みたいに膨大な魔力。アンタ達のご主人じゃないの?」
「朱里ちゃん……戦ってる?」
「飛竜達と?」
「全然あり得るでしょ。あの飛竜達は元々は獰猛な種だからね、ロンド様から命令さえ下されればかなり暴れると思うよ」
「あ、やっぱり朱里が戦ってるね。あのでっかい火の玉さっき見たやつじゃん」
「ここから見える大きさって、アンタ達のご主人どれだけの魔力を練ってるの?」
「朱里ちゃん、怒ってる? 炎が、空で渦巻いてる」
「お、おいスライム。お前、身体溶けてきてるぞ」
「おっと、これは避難した方が良さそうだね」
ただでさえ手がつけられなかったのに、精霊の加護を受けて更に化け物度が増しちゃったよ。
それにしても、朱里のやつ何かあったのか?むやみやたらに暴れるタイプではないと思ってたけど。
……いや、そんな事はないか。
とりあえず、巻き込まれる前にここから逃げた方が良さそうだね。
 




