表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/71

優しい火。

 獄中生活が始まって何日目になるんだろうか?


 ここに来てから友達になったハダカデバネズミの荒井君もいつの間にか姿を現さなくなってしまった。


 荒井くん、寂しいよ。


 お銀は、師匠達は今頃なにをやっているんだろう。

 

 そして俺は何をやっているのだろう。思いつきの行動で高層ホテルをクライミングしたばっかりに。


 もう逃げるしかない。一刻も早くここから。


「河童、釈放だ。出ろ」


「釈放!? 疑いが晴れたのか!」


「いいから出ろ。迎えも来てるぞ」


 迎え?一体誰が?まさか師匠!?


 薄暗い牢屋を出て、囚人服を脱ぐ。そして俺は遂にシャバの空気を吸う事が出来た。


 く、眩しい。お天道様も俺を祝福してくれているんだな。


「ルシア!」


 迎えに来てくれていたのは師匠じゃなかった。お銀やっと逢えた。


「お銀!」


「逢いたかった」


「君が身元引き受け人に?」


「捕まったって聞いて驚いたわ。でも良かった、もう離さない」


「それは俺のセリフだよ。お銀、結婚しよう」


 こうして俺達は遂に結ばれた。


 早速、師匠達に報告しなければ。きっと驚くぞ。


 お銀と失った時間を埋めながら、師匠達を探しててムポポペサを一周しよう。それがいい。


 どうやら師匠は無事に魔王に就任したみたいだ。流石としか言いようがない。俺も負けてられないな。


 そして今、師匠達はムポポペサ第一区域に向かっていると噂を耳にする。


 なんだって!?ここから目と鼻の先じゃないか!


 俺とお銀は、はやる気持ちを抑え第一区域に向かった。


 しかしここはムポポペサ有数の砂漠地帯。河童の俺達にとってはまさに地獄。


 俺一人ならまだしもお銀が心配だ。


「引き返すなら今しかないか。お銀、戻ろう」


「ルシア! 見て! あれって朱里さん達じゃ無い!?」


 まさか!こんな強運が!?こんな事があっていいのか?


 この広い砂漠で行き先が同じとはいえ、数十分で師匠達と出会えるとは!


「おーい、師匠! クリス! リルちゃーん!」


 そうだ!今度こそ、師匠にお供させてもらおう!


 もちろん、お銀も一緒だ。


 遂に俺にも運が転がり込んできたようだな!




        —————————



 

「あ、暑くない!? こんな場所が私に振り当てられたの?」


「だってご主人様がどこでもいいなんて言うから」


 ムポポペサにこんな過酷な地域があったなんて!


 どこでもいいとは言ったが、まさか砂漠を渡る事になるとは。


 クリスに入ろうとしたけど、どうやら熱が弱点らしく、ほぼとろけてしまっている。


 水筒の中に入ってからというもの全く反応が無い。


「クリスちゃんほどじゃないけど、わたしも暑いのダメかもー」


「リルさんに限らずですよ。ここまで暑いんですね」


「あの岩山の影で少し休もうか。夜は気温が一気に下がるから余りゆっくりはできないけどね」


 ムポポペサ第一区域『蟻地獄』。


 ここには一つだけ大きな街があり、その周りには小さい集落が点々としてるって話だった。


 そこに大きなオアシスがあって、ここの地域に住む魔物や魔獣達は大体その周辺に集まるらしい。


「オアシスに住人が集まってるなら、サッサと皆集めて就任の挨拶して、そんで勇者がいなかったら、早く次の所向かっちゃおう」


「この環境は慣れてないと辛いですもんね」


「はあ、喉乾いた。皆、水飲むよね? わたし魔術で水出すね」


「ありがとう、リルちゃん! 私もパラソルとデッキチェア出そう」


「あ、水が緩い! むむむ、こうなったら! へんしーん!」


「リル、凄いじゃないか。そんな特技があったなんて」


「リルさん、素敵です!」


 あ、久々の魔法少女!い、いいなー!何回見ても羨ましいよ。


「今からこの岩山をくり抜いて、いい感じに凍らせます! えーい!」


「うわ、でっかいカマクラみたいなのが出来ちゃった! リルちゃん、すごーい!」


「さあ、入ってみて! 室温も調整しといたからね」


 カマクラの中は程よい室温で保たれており、休憩するにはもってこいの場所になっていた。


「じゃあ私はテーブルと椅子を出して、と。砂ついちゃうからトルコ絨毯も敷いとくね」


「僕は冷蔵庫から冷たい飲み物持ってくるね!」


「びっくりしたな! お前いつの間にか出てきたんだよ!」


「この環境こそ、まさにスライムが一番活動しやすい環境。湿度、室温共に文句なし!」


「そうなの? そりゃ良かったね。ミラと琥珀もちゃんと休んでね。寝ちゃったっていいんだから」


「じゃあ遠慮なく休ませてもらうよ。実はすごく眠くてね。出発の時に起こしてね」


 寝るの早っ。しっかりしてるから忘れちゃうけど、やっぱり琥珀は猫なんだね。


「ありがとうございます、リルさん。流石、朱里さんの側近ですね!」


「良かったあ! お役に立てて何よりです」


「ねえ、リルちゃん。いや、リル先輩」


「な、何? 急に先輩呼び?」


「魔術、教えて下さい」


「え、今!? 朱里ちゃん疲れてないの?」


「疲れてないよ、暑かっただけ。一つでいいの、変身させろなんて贅沢は言わないから」


「じゃあさ、目を瞑って『泥舟沈殿丸』でやってたみたいに座禅を組んでみて」


「座禅? わかった」


 座禅組んでどうすんだろ?とりあえず集中、集中。


「今から朱里ちゃんの適性を調べるからね。んー、あれ? 朱里ちゃんって精霊と契約した?」


「精霊? なにそれ? してないよ」


「なんかね、火の精霊が宿ってるよ。ステータス見てみたら?」


「なんで勝手に宿ってんだ? どれどれ。あ、本当だステータスに火の精霊の加護って書いてある」


「へえ、珍しいですね。精霊は気まぐれなんですよ。朱里さんの事がお気に入りなんですね、きっと」


「朱里ちゃん、ラッキーだね。勉強しなくても感覚で魔術使えると思うよ。ちゃんと集中して人差し指でいいから火を出すイメージしてみて」


「ライターをつける感覚がオススメです」


 ライターね。よーし、おりゃ。


 あ、あれ?うわ、うわわわわ!


「ええっ!? ちょっと朱里ちゃん! 抑えて、抑えて!!」


「うわあ、天井に丸い穴が。ライターって言うよりバーナーですね」


「上向けてて良かったあ。クリスに向けてたら焼き払うところだよ」


「実験台にされたくないから黙って見てたけど正解だったね」


 加減が難しいなあ。でも、嬉しい!


 魔法少女に少しは近づけたかな?


「もっと丸い形の優しい炎のイメージをしてみたらいいのでは?」


「そ、そうだね。手のひらサイズがいいよ。しっかり集中して、イメージすれば次は大丈夫だよ」


「大丈夫かな? 僕は嫌な予感しかしないよ」


「手のひらに丸くて優しい炎、か」


 よし、集中。そしてイメージ。


 優しくて、温かい、暖炉みたいなイメージ。


「わあ、朱里ちゃん上手だよ!」


「へえ、才能あるかもね。太陽みたいな馬鹿でかい火の玉が出たらどうしようかと思ったよ」


「すごい優しい色ですね。オレンジ色の素敵な色」


 な、なんか皆に褒められて嬉しいな。へへ、こりゃあ魔法少女になる日もすぐそこだね!


「ちょっと朱里? なんか大きくなってるよ? あつ。あっつ!! やばい! 逃げろ!」


「琥珀さん、起きて! ダメだ、琥珀さんを抱えて外出ましょう!」


「わわわわ、朱里ちゃん! 落ち着いて!」


「やばい、やばい! 私が外に出るよ! これどうしたらいいかな!?」


「オアシスと逆の方にぶん投げちゃってよ! 『蟻地獄』は皆そこに集まるから逆方向なら被害ないから!」


「な、なるほど! じゃあ、あっちだね!」


「朱里ちゃん、早く! もうすごい大きさになってる!」


 やばい、やばい、やばい!どうやって投げるんだ!?


 分かんないけど、あっちに向かって!!


「おりゃああああー! やった、投げれた!」


「また、随分と山なりに投げたね」


「うーん、焦ってたからね。とりあえず被害はなさそうで良かったよ」


「着弾したら恐らく広範囲に広がるので、私がシールド張りますね。皆さん、内側に入ってて下さい」


「朱里ちゃんのスキルで大火力になっちゃうんだね。それにしても、こんなすごい事になるなんて」


 マジでこれ仲間内に死人が出ちゃうよ。次から注意しないと。


 ……ん?あ、あれって。なにやってんだアイツ!


「おーい! 師匠、クリスー、リルちゃーん!」


「河童さんじゃないか! う、嘘だろう!?」


「ルシアさん! 逃げてー!!」


 なんでアイツが!?よりによって着弾地点にいるじゃねえか!


「あ、あれ? なんか頭がチリチリする。ああ、皿の水がみるみる蒸発していく! な、何故だ!?」


「河童さんのお皿の水が! お皿から凄い勢いで水蒸気出てるじゃないか! あ、いつものやつ始めちゃったよ」


「こんな時まで痙攣してるの!? ルシアさーん!」


「皆さん、伏せて! 着弾します!」


「ぐ、ぐわあああああああ!」


 うわ、直撃した。我ながらやばい事しちゃったよ。


「すっげえ火柱。これ絶対に河童さん死んだよね」


「な、なんでこのタイミングで火球の真下に? タイミング悪すぎるよ」





 激しく燃え盛り消える事のない火柱を見つめながら、私は河童の規格外の耐久性を信じるしかなかった。


 頼む、生きててくれ。


 多分、ダメそうだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ