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ご飯。

 やっちまった。今回ばかりは流石のルシアもダメだろ。うん、絶対ダメだと思う。


 だって痙攣して前のめりに倒れ込んで、そこに火の玉が直撃したんだ。私だってあんな火の玉ぶつけられたら火傷しちゃうよ。


 それにしてもなんでアイツはいつもタイミングが悪いんだ。生きてる内にステータス見せて貰えばよかった。


 絶対に不運とかあるだろ。


 私が火の精霊の加護により作り出した手のひらサイズの炎は、スキルにより極限までその性能をぶち上げられ、まるで小さな太陽のように変貌してしまった。


 周りに被害が出ないように慌てて空へと放り投げたその巨大な火球は、何故か砂漠を練り歩いていたルシアの頭上へ飛んで行く。


 そして火球は一瞬にして河童の生命の源の皿の水を水蒸気に変え、ルシアを灰塵に帰した。


 今なお、目の前で激しく燃え盛り消える様子の無い巨大な火柱。それは私の心の底にあるへばりついて決して消えることの無い河童への恨みつらみなのだろうか。


 火柱の熱さによりクラクラとしてくる頭で私は考える。河童殺しの罪はムポポペサにおいてはどれ程の罪なのだろう。


 気がつくとリルちゃんの懸命な消火活動により火の勢いは弱まっており、なんとか火元に近づける様になっていた。


 恐る恐る現場に近づいてみると、そこには河童の黒焦げになった抜け殻が転がっており、凄惨な死をいとも簡単に想像させた。


 しかも抜け殻は一枚だけじゃなかった。


 一枚ではなく、二枚。


 現場には二枚あったのだ。黒焦げの河童の抜け殻が。




        —————————



「朱里のスキルはこれほどのものか。河童さん、きっと苦しむ間もなく燃え尽きてしまっただろうね」


「いやあ、脱皮して高速で砂の中に潜り込まなかったら丸焼きになってたのは間違いなかった」


「水魔術を全力で駆使してもなかなか消えない炎なんて初めてだったよ。朱里ちゃん凄すぎ」


「なんか俺の分泌液って着火剤みたいに燃えやすくてさ。でもキャンプとか行くと火おこし楽に出来ていいんだぜ」


「私の結界も結構ギリギリでしたからね。流石に焦りましたよ」


「そうそう、ギリギリ! 脱皮は年に一度しか出来ないからね。ヌーに攫われた時に使わなくて良かったよ」


「亡骸が二体!? もしかしてお銀さん!? ルシアはまだしも、お銀さんまでをも天に還してしまったの!?」


「そ、そんな! でも確かにルシアさんと一緒にいる河童さんなんてお銀さんしか考えられないよね」


「私、今から自首してくる。クリス、現場保持お願いね」


「まあまあ、いいじゃない。誰にでも間違いはあるわ。こうしてまた出会えた事を素直に喜びましょう」


 なんだよ!さっきから河童が話しかけてくるよ!こっちは今それどころじゃないんだよ!


「師匠、魔王就任おめでとうございます!」


「うるさいな! ちょっと待ってよ、今それ所じゃないんだから!」


 ったく、河童って種族は空気を読めないのかね?私も大概だけどコイツらも相当なもんだぞ。


 ……ん?河童?


「あ、あれ!? ルシアとお銀さん!?」


「師匠! ご無沙汰しております!」


「河童さん、お銀さん、すごいじゃないか。あの地獄の業火から生き延びるなんて」


「河童族は命の危機に瀕した時、自らの薄殻を高質化させてあらゆるダメージからその身を防ぐのよ」


「お銀さん! 良く分からないけど無事で良かったよー!」


「ふふ、心配させちゃってごめんね」


「師匠がここまで俺達の身を案じてくれるなんて。炎に包まれたかいがあるってものですよ」


 マジで今回ばかりは終わったと思った。無事で何よりだけど、次からマジで気をつけないと河童族以外なら死んでてもおかしくないよ。


「ルシアも無事でよかった。それにしてもなんでこんな所に?」


「師匠、実は報告がありましてここまで参りました」


「報告? なんだよ、そんな真面目な顔して」


「実はこの度ですね、俺とお銀は籍を入れまして」


「ええっ!? おめでとう! 尚更生き延びてくれてよかったよ!」


「ありがとうございます。実は、それともう一つありまして」


 な、なんだ?もしかしてスピーチ!?やめとくれよ、スピーチなんて出来ないよ。


 緊張でマイク握り締めて壊してしまうのが目に見えるもん。はっ!それとも司会、進行を!?


 私まだ十八だよ!?出来るかなあ?


 仕方がない。可愛くないけど、弟子の為だ。師匠として一肌脱がなくてはいけないか。


「俺とお銀を旅に同行させて頂けないでしょうか!?」


「いや、ダメだろ」


「な、何故!?」


「何故って、新婚の二人を旅に連れ回すのはちょっと」


「ルシアさん達って新婚旅行もまだでしょ? お銀さんだって可哀想だよ。振り回しちゃダメだと思う」


「河童さん、リルちゃんの言う通りだよ。せめて色々落ち着いてからの方がいいんじなないかい?」


「そ、そんな!」


「そうだよ。アンタはいいけど、お銀さんが可哀想だよ」


「お銀は分かってくれています!」


「せめて結婚式挙げて、新婚旅行を済ませてきなよ。それで落ち着いたら、もう一度お銀さんと話し合ってみて」


 私たちの旅は勇者を追う旅。


 決して安全とは言えないし、私だって天音を相手取って周りを気にする事が出来ないかもしれない。


 勇者の実力だって未知数だし、ここは適当に言い訳しておこう。


「せめて一年はゆっくりしなよ。やっと二人で落ち着けるチャンスなんだから」


 この一年で私自身どうなるか分からない。


 もしかしたらムポポペサに残って、まだ旅を続けているかもしれない。そうなった時はルシアを一緒に連れてって行ってあげてもいいと思う。


 だけど今回はダメ。


 もちろん二人の身の安全もあるけど、それ以上にルシアにケガでもさせたらお銀さんに合わす顔がないよ。


 たった今二人を殺しかけた私が言えた事じゃないかもしれないけど。


「……一年、ですか。その時は必ずお供させて頂けますか?」


「うん。約束するよ」


「分かりました。俺も渡鳥に攫われてから今日まで激動の日々でした。少し骨休めしても良い頃合いなのかも知れません」


 話を聞いていたお銀さんは少し嬉しそうだった。そりゃそうだよ。折角一緒になれたのに落ち着けないんじゃ、結婚した嬉しさも半減だよ。


「二人には僕達から結婚祝いを送っておくね。住所は河童の森でいいのかい?」


「クリス、ありがとう。故郷には帰ろうと思っている。だけどそんな気を使わないでくれ」


「まあまあ、そういう訳にもいかないからさ」


「ありがとう、クリスさん。森によったら今度は美味しい紅茶をご馳走させてね」


「それはいいね! 河童の森には感電しに行っただけだからね。次はいい思い出が作れそうだよ」


 こうして私達は二匹の幸せそうな河童と別れを告げる。次に二人に会えるのは一年後。


 それまで元気でな、ルシア。


「さて、魔術の使い方もなんとなく分かったし、少し休憩する?」


「そうだね、まともに休んでるの琥珀だけだよ」


「朱里ちゃんも少し休んだ方がいいよ。魔術って意外に疲れが残るから」


「しかもあの威力ですからね。使ってる魔力だって相当量だと思います。魔力切れでいきなり倒れたりなんて事もあり得ますよ」


「まあ、朱里に関しては平気そうだけどね」


「うん、今の所はなんの変化もないかな? だけど心に留めておくよ」


「とりあえず一時間位は休もうよ。僕、暑さで溶けかかってきちゃったよ」


「なんでお前が一番休みたそうなんだよ。ずっと水筒に入って癖に」


「僕に限らず、ミラもリルちゃんも疲れてると思うよ? 朱里のドタバタに巻き込まれたんだから」


 痛い所突いてきやがる。それを言われたら何も言い返せないよ。


「す、すいませんでした。でもね、私だってあんな事になるとは思わないじゃん!」


「まあ、何もなくて良かったですよ。とりあえず休みま、ん? 影?」


 影? さっきまで雲一つなかったのに。


「朱里ちゃん! 危ない!」


「うわあ! どうしたのリルちゃん!」


 まあ、この子ったら急にどうしたの?まさか押し倒して来るなんて。あたい嬉しい!


 でもこの暑さで汗かいてるから毛が!リルちゃんの換毛期も相まって顔が汗で毛まみれに!


「じゃなくて! やばい、クリスが!」


「クリスさん!」


「うわ! なんで!? た、助けてー!」


「ええ!? クリスちゃんが竜にさらわれちゃった!」





 竜!?


 まさかクリスが竜の餌に?


 お腹空いてたとしても絶対にやめた方がいいよ!アイツなんてただの喋る芳香剤だよ?


 絶対お腹壊すでしょ!

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