友達。
ちょっと、ちょっと、ちょっと!
僕なんか食べても美味しくないよ!?
いたたたたた、我慢すれば耐え切れる絶妙な力で甘噛みされてる!
リルちゃんも酷いや!朱里なんてミサイル落とされても無傷に違いないんだから僕を守ってくれたっていいのに!
あだだだだ!そろそろ僕ちぎれちゃうよ!?
痛ぶって弱らせてから獲物を捕食するタイプ!?こいつ絶対メンタル弱った女の子を口説くタイプでしょ!?
どちらにせよ趣味悪いからやめた方がいいし、僕なんか食べるなんてもっと趣味悪いからね!
ああ、もう朱里達が豆粒くらいになってるじゃん!これってどこまで連れて行かれるの?
もうこの際だから飛び降りようかな?落下ダメージ無効だから体を一部分引きちぎってしまえば逃げれるけど。
だけどこの高さは流石に怖い!
河童さんはよくあの高さのホテル登ったね!?ここまでの高さじゃないとはいえ、頭どうかしちゃってるでしょ!
それにしたって、なんでいきなり竜が?竜の生息地は第三区域だよね。こんな所にいるなんておかしいよね?
……は?ちょっと待ってよ、なにあれ。
竜の大群!?
しかも、あの方向はオアシスだよね?そんで僕はどこに連れてかれてるの?
た、助けてー!
—————————
【ロイド様、飛竜部隊が第一区域上空を通過中です。間もなくオアシスに到着するとの事です】
「カルア、後は任せるぞ」
【しかし何度も言うようにあの区域は朱里にあてがわれた区域。邪魔が入る可能性が高いです】
「人族の小娘如きを恐れていては、ムポポペサの支配など程遠い。ここで『格』の違いを見せつけろ」
【かしこまりました。お帰りはいつになりますか?】
「相手の出方次第、だな」
【私もお供したい所なのですが、第一区域陥落を確実のものにするのならば仕方がないですね。私の息子達が既に現場に到着し、待機しておりますのでお連れ下さい】
「こちらの心配は無用だ。何としてでもオアシスを落とせ」
【重々承知しております。ロイド様もお気をつけて】
「竜族こそ至高の一族。そして今こそ、ムポポペサの支配という悲願を成し遂げる」
【ロイド様なら必ずや大願成就される事でしょう。最後に一つだけ、朱里の連れのスライムを捕獲したとの報告を受けておりますが】
「アイツか、スライムなんぞ人質にもなり得ん。適当な所に捨ておけ」
【は、そのように」
———
しっかし初めて竜なんて見たよ、すっげえな。
恐竜じゃん、恐竜。だけどなんでクリスを?
あんな鮮やかな青色でプルプルの物体を見て食欲湧くなんてあり得るの?
握り潰したくなるのが関の山じゃない?
はあ、助けに行かないと後でうるさそうだな。面倒臭い事してくれるよ、全く。
「あれ、どうする?」
「もうあんな遠くまで。クリスちゃん、豆粒みたいになってるよ」
「捕食が目的だとするのなら、もしかして既に」
「ちょっと、ミラさん!? 怖い事言わないで」
しかしどうしたものか。流石にあの高さまで飛ばれると助けに行くのも一苦労だな。ん?
「あっ」
「どうしたの、朱里ちゃん」
「いやね、ご存知の通りさ、私って視力がいいんだけどさ」
「この距離でも見えてるんですか?」
「うん。まあ、それはいいんだけどさ。今、クリスが落ちたんだよね」
「あの高さから!? クリスちゃん、ぺったんこになっちゃうよ! 急いで助けなきゃ!」
「でもアイツってさ、落とし穴から落ちても全然平気だったじゃん」
「あ、確かに。私がお尻で踏んじゃった時だよね」
「そう、そう! だから平気じゃない? 方向だけ覚えといて拾いに行けば大丈夫だよ、きっと」
「その話が本当なら、落下ダメージ無効のスキルを持っていそうですね。それなら少し安心しました」
アイツって弱い癖になんか死ななそうなんだよな。なんなんだろうこの感覚は?悪運強そうだからかな?
「おはよう、皆ちゃんと休んだの?」
「あ、琥珀ちゃん」
「それがですね、少し色々ありまして。今、クリスさんが飛竜にさらわれた所なんですよ」
「竜が第一区域に? 見間違いじゃなくて? オアシスは第四区域とのいざこざがあって以来、竜族や竜の区域立ち入りを禁止しているはずなのに」
「私も思ってたんです、それ。だからまだ統率されていない迷い飛竜かなと」
「まあ、その可能性も無くはないか。それにしてもクリスもついてないね」
「でもね、もう口から離されて落下中なんだ」
「落下中?」
「そうなんです。ほらあそこ、あれ?」
うわ、なんだあれ。今、迷い飛竜って話してたよね?じゃあ、あの大群の飛竜はなに?
「琥珀ちゃん、なにあれ。なんであんな飛竜の大群がいるの?」
「クリスをさらったのは迷い飛竜だとしても、あの大群は確実に違うね。これは竜族の魔王が動いた可能性が高い」
「竜族って事は、ロイドか。挨拶回りとか?」
「だと良いけど、向かってる方向はオアシスだよね?ご主人様、大陸を周る暇なんて無くなったかも知れないよ」
「どういう事?」
「恐らく竜族が仕掛けてきてる。オアシスで、いや、もしかしたらムポポペサ全土で大規模な戦闘が始まるかもしれない」
ロイドが?あいつ、何企んでんだ?まさか自分達が一番なんて本当に思ってるんじゃないだろうな。
「飛竜の進行も第一区域だけじゃない可能性がある。竜族の兵力がどれくらいかは把握していないけど、鬼族の区域だって、あっ! じっちゃんが!」
「先代様は今、第七区域に向かってますよね?」
「おじいちゃんが? ちょっと琥珀、どういう事? まさか同じ様な竜の大群がおじいちゃんの所に向かってるって言いたいの?」
「可能性の話だよ。昔のじっちゃんなら心配ないと思うけどさ。ほら、最近老け込んじゃったから」
「琥珀ちゃんの通信部隊は? 先代様から連絡はないの?」
「一応、まだ無いけど」
「琥珀、今すぐにおじいちゃんの所に行ってあげて。何も無ければそれで良いから」
「ダメだよ、それは出来ないよ。オイラはご主人様の側近なんだ」
「側近だったら魔王の命令を聞くものでしょ? 何かあったら必ず連絡を入れて」
「琥珀ちゃん、行ってあげて。私だって朱里ちゃんの側近なんだら。こっちは大丈夫だよ」
「でも」
「琥珀」
「……分かった。間違えてもオアシスの戦闘に巻き込まれないで」
「早く行ってあげて。任せたよ」
「リル、ミラ頼んだよ」
「お任せ下さい。琥珀さんもお気をつけて」
琥珀は凄い速さでおじいちゃんの所に駆けて行った。心の何処かでは、まだおじいちゃんの側近って感じなんだろうな。
もちろん私も心配だし、一緒に行ってあげたいけど今は目の前の事を片付けないとね。
「朱里さん、私達もここから離れましょう」
「ちょっと待ってね。リルちゃん、こっち来て」
「な、なに?」
「リルちゃんもお父さんとお母さんの所に戻る?」
「……なんで?」
琥珀はムポポペサ全土って言ってた。気まぐれ穴だって戦闘に巻き込まれるかもしれない。
だとしたらリルちゃんのお父さんとお母さんだって危ない。せめて手の届く範囲は守ってあげたい。
「リルちゃん、貴女は私の側近だけど、その前に大切な友達なの。無理は絶対しないでほしいんだ。お父さんとお母さんが心配なら行ってあげてほしい」
「わたしは行かない。友達だからこそ、朱里ちゃんと一緒にいる」
「ダメだよ、行ってあげてほしい。リルちゃんに無理させるなら私は側近なんていらないよ」
「無理なんてしてない。確かに心配だけど結界だって貼ってあるし、お父さんとお母さんは強いもん」
「でも」
「分かりました、こうしましょう。私が向かいます。元々、気まぐれ穴の区域は私が受け持つ予定でしたし、それなら問題ないでしょう?」
「ミラさん、いいの?」
「もちろんですよ。何かあったら必ず連絡を入れます。その代わりリルさんは朱里さんを必ず守ってあげて下さいね」
「ミラ、ありがとう。でも絶対に無理はしないでね」
「お二人も無理は禁物ですよ? 分かってるとは思いますが、間違ってもオアシスに単独で乗り込むなんてしないで下さいね。では」
「わあ、ミラもすごいね! あっという間に飛んでっちゃった!」
ミラが向かってくれるなら気まぐれ穴も安心だよね。私の火柱を止めるくらいの結界を張れるんだから、守りの面に関しては心配なさそう。
「ね、リルちゃん」
「……うん。ねえ、朱里ちゃん」
「なあに?」
「わたしは今、朱里ちゃんが一番心配なの。最近色々あったでしょう?」
ありゃ。少し顔に出てたかな?だとしたらよく見てるなあ。
「うーん、ちょっとだけ考え事は多くなったかな」
「わたしね、この際魔王のお仕事だって辞めたっていいと思ってるの」
「確かに、今となっては魔王でいる必要も余り無さそうではあるけどね」
かと言って何の仕事もしてないし、辞める必要も無さそうだけど。
「な、何を言ってるんだい!」
「あ、クリス」
やっぱり無事だった。こいつもなんだかんだでルシア並みの生命力だな。
「ちょっとクリスちゃん! 大丈夫なの!?」
「そんな事言ったら収入が激減じゃないか! 僕は針鼠に会う事を諦めていないんだからね!」
「んな事はお前の都合だろうが。稼ぐなら自分で稼いでよね」
「とりあえず魔王を辞めるなんてとんでもない! 情報を集めるのにだって、かなりのアドバンテージがあるはずだよ!」
「分かった、分かったよ。でもとりあえず今はオアシスだよ」
「なにさ、オアシスでなんかあったの? あの飛竜の大群となんか関係あるの?」
「実はね、竜族がムポポペサ大陸で大規模な戦闘を起こすかも知らないの」
「そんで琥珀がおじいちゃんの所に、ミラは気まぐれ穴に向かったんだよ。心配だからね」
「なんだって? じゃあここだって危険じゃないか。早く離れないと」
「いや、離れないよ。オアシスに向かう! 魔王のお仕事第一弾だよ。目の前で苦しめられる人がいて、ほっとくなんて出来ないもん」
「ふふ、朱里ちゃんなら絶対そうすると思ったよ」
「はは、バレてた? リルちゃんだって止めても来るでしょう?」
「もちろん。足手まといにならない様に頑張るよ」
「足手まといなんて、十分頼りにしてるよ」
「僕も行かなきゃダメ?」
「お前は強制連行だよ。危なくなったらお前の中にリルちゃん避難させてるんだから」
「だと思ったよ」
「それでお前を水筒に入れて私が持ってれば完璧だもんね」
「そこら辺はお任せするよ。正直、戦いに関しては何の心配もしてないしね」
「よし! じゃあオアシスに向かうよ!」
暑さで再び溶けかけているクリスを水筒に入れて、私達はオアシスに向かった。
竜とは戦った事無いけど、要は空飛ぶトカゲみたいなもんでしょ?さっさと追っ払ってしまえばロイドの奴が来るかもしれない。そしたら少しお仕置きしてやろうかな?
いや、甘いな。痛い目見せてやるか。